すおさく
靴紐の結び方を知らない、と彼は言った。
店で買った時から解かないでそのまま使っているらしい。
彼は喧嘩以外でもよく動き回るから、結び方を知っているといいよ、とオレは言った。
結べない彼の代わりに、解けないようにきつめに結んであげた。きつく、きつく。自分の強欲さを身に染みながら。
服の選び方を知らないと、彼は言った。寒さをしのげて着ることが出来ればそれでいいらしい。
彼は綺麗な白い肌をしているから、それを着飾ってみたくなった。ミモザ色の友人にそれを相談したら、とても浮き足立って服を選び始めた。マネキンになった彼は顔を紅潮させ、動かないようにカチカチに固まっていた。
少し、嫉妬した。
次の日、彼を家に呼び、オレの服をプレゼントした。お下がりでごめんね、と言うと彼は「なんで謝るんだ?お礼言うのはこっちだろ」とキョトンとした。
違うんだ。謝らなきゃいけないんだ。オレは。
オレの服に袖を通した君の姿が、ひどく官能的に見えてしまったから。
花火をしたことがないと、彼は言った。
夕暮れ時に河原に行き、友人達と一緒に手持ち花火をやった。
花火が噴き上げた瞬間、彼は驚きの表情をして身体が硬直していた。
そして、東雲色の目と黄昏時の目は、花火のカラフルな色を映して輝いていた。
その瞳がオレだけのものになれたなら。
彼が花火を堪能している間、ずっとそう思っていた。桃色の友人から「見すぎ」と一言釘を刺されて苦笑してしまった。
独占したい。
好きだから。
愛おしいから。
でもオレの好きな彼は、絶対にオレのものにはならないだろう。自分の芯を持った彼は、誰のものにもならない。
だから好きなんだ。
なら潔く、彼の心を引き出せる方法を選ぼう。オレのものにならなくとも、彼の心をもっと見たいから。
我がクラスの2代エースとして、彼と紺色のクラスメイトを組ませた。
2人とも、お願いね。
その言葉に、思いの外彼はあっさりと了承した。
チクリと胸が傷んだが、同時に嬉しくもあった。沢山の人から愛されている彼は、魅了している彼は、オレだけのものじゃない。その自覚が生まれたのに。
真っ直ぐと前を向いている彼。
街を守ること、誰も傷付けないことを決めた強い瞳。
ああ、そんな君だから、オレは好きなんだ。
靴紐がきつく結ばれたままの靴を履いている。時折、確かめるように紐の結び目を撫でているのをオレは知っている。
オレのお下がりの服を着て出掛けているのを知っている。
何度もなじられ気味悪がられたその目が、オレの教えた世界で上塗りされているのを知っている。
さて、長くなりましたが、以上を持ちまして片恋は終わります。
次彼に会う時には、指を絡ませていることでしょう。
店で買った時から解かないでそのまま使っているらしい。
彼は喧嘩以外でもよく動き回るから、結び方を知っているといいよ、とオレは言った。
結べない彼の代わりに、解けないようにきつめに結んであげた。きつく、きつく。自分の強欲さを身に染みながら。
服の選び方を知らないと、彼は言った。寒さをしのげて着ることが出来ればそれでいいらしい。
彼は綺麗な白い肌をしているから、それを着飾ってみたくなった。ミモザ色の友人にそれを相談したら、とても浮き足立って服を選び始めた。マネキンになった彼は顔を紅潮させ、動かないようにカチカチに固まっていた。
少し、嫉妬した。
次の日、彼を家に呼び、オレの服をプレゼントした。お下がりでごめんね、と言うと彼は「なんで謝るんだ?お礼言うのはこっちだろ」とキョトンとした。
違うんだ。謝らなきゃいけないんだ。オレは。
オレの服に袖を通した君の姿が、ひどく官能的に見えてしまったから。
花火をしたことがないと、彼は言った。
夕暮れ時に河原に行き、友人達と一緒に手持ち花火をやった。
花火が噴き上げた瞬間、彼は驚きの表情をして身体が硬直していた。
そして、東雲色の目と黄昏時の目は、花火のカラフルな色を映して輝いていた。
その瞳がオレだけのものになれたなら。
彼が花火を堪能している間、ずっとそう思っていた。桃色の友人から「見すぎ」と一言釘を刺されて苦笑してしまった。
独占したい。
好きだから。
愛おしいから。
でもオレの好きな彼は、絶対にオレのものにはならないだろう。自分の芯を持った彼は、誰のものにもならない。
だから好きなんだ。
なら潔く、彼の心を引き出せる方法を選ぼう。オレのものにならなくとも、彼の心をもっと見たいから。
我がクラスの2代エースとして、彼と紺色のクラスメイトを組ませた。
2人とも、お願いね。
その言葉に、思いの外彼はあっさりと了承した。
チクリと胸が傷んだが、同時に嬉しくもあった。沢山の人から愛されている彼は、魅了している彼は、オレだけのものじゃない。その自覚が生まれたのに。
真っ直ぐと前を向いている彼。
街を守ること、誰も傷付けないことを決めた強い瞳。
ああ、そんな君だから、オレは好きなんだ。
靴紐がきつく結ばれたままの靴を履いている。時折、確かめるように紐の結び目を撫でているのをオレは知っている。
オレのお下がりの服を着て出掛けているのを知っている。
何度もなじられ気味悪がられたその目が、オレの教えた世界で上塗りされているのを知っている。
さて、長くなりましたが、以上を持ちまして片恋は終わります。
次彼に会う時には、指を絡ませていることでしょう。
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