request's short stories


桜が舞う風に乗って運ばれてきた、どことなく人工的な香り。
すんすん、と鼻を鳴らすようにしてその匂いを追いかけてみる。
追いかけて、少し先にいたのは……。

目の前には桜色の髪を持つ人じゃなく、長い黒髪を風に揺らして歩く姿。

あの匂いの正体はこの黒髪だった。
後ろから近づいてみると、その匂いも近くになり、そしてソイツは振り向いた。

ネジには気付かれていた。

「……ナルトか。なんだ?」

「いや、えーと、桜キレーだなあって歩いてたらお前がいたからよ」

まさか、匂いを追いかけていたら辿り着いたとは言えずに、しかしあながち嘘でもない。

「そうか」

一言そう言って再び、前を見据えて歩き出したネジからまたふわりと香る、あの香り。
遠かった匂いが、そばに寄ることで近くでほんのり香り続ける。
飽きないぐらいのほどよい加減が心地良い。

「なあ、お前ってさシャンプーにこだわりあんの?」

「なんだ? 突然」

「いや、いい匂いすんなーって思ってよ」

ネジは一瞬何かを考えて “ああ” と、その何かを思い出したような声を洩らした。

「春限定の香りだとかでテンテンが新しいシャンプーを買ったらしくてな、それについていたお試し用の物を使ってみてと言われてもらったんだ」

ナルトは、“へえ” と生返事を返す。

「だがしかし、そんなに匂いが強いとは……テンテンに注意しないといけないな」

忍としては匂いの放つものなど、任務に支障をきたす場合がある。

「まあ、お前はただのお試しだろ? じゃーいいじゃん。テンテンもたぶん任務があるときには使えないって気付いてると思うってばよ」

「そうだな」

黒髪から香る桜の香り。

(サクラちゃんからだったら、もっと似合ってたかもしんねえ……)

だが、こんなに香るのもネジの髪が長いからなのかもしれない。
これはこれでいい匂いだし、いいか、とナルトは春の道を桜の香りと共に歩く。



THE END





ほのぼのか分かりませんが、せっかく春なので春っぽいのを意識してみました。
気に入っていただけると幸いです!
この度はリクエストありがとうございました!






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