Family's Birthday
「うん!」
にこにこと楽しそうな蒔哉。
多分あんまりしっかり理解はしてないんだろうけど……。
先に李依が宿題を終えて、お風呂ー、と言うので湯加減を見に席を立つ。
蒔哉は多分(いや絶対)、浅海と入りたいっていうだろうから……後でいいか。
李依が着替えなどを持って来たので、俺は風呂場を後にする。
蒔哉も何とか宿題を終わらせて、何故か万歳をしていた。
えらいえらい、と拍手をしてやる浅海。
といれー、と蒔哉が椅子から下りて駆け出す。
「ありがと浅海。助かった。蒔哉駄々捏ねてたもんで」
「あはは、どっちかつーと文系っぽいもんな、蒔哉」
俺は浅海と自分の飲むお茶を淹れながら、にしても、と呟く。
「なーんかとんでもない展開になってたんだなぁ……親父」
浅海に湯呑みを渡して、俺も座る。
だな、としみじみ頷く浅海。
親父はその専門分野界隈では結構な有名人らしく、書籍も出しているし、雑誌のインタビューなんかも受けている。
時々新聞や雑誌の表紙で名前を見付けて「あれ、これ親父の名前といっs……親父だ!!」となったことが何度有ったことか。
流石に気になって仕事内容を訊いたことがあるんだけど、「何かこれこれこういう感じの研究をしている」くらいの説明しかしてくれなかった。
その言葉を基に自分でも調べてみたけど、まだ知名度の低い研究なのか、あまり情報は出て来なかった。
だからなのかな。
「俺さ、昔思ってたんだよ。親父からしてみれば、息子とは言え素人だから、話でも意味ないのかなーって」
頬杖を付いて、溜め息を零した。
それは、ちょっと子供心にがっかりする状態だった。
物心ついてからも、よく分からないままの親父のことを知るチャンスもなくて。
嫌いとかそういうわけじゃないし、一緒にいられることはいられるけど、どう接していいのか分からないままで。
本当はもっと話をしたいし、親父をそこまで夢中にさせているものについて、ちょっとでも理解をしたい気持ちもあったんだ。
だけど、親父は教えてくれない。
それは俺が、親父にとっては話す価値のない相手だからなのかな、と。
何か、寂しかったなぁ。
なのにこんな凄い勲章を貰ってしまって。
知っている人にはきっと偉大な存在なんだろう。
そう思うと……何で家族である俺の方が知らんのか、とちょっと拗ねてしまう。
悔しいじゃん。
なんて、ちょっと無意識に、愚痴を零していた。
そんな俺の愚痴を静かに聞いて、浅海はお茶を飲む。
それから、ちょっと考えながら口を開いた。
「本当にトップレベルの専門家にもさ、種類ってあると思うんだよね」
「ん?」
浅海のそんな切り出し方に、俺はきょとんとなる。
浅海は視線を動かしながら、例えばさ、と続けた。
「発見したことを一刻も早く発表したい学者とか、何回も検証を重ねた上で静かに報告するタイプとか、個人差ってあると思うんだ。これは俺の見方だけど、裕の親父さんは後者寄りで、その上多分他人のためにはやってない気がする」
浅海は湯呑みを置いて、腕を組む。
「あの人はひたすら、物事の謎が解けていくことが楽しくて、新たな発見と遭遇出来ることが好きで仕方ない。今まで分かったこととか、それをまとめるよりも、次の発見を先にしたい。だから言い方は悪いんだけど……裕や他人に説明するっていうことの優先順位が、低いだけなんじゃないかな」
……。
そう、なのか?
そんな人もいんの、と俺はちょっと訝しげに訊き返してしまう。
いると思う、と浅海が頷くので、ふーむ、と受け止めた。
まぁ確かに、他人の性格なんてもんは、相当親しくしていても分からない部分がある。
俺にとって、浅海にも多分、まだ知らない面があるように。
だったら尚更、親父の人間性なんか、分からないか。
そっか、とやっぱり肩を落としてしまう。
そんな俺に、でもさ、と浅海が笑う。
「ある程度、素人でも分かるくらいの成果が、今回出たってことだから。祝賀会では酒も入るし、案外教えてくれるかもよ、親父さん」
ようやく、喋れる余裕が出て来た。
……だと嬉しいな。
「期待しよ」
嬉しくて口元がにやける。
李依が風呂から出て来たらしい物音と、次に風呂に入ろうと準備していたらしい蒔哉が、浅海を呼びに来た。
はいはい、と浅海が立ち上がりがてら、あー、と思い出したように呟く。
「そういやうちの兄貴のとこも、2人目産まれたって言ってたな」
「えっ! まじ!? 見たい見たい!!」
2018.5.12
にこにこと楽しそうな蒔哉。
多分あんまりしっかり理解はしてないんだろうけど……。
先に李依が宿題を終えて、お風呂ー、と言うので湯加減を見に席を立つ。
蒔哉は多分(いや絶対)、浅海と入りたいっていうだろうから……後でいいか。
李依が着替えなどを持って来たので、俺は風呂場を後にする。
蒔哉も何とか宿題を終わらせて、何故か万歳をしていた。
えらいえらい、と拍手をしてやる浅海。
といれー、と蒔哉が椅子から下りて駆け出す。
「ありがと浅海。助かった。蒔哉駄々捏ねてたもんで」
「あはは、どっちかつーと文系っぽいもんな、蒔哉」
俺は浅海と自分の飲むお茶を淹れながら、にしても、と呟く。
「なーんかとんでもない展開になってたんだなぁ……親父」
浅海に湯呑みを渡して、俺も座る。
だな、としみじみ頷く浅海。
親父はその専門分野界隈では結構な有名人らしく、書籍も出しているし、雑誌のインタビューなんかも受けている。
時々新聞や雑誌の表紙で名前を見付けて「あれ、これ親父の名前といっs……親父だ!!」となったことが何度有ったことか。
流石に気になって仕事内容を訊いたことがあるんだけど、「何かこれこれこういう感じの研究をしている」くらいの説明しかしてくれなかった。
その言葉を基に自分でも調べてみたけど、まだ知名度の低い研究なのか、あまり情報は出て来なかった。
だからなのかな。
「俺さ、昔思ってたんだよ。親父からしてみれば、息子とは言え素人だから、話でも意味ないのかなーって」
頬杖を付いて、溜め息を零した。
それは、ちょっと子供心にがっかりする状態だった。
物心ついてからも、よく分からないままの親父のことを知るチャンスもなくて。
嫌いとかそういうわけじゃないし、一緒にいられることはいられるけど、どう接していいのか分からないままで。
本当はもっと話をしたいし、親父をそこまで夢中にさせているものについて、ちょっとでも理解をしたい気持ちもあったんだ。
だけど、親父は教えてくれない。
それは俺が、親父にとっては話す価値のない相手だからなのかな、と。
何か、寂しかったなぁ。
なのにこんな凄い勲章を貰ってしまって。
知っている人にはきっと偉大な存在なんだろう。
そう思うと……何で家族である俺の方が知らんのか、とちょっと拗ねてしまう。
悔しいじゃん。
なんて、ちょっと無意識に、愚痴を零していた。
そんな俺の愚痴を静かに聞いて、浅海はお茶を飲む。
それから、ちょっと考えながら口を開いた。
「本当にトップレベルの専門家にもさ、種類ってあると思うんだよね」
「ん?」
浅海のそんな切り出し方に、俺はきょとんとなる。
浅海は視線を動かしながら、例えばさ、と続けた。
「発見したことを一刻も早く発表したい学者とか、何回も検証を重ねた上で静かに報告するタイプとか、個人差ってあると思うんだ。これは俺の見方だけど、裕の親父さんは後者寄りで、その上多分他人のためにはやってない気がする」
浅海は湯呑みを置いて、腕を組む。
「あの人はひたすら、物事の謎が解けていくことが楽しくて、新たな発見と遭遇出来ることが好きで仕方ない。今まで分かったこととか、それをまとめるよりも、次の発見を先にしたい。だから言い方は悪いんだけど……裕や他人に説明するっていうことの優先順位が、低いだけなんじゃないかな」
……。
そう、なのか?
そんな人もいんの、と俺はちょっと訝しげに訊き返してしまう。
いると思う、と浅海が頷くので、ふーむ、と受け止めた。
まぁ確かに、他人の性格なんてもんは、相当親しくしていても分からない部分がある。
俺にとって、浅海にも多分、まだ知らない面があるように。
だったら尚更、親父の人間性なんか、分からないか。
そっか、とやっぱり肩を落としてしまう。
そんな俺に、でもさ、と浅海が笑う。
「ある程度、素人でも分かるくらいの成果が、今回出たってことだから。祝賀会では酒も入るし、案外教えてくれるかもよ、親父さん」
ようやく、喋れる余裕が出て来た。
……だと嬉しいな。
「期待しよ」
嬉しくて口元がにやける。
李依が風呂から出て来たらしい物音と、次に風呂に入ろうと準備していたらしい蒔哉が、浅海を呼びに来た。
はいはい、と浅海が立ち上がりがてら、あー、と思い出したように呟く。
「そういやうちの兄貴のとこも、2人目産まれたって言ってたな」
「えっ! まじ!? 見たい見たい!!」
2018.5.12