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LEE SIDE




昼下がり────……

今日も今日とてリーに勝負を挑まれたネジはいつもの演習場にて、リー曰く青春の汗とやらをかいた。

「今日もオレの勝ちだな、リー」

「でも、昨日よりはボクの蹴りが当たりました! キミを超す日も近いですよ。覚悟しといてください!」

ネジが勝ち誇ったように、だが爽やかに笑いかけると、リーは悔しそうにしながらも嬉しそうにそう宣言した。

ぐう、と腹の虫が鳴くのが聞こえた。

「……お腹空きましたね。もうお昼ですし何処か食べに行きませんか。それと、ボクが負けたからボクが奢ります! これは賭けです! 次、ネジが負けたらその時は中辛カレーをお願いします」

「いやいや、待て。勝手に話を進めるな。賭けってなんだ……。お前、綱手様に診てもらったせいか賭け好きが移ったのか……」

「違いますって。これは自分ルールみたいなものです。ボクだって奢り続けるのは嫌ですから。キミに一日でも早く勝てるように枷をつけたのです。とにかく悔しいですけど、今日はボクの奢りです」

「……そうか。では遠慮なく奢られるとするか。にしんそばだ。にしんそばを奢ってくれ」

「えー……ボク、カレーが良かったんですけど」

「奢られるのはオレなんだろう……? 好きなものじゃだめなのか……」

「冗談ですよ。にしんそばですね。その店は何処にあるんですか?」

「ここからそう遠くない。行きつけの店なんだ。案内する」

ネジはくるりと反対方向へと足を進めた。リーはその後を小走りで追った。


蕎麦屋の暖簾が見えた。
きっとここだろう。

ネジがその暖簾を慣れた手つきで潜り、空いている席を探すため中を見回した。
お昼時で、混んではいたが、奥の方に丁度二人席が空いていた。

ネジがその席へ向かい、リーもそれに続く。

「いらっしゃいませ! ご注文が決まりましたらお呼びください」

店員がテーブルにお冷やを二つ置き、お決まりのセリフを言った。

「ああ」

ネジは、店員の顔は見ずに返事を返した。

ネジは既に来る前から注文が決まっていたため退屈そうにリーが決めるのを眺めていた。

「オススメはありますか?」

「にしんそばだな」

「んー……キミが頼むんだから、ボクはそれを頼みたいとは思わないんですよね。食べたければ少し貰いますから」

(いや、食べたければ自分で注文すればいいのではないか……)

ネジは心でそう悪態をついたが、奢られる身のため口には出せず、無言で溜息を吐いた。

「……決まりました! 天ぷらそばにします! この店の一番オススメだと、ここに書いてますから!」

そう言うとリーはメニュー表の左上の文字と写真を指差した。
ネジはそれをチラリと見ると、あまり興味無さそうに目線をそれから逸らした。

「……そうか、では店員を呼ぶぞ。すみません、 注文いいですか」

通りかかった店員が駆けつけてくる。

「ご注文をお伺いします!」

「にしんそば一つと、天ぷらそば一つ頼む」

「にしんそばと、天ぷらそばですね。かしこまりました。ごゆっくりどうぞー」

店員は機械のように注文を復唱し、接客スマイルで忙しそうに去っていった。
先程出されたお冷やはコップに水滴が沢山できて、触れると指が濡れた。
お冷やを口に軽く含んで、注文したそばの味を想像しながら待つ。

「ネジ、前々から思ってたことなんですが……」

ネジはコップからリーに視線を移した。

「ネジはナルトくんの事、すごく可愛がってますよね。後輩としてというか、なんというか。ずっと思っていたんです。微笑ましいなあって」

ネジは急にナルトの名が出たせいか、少しだけ驚いた表情をした後、“ああ” と一言。

「ナルトくんの事、聞かせてくれませんか。 キミが認めるぐらいの男なんです。きっとナルトくんは凄い人なんでしょうね」

ネジは自分が褒められたかのように微笑んだ。

「……ああ。その通りだ。ナルトは凄い奴だよ」

少しの間生まれた沈黙を破るように店員の声が響いた。

「お待たせしました! にしんそばと、天ぷらそばですね。ごゆっくりどうぞ!」

テーブルにことっと置かれた、注文したそば。

「……もし、ナルトに奢られるのなら、にしんそばではなくラーメンなんだろうな……ふふっ」

ネジは可笑しそうに、目の前のにしんそばを食べるべく割り箸を割り、そう呟いた。

「……ネジはナルトくんにはにしんそばが食べたいという我儘は言わないんですか」

「言わないわけじゃないが……。それにナルトはお前みたいにあっさりオレに譲らないだろうしな」

「キミは、ナルトくんに奢られたいというより奢りたいっていう風に見えますよ」

「……まあ、歳上が歳下に奢られるだなんて癪だからな。ナルトには奢ってやりたい方だな」

ネジは垂れてくる横髪を耳に掛けると、そばを啜った。

「ネジにとってのナルトくんの存在とはどういうものですか」

「オレにとってのナルトは……、」

「いえ、やっぱりいいです」

「……? なぜだ」

「口で言わなくても、キミの顔を見てれば分かりましたから。キミにとってのナルトくんは太陽みたいな人なんですよね!」

「まだ何も言ってないだろう……」

「否定しないじゃないですか」

「否定する余地がないからな」

「ネジ、もしナルト君に奢られる事があれば、にしんそばを奢ってもらっちゃダメですよ」

リーはナルトへと少しの対抗心をちらつかせそう言った。



(こうやって対等な立場でネジに奢るのはボクだけであってほしいんです……!)





NARUTO SIDE



ぐう、と腹の虫が鳴る。

ナルトはお腹に手を当て、しょんぼりとした顔をした。

なぜならナルトはこの日、家に財布を忘れてきたのである。
家に取りに行けばいいのだが、わざわざそれをする気にもならず空腹を我慢していた。

ナルトはトボトボと、お昼真っ只中の飲食店が騒がしい通りを歩いていた。

前方に目立つ長髪が見えた。

「……ネジ!」

彼は自分が呼ばれた事に気付き、ハッと声がした方を見た。

「ナルトか。……どうした。元気ないように見えるが?」

「なんでわかるんだってばよ!? ……まあ、いいや。それがよォ、今日家に財布忘れちまって、昼飯どうしようかって思ってて……」

ネジはナルトがあまりにもしょぼんとした顔をしていた為、放ってはおけなかった。

「……はぁ。仕方ないな。奢ってやる」

「……えっ!? 本当!? いいのォ!? ネジってば、サンキューだってばよ!!」

ナルトはみるみるうちに顔に笑みが溢れ出し、まるでワクワクキラキラといった擬音まで聞こえてきそうである。

「オレさ! オレさ! 一楽の味噌チャーシュー大盛り食べたい!」

「ラーメンばかり食べていると栄養偏るぞ……」

「そういうお前は、いつも何食べてんだってばよ……」

ナルトはむう、と顔を顰め尋ねた。

「……何、と言われてもな。満遍なく食べてるつもりだが……。最近は週に三日は昼飯はにしんそばだな」

「なんだってば! ソレ! お前に栄養うんぬん言われたくねえってばよ!」

「奢ってもらうというのにその態度はなんだ? ナルト。なんならこのままオレはいつもの行きつけの蕎麦屋で一人だけで昼飯を食べて帰ってもいいんだぞ」

「ごめんなさあい!! オレってば今日スッゲェ厳しい修行してたんだってばよ! 腹減って死にそうなんだってばよ……!」

「……ふふっ、冗談だよ。一楽に行くんだろう? 早く着いてこい」

そう言うとネジはスタスタと早足で歩き始めた。

「う、うん!」

ナルトは駆け足でネジの隣まで来た。



白地に赤の文字の暖簾が見えた。
こじんまりとした小さな店舗だ。

「へい! いらっしゃい!」

「おっちゃん! 味噌チャーシュー大盛りで!!」

「よお! ナルトォ! 昨日はサクラと来てたよな!そっちの子はなんと言うんだ?」

「こいつ、オレより一個上で、ネジってんだ! 日向ネジ!」

当のネジはナルトと一楽の店主ことテウチの仲の良さに入っていけず、ぽかんとしていた。

「日向……、あの日向か? へえ、ナルトにもそんな名門の友達がいたのかあ! よろしくな、ネジ君!」

ネジはいきなり自分に話が振られ一瞬びっくりしたがすぐに返事をする。

「……あ、ああ。宜しくお願いします」

「ネジってば、注文は決まってるか?」

「では、オレは塩ラーメンを頂こう」

「はいよっ! ちょいと待ってな!」

一楽の看板娘、アヤメが二人の前にお冷やを置いた。

「サンキュー! アヤメのねえちゃん!」


「はいよっ、お待ちッ! 味噌チャーシュー大盛りと塩ラーメン!」

二人の前に、注文したそれぞれのラーメンが置かれた。

「いっただきまああす!」

ナルトはパンッと手を合わせ、早速ラーメンを啜り始めた。
そんなナルトを少しだけ見て、ネジも静かに口を開いた。

「いただきます」

パキッと割り箸を割り、麺を挟んで掬い、啜った。

「美味いな……」

「だろォ!? 一楽のラーメンは木ノ葉一だかんな! 次来るときは味噌チャーシュー食うといいってばよ! オレのオススメだ!」

「ふふっ……ああ。そうするとしよう。次はお前が奢る番だけどな。今日の借りをそのオススメの味噌チャーシューとやらで返すんだ」

「えぇー!? そりゃねえってばよ! お前ってば、ケチだな!」

「次の味噌チャーシュー楽しみにしているぞ」

ネジはムキになるナルトを揶揄い、面白そうにほくそ笑んだ。

「ん、まあ、仕方ないってばよ。次はオレが奢ってやる! 一楽の味噌チャーシューファンを増やすためだ!」

ナルトは再び目の前の味噌チャーシューラーメンを啜り始めた。


暫く二人の間には、ふうふうと熱を冷ます息と、ズルズルと啜る音と、外を行き交う人の声や足音、目の前のテウチがラーメンを茹でる音だけが大きく響く。


ナルトが沈黙を破った。

「あのよォ、前から思ってたんだけどさ、ゲジマユとはいつからライバルなんだ?」

「リーか……。 あいつとは、そうだな。下忍になりたての頃からかな。下忍になる前からリーはオレの事をどう見てたかは知らないが、少なくともオレがリーと勝負するようになったのは、下忍になりたての頃からだ」

「ふーん……、ゲジマユは今まで何回お前に勝てたんだ?」

「さあな。恐らくオレの認識する限りではあいつが勝ったことなどないだろう。そういえばこの前、自分ルールなどと言ってリーがにしんそばを奢ってくれたんだ。奢り続けるのは嫌だから早く勝ちたいと言っていたな……」

「へえー、ていうかよォ、あいつってばカレーが好きだったよな。確か」

「ああ。だがオレがにしんそばを食べたいと言ったらあっさり譲ってくれたな。だが、次オレが負けたら中辛カレーお願いしますって言われたが、ふっ…、いつになることやら……」

苦笑しながらそう言うネジの横顔を、ナルトは物珍しそうな顔で見つめた。

「……やっぱ、今日の借りはにしんそばで返すってばよ。味噌チャーシューはまた今度それとは別に一緒に食いにこようぜ!」

「……ん? 別にオレは味噌チャーシューでいいんだが」

「いや、いいんだってばよ!!」


ナルトは努力が天才を超えることを望んでいるはずなのにそれとは矛盾した選択した。
そして、リーへの少しの対抗心から借りを返すのはにしんそばで、と決めたのだった。

「ゲジマユに簡単にカレーなんか奢ってやるなってばよ」



THE END








あえてリーとナルトを離して書きました。
嫉妬や対抗心の中にほんの少し幼い可愛さを意識して書いたつもりです。。

お気に召して頂ければ幸いです(*^o^*)

リクエストありがとうございました!






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