「分からない」だけ


「相変わらずでっけぇ家だよなぁ」

 十数年ぶりに訪れた篠宮家の外観を見上げ、裕がしみじみ呟いた。
 その様子を、一歩先を歩いていた華倉が、振り向いて見ている。

「……住宅の大きさは変化しないからね」

 そんな当たり前過ぎる返しをしてしまった。

 門を開けて、華倉は先に裕を通す。
 お邪魔します、と軽い会釈と共に自分の前を通る裕に、華倉は改めて告げる。

「折角の休みなのにほんと申し訳ない」

 自分も敷地内に入りながら、華倉は後ろ手で門を閉める。
 まぁねぇ、と裕は曖昧に答える。

 言っていることとやっていることの乖離が酷くて、華倉は本当に肩身の狭い思いをしていた。

 今日も休日である裕をわざわざ篠宮家に呼び立ててしまう始末だ。
 勿論憂巫女関係の用件である。
 平日は裕も勿論だが、肝心の菱人の時間も都合出来ないことが多い。
 よって、貴重な休日に、改めてこんな重たい話をする流れになった。

 目眩がする、と華倉はうっかり本音を漏らす。
 しかし、調子悪いの、と裕からは素で心配されてしまった。
 華倉は玄関の鍵を開けながら、良心の方ね、と答えた。

「創鬼か」

 誰かが来たことは把握されていたようで、出迎えなのだろう、真鬼が既に姿を見せていた。
 真鬼にそう声を掛けられ、裕は軽く反応して、邪魔するー、と答える。

 靴を脱いで上がる裕を待つ間、華倉は真鬼に、部屋は、と訊いた。
 真鬼は廊下の奥の方を指差しながら、菱人の書斎の隣だ、と返した。

 途中までまとまって移動していたが、真鬼が菱人を呼んでくるとのことで、途中で進行方向を変えた。
 華倉は裕を連れて、指定された部屋へ向かう。

「坂下ってさ、真鬼からの呼ばれ方あれでいいの?」

 ふと気になっていた疑問を、華倉は前置きなく訊ねる。
 裕は着ていたパーカを脱ぎつつ、うん、と短く頷く。

 それがやっぱり不思議だったので、華倉は続けざまに、何で、と訊いた。
 何で、と首を傾げる裕。

 目的の部屋に到着し、華倉はドアを開ける。

 先に裕に入るように呼び掛けたとき、その裕が口を開いた。
 律儀に華倉の質問に答えをくれたのだ。
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