(贖罪)
無傷で、が現実的ではないことくらい、お互い承知だったようだ。
真鬼の言葉を遮って、華倉が端的に訊ねる。
「最悪の場合」は、どうなる。
今の華倉に希望を持たせるような物言いをしても無駄だろう、と真鬼は腹を括る。
「……お前しか残らないだろうな」
自分を狭い祠に封じた他の鬼神たちを、最鬼は確実に仕留めに来る。
最悪の場合は、真鬼も創鬼も、化け蜘蛛すらも命を落とす。
そんなことにでもなったら、憂巫女に頼る他、手立てがない――
「……お前も、創鬼と化け蜘蛛の手は煩わせたくないだろう。だったら、一番確実な最小限の犠牲が、私と魅耶、なんだ」
明言は避けたかった。
華倉だってそのくらいは分かっていた。
だから曖昧なまま、不要な不安のままでやり過ごせたらよかった。
だけど恐らく、このことは魅耶も承知のことで。
だからこそ、自分も情報を確実に共有しておかなくてはいけないと、華倉は考えていた。
それでも言葉となった漠然とした不安は、とても恐ろしいものだった。
「安心しろ、という前置きも変だが、一つ」
真鬼が同じトーンで言葉を紡ぐ。
華倉は黙ったまま真鬼を見詰めた。
「……魅耶を失いたくないのは、私も同じだ」
これが慰めになるのかは分からない。
言ったところで、逆上されても仕方がない、と真鬼は思う。
それでも伝えておかなければ、とも。
「私が消えることになっても、魅耶だけは必ず生かす。それだけは守るつもりだ」
そうでもしなければ、また四〇〇年前の繰り返しになる。
真鬼の心の叫びにも聞こえたその約束に、華倉は「当たり前でしょ」と、強く返した。
2020.5.30