「分からない」だけ


「……まぁ、やっぱ俺の意識のどこかは、鬼神だってことなんだろうな」

 つうか今まで気にしてこなかったわ、と。

 裕は本当に自然な流れで、真鬼とは「創鬼」として接していたのだ。
 それは不本意にも、坂下裕も創鬼も、どちらも「本物」であることを証明していた。

 そう、とちょっと暗い気持ちになってしまったが、華倉は裕を部屋へ通すと、お茶持ってくるから待ってて、と告げた。
 そろそろ菱人も真鬼も来るだろうから、と華倉は台所へ向かう。

 台所の戸棚を開け、えーっと、と物色していた華倉の背中に、あら、と声が掛かる。

「華倉くんじゃない。お帰りなさい」

 にっこりと笑って、容子がそう挨拶をしてくれた。
 華倉も返事をしたが、帰宅というか何というか、と曖昧に笑う。

 何をしているのかと容子に訊ねられたので、華倉は茶筒の在処を訊くことに。

「だったらわたしが持って行きましょうか?」

 華倉くんのお客さんをひとりにさせておくのも、と容子が申し出てくれた。
 それは有り難い申し出だったけれど、華倉は礼を述べてから続ける。

「だからこそ、俺がやりたいんです」

 すみませんと謝る華倉に、容子は嬉しそうに笑う。

 茶筒と湯飲み、お盆を自分で出した華倉に、容子はおしぼりを用意してくれた。
 急須に茶葉を入れて、湯を注ぎ、蒸らす。

 その待ち時間、華倉は容子に訊ねる。

「……どうですか、広政(ひろまさ)? 学校行けてます?」

 ちらり、と容子に遠慮を見せながら、華倉は窺うように視線を向ける。
 容子は小さく首を傾げて見せながら、そうねぇ、と切り出す。

「ぼちぼちねぇ。朝行って2時間目の途中で帰って来たり、布団から出られない日もあったり」

 末っ子の広政は、1年ほど前から登校が不安定になった。
 最初の頃はそれでも、騙し騙し何とか行けていたのだが、一度早退をしてしまった日から、段々まともに行けなくなってしまった。

 その話を菱人から聞いたときから、華倉はずっと気に留めていた。
 心配の気持ちも勿論あったけれど、それ以上に抱いたのは、理解だ。

 理解という言葉は語弊があるかも知れないから、一番近い表現は、恐らく同情だろうか。
 あまり遠い世界の話とは思えなかった。

「原因という原因も今のところなさそうなのよね。広政は自分から話そうとしないし……」

 どうしたのかしらね、と容子は心配そうに息を吐く。
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