誓戦心中

 スマホを耳に当てないまま、電話を掛けた。
 念の為2、3回鳴らして、通話を切る。
 玄関先でわざわざ電話で呼ぶというのも、妙な手段だとは思ってる。
 けれど、本人だけを呼び出すには、これが一番確実だった。

 合わす顔がない、と言えば、聞こえはいいけど。

 数分も経たないうちに、玄関の方から物音が聞こえた。
 俺が凭れていた背を壁から離すと同時に、その家の門が開いた。

「お待たせ」

 白い息を吐きながら、雅巳(まさみ)が俺を見付けて告げる。
 大丈夫、と断りを入れて、俺は視線を外してしまった。
 何も、大丈夫ではなかったからだろうか。

 けれど黙ったままの俺に、雅巳は特に何も言って来ない。
 分かっている彼女のその対応が、俺にとって救いかどうか。
 何かを訊いてくる代わりのように、行こ、と雅巳が切り出した。
 黙って頷いて、一緒に歩き出す。

 暫く、お互い何も言わずに、ただ歩いていた。
 冷たい明け方の空気をそのまま吸い込んで、重たい気持ちを紛らわしているようだった。
 肥大化する違和感は、後ろめたさ。

「……元日でもないのに、朝早くにごめん」

 じゃり、と足元が不意にもつれたように、靴底が地面を摺った。
 それに背中を押されたかのように、俺はそう一言吐き出す。
 え、と驚く雅巳の声。

 もうとっくに年は明けてて、今日は3日の早朝だ。
 俺は詳しい理由も伝えず、今日のこの時間に、行きたい場所があるからと雅巳を呼び出した。
 雅巳は不思議そうな顔をして、それでも頷いた。

「初詣は行ったの?」

 暫く俺を観察するように見ていた雅巳が、そう訊ねて来た。
 行ったっけかな、とぼんやりした瞳で、曖昧に答える。

 瀧崎家の年越しが、特に忙しいことは、雅巳も知っていること。
 でも多分、雅巳が言わんとしていることは、別の問題だ。

「ここ数日は、流石にアレは来てないから。寝れてはいる」

 他に言い方も思い付かなくて、そう、正直に伝えた。
 そう、と短く呼応する雅巳。
 心なしか、何となく、気の抜けた声色だった。

「何処向かってるの?」

 ようやく雅巳が、道順の様子に気付いたらしい。
 この道は、神社とは逆方向だからだ。

 次第に風が冷気を帯びて来る。
 初詣じゃないの、と雅巳の声に、俺は頷いた。
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