変えてゆくもの


 憂巫女は呪いそのものだ、と菱人は表現していた。
 その呪いを解くということは、憂巫女の存在そのものにも、影響があるのだろうか。

 華倉は最近、よく考えるようになった。
 呪いを解いてしまったら、少なくとも、憂巫女の“力”は消滅するだろう。
 けれどその他は?
 例えば記憶や、関わりのあった事件なども、煙のようになくなってしまうのだろうか。

 ひとりで考えても埒の明かない疑問であった。
 そんな浮かない表情の華倉に、魅耶も気付いていたらしい。
 何を考えているんですか、と魅耶からの言葉に、華倉は素直に伝えてみた。

「憂巫女の呪いを解いたら、例えば俺の記憶がちょっと変わっちゃうとか、今まで伝え聞いてたことが書き換えられることがあるんだろうか、って気になって」

 この救われない負の連鎖から解放されると同時に。

 華倉は決して怯えているわけではなかった。
 ただ、純粋に疑問を抱いていたのだ。
 ずっとあったものが、なくなる。
 それは間違いなく「喪失」であり、その喪失感だけは、分かっているつもりだったから。

 そんな華倉の疑問を聞いた魅耶だが、すぐには何も返さずにいた。
 ただ少し、何か探るように、華倉を見ていた。

 それから華倉と同じように夜に包まれた外の景色へ視線を向ける。
 華倉さん、と華倉を呼び、切り出す。

「過去起きたことは、変えようのないことです。多分、今回憂巫女の呪いを解いても、変わるのは未来だけで、僕たちがやってきたことはそのままでしょう」

 呪いを解いても、呪われていた時代の出来事にはもう触れられない。
 何をしてきて、誰を犠牲にして、どれほどの重圧に耐えて来たか。
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