もしも・・・


過酷なサバイバルを無事突破したと思いきや急遽その場で行われることになったタイマンでの試合。
第二の試験で思ったよりも勝ち残りが多かったらしい。
試験官が言うには今年の試験は甘かったというが果たしてそうだろうか。

電光掲示板にランダムに試合相手の名前が表示されるたび、リーの心は期待と落胆を繰り返した。
強い奴と戦いたい。
逸る気持ちを抑え、繰り広げられる戦いを見届けていく。
ナルトとキバの戦いが終わり次の試合へと移った。
電光掲示板に無機質に表示された名前。

"ヒュウガ・ヒナタ VS ヒュウガ・ネジ"



◇◇◇


運命のいたずらのようなこの試合はネジの圧勝だった。
木ノ葉の下忍で最も強い男は身体的なダメージは、ほぼ皆無であった。
ヒナタのために大声を張り上げたナルトの応援の甲斐も虚しく、
試合は上忍複数名の判断により強制的に終了した。


『宗家と分家という運命の中で…迷い苦しんでるのはあなたの方…』

先程ヒナタが放った言葉がリーの頭の中で繰り返される。
そして、ネジの心の闇を垣間見た気がした。

(あんなに激昂しているネジを見たのは初めてだ…)

同じ班といえども、日向一族については深くは知り得ないし、ネジもあまり話したくはないようであったので、これまでどうしてネジが運命というものに拘るのか、リーはきちんと考えたことがなかった。
戦いに挑んでは負け続けるリーに対していつも、ネジが口癖のように言っていた言葉がある。

『これは決まっている事だ』

ああ、腑に落ちたと、同時にリーには別の思いが駆け巡る。

努力の力で天才を上回る、それを証明できたら…
きっと己の忍道の達成だけでなく、ネジを、かけがえのないライバルを救い出せる。
ただネジとの勝負に勝つだけでは駄目である。
ネジを闇から救い出した時こそ、本当に己の忍道が達成できたと証明される瞬間でもあると────

(そしたら、キミは運命なんてものを頑なに信じる事ができなくなります、きっと)



◇◇◇


「おい、そこのお前」

慌ただしい雰囲気の中、ふいにネジの低い声によりその場の空気が変わる。
上忍に取り押さえられたためか、やや苛立っているようにも見える。

「お前に二つほど忠告しておく。忍びなら、見苦しい他人の応援など止めろ。それともう一つ。しょせん落ちこぼれは落ちこぼれだ。変わることなどできない」

ヒナタの諦めの悪さとナルトの劈くような大声の声援がネジにとっては余程癪に障ったのか、いつもよりもいっそうネジの言葉は冷たく、トゲがあるように聞こえた。
近くにいたリーにはナルトの拳がわなわなと震えているのが分かった。

「試してみるか…」

ヒナタとの試合中ずっとネジの言動に我慢がならなかったのだろう、ついにナルトがネジの元へと一直線に駆け出した。
そこへ、リーもすぐさま駆け出すべく体が動いていた。
ナルトがネジへと拳を突き出すと、リーはその間に割って入った。

「ナルトくんの気持ちは痛いほど分かります…。しかし、勝負はちゃんとした試合で行うべきです!」

リーとて、ネジとスリーマンセルを組んだ頃から毎日のように勝負に挑んではボロ負けして、散々 “落ちこぼれ” などと貶されてきたので、正直ナルトが苛立つ気持ちも理解出来た。
しかし、今は試験中であり、それ以上にリーにとって、ネジはチームメイトであり、ライバルであった。

抜け駆けなんて許せない。


「落ちこぼれが天才を努力の力で打ち負かす……。本戦が楽しみじゃあないですか…。最も彼の相手はボクかも知れませんがね」


「もし、それがナルトくんの方だったとしても……、恨みっこ無しです!!」

「…分かったってばよ」

ナルトはしぶしぶ納得してくれたようだ。


◇◇◇



リーには今回こそは自信があった。
ネジに勝つための必殺技を持っていた。
まさか、ネジに使う前に本人に見られるとは思ってもいなかったのだが、リーは自身の試合の最中に盗み見たネジの表情でその必殺技で打倒ネジも夢ではないと確信した。


(キミの運命論が崩れ去る日も近いですよ、ネジ)




◇◇◇


一か月後。
リーは松葉杖をついてガイと共に本戦会場へと訪れた。
どうやらネジは負けたらしい。

(……やりましたね! …ナルトくん…!!)

恨みっこ無しとは言ったものの、リーの心中は穏やかではなかった。
ナルトはナルトで落ちこぼれが天才を打ち負かすことをやってのけた。素直に尊敬に値する。


(ボクが一年かけても倒せなかったネジを…出会って間もないルーキーのナルトくんが…)

(ボクのチームメイトであり、ボクのライバルであるネジは、ボクが初めて倒したかった…)


ナルトもサスケも、どんどん手の届かないところまで行ってしまった気がする。
あんなに倒したかった天才は突如現れた、己と同じ落ちこぼれに敗れ、己が勝ち誇り驕っていたうちはの天才は、やはり天才だった。
やるせなさと、自分自身への怒りにも似た感情などが胸の中で渦巻いて、リーの全身は息んで震えた。




(…………何でだ……何でこんなに……くやしいんだ!!)






◇◇◇


三代目火影や、数々の忍び達の尊い犠牲の末、
木ノ葉崩しも落ち着き、里に平穏が訪れた頃。

ネジはすっかり変わった。
以前に比べ、憑き物が落ちたかのように、心做しか表情が柔らかい。
時折、リーの病室へ見舞いにやって来ては他愛もない世間話などをしてくれる。
複雑骨折で、無理が出来ないリーの体を気遣って、どこかへ移動の際は肩を貸したりしてくれる。
今日はテンテンも見舞いに来てくれた。


(ナルトくんが、ネジをここまで…変えたのか…)




「…リー、オレの負け試合…見てたのか…?」

ふいに問い掛けられた質問にリーは少しだけビックリする。
心の中を見透かされていたのか、単なる偶然か。ネジはそんなリーに構うことなく話を続けた。

「…なぁ、リー…オレは今まで…」

それからネジは伏し目がちで、何かを思案しているようで、そして何かを言いかけてやめた。
そして、今度はハッキリとした意志を宿した白眼とリーの戸惑い気味の丸目とがかち合った。

「リー、いつかお前の剛拳とオレの柔拳……どちらの拳が上か……本気で闘ってやる……。ただし……オレの目の黒い内は負けはしない!」

「…それを言うなら目の白い内はじゃないの?ネジの場合!」

「ん…? ああ…うん…。まぁとにかく…ライバルとしてオレが居るってことだ」


リーは少しの間、口がきけずにいた。
ネジの言葉を一語一句聞き漏らさずまいとし、それを頭で反芻したのち、感激のあまり、口元、否、全身を震わして、そして滝のような熱い涙を流した。

テンテンのツッコミとネジの天然ボケのやりとりが、視界がうるうると歪んであまり見えない。
リーは泣きすぎてしゃっくりが止まらなくなったが、漸く落ち着いた頃、涙を己の腕で拭うと真っ直ぐにネジの眼を見た。

「ありがとう、ネジ。キミは一生に一度のボクの永遠のライバルです。怪我が治ったら…次こそボクが勝ちます」

「…ああ」



(ナルトくん…ネジを、ネジを救ってくれてありがとう……)




THE END





ナル←ネジ←リーが好きな私としては、

リーのこのセリフ、

「落ちこぼれが天才を努力の力で打ち負かす……本戦が楽しみじゃあないですか…最も彼の相手はボクかも知れませんがね」
「もし、それがナルトくんの方だったとしても……恨みっこ無しです!!」

たまらんかったです。
ボクかもしれませんって、ネジに勝つことを抜け駆けなんてさせたくない的なリーからナルトへの牽制にも見えてきて(腐ィルター)
でもリーは良い子なんで、ナルトが倒したとしても恨みっこ無しとか言っちゃうんですね。

リーは裏蓮華でネジを倒せたとも思うんですよね。
もしも、リーがネジの心の闇に気づいて、救えるチャンスがあったとしたら?ってifで想像してたけどリーとネジは対等な関係がやっぱ好きだった。
矢印←ばかりの一方通行カプだけど、目に見えない矢印は双方から出てるとは思いますね。

ナル(ネジ死後) →←ネジ→←リー
ネジからリーに向かって出ている矢印はナルトに向けてとは別の感情ですね。『好き』の気持ちはなにも1つだけでは無いし、何かしらの感情でお互いがお互いを思っているよという。詳しくはリネジ詳細 を。

話の内容自体は全然カプぽくないし、原作台詞引用多いけどリネジは男の友情が全面に出てる位が好き。

220105






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