(贖罪)


 けれど今は状況が変わった。

「前回の一件で、まだそれなりに戦えることは分かったが……だから逆に今のままでは負けることも容易に予測が出来る」

 ただ近くにいるだけで、どこまで力を取り戻せるかは分からないけれど、と真鬼は自分の掌を見詰めて告げた。
 前回、と華倉は真鬼の言葉の一部を復唱する。
 まだ最鬼が榎本唯一に憑依していたときのことだ。

「ねぇ、もしかしてまた、魅耶をあんな危険な目に遭わせるつもり?」

 眉をひそめ、何となく真鬼を睨むようにも見える視線を向けながら、華倉が訊ねた。

 危険な目。
 あの時、魅耶は華倉に何も告げずに、真鬼と一緒に最鬼に立ち向かった。
 華倉に危険が及ぶのが嫌だから、という、魅耶らしい理由で。

 しかし最鬼が思ったよりも力を覚醒させていたせいか、真鬼と魅耶の力が安定し切れていなかったせいか、魅耶は酷い怪我を負った。
 恐らく、華倉が割って入らなければ、死んでいたかも知れない大怪我だった。

 今も残るその時の傷痕を、華倉は見るたびに怖くなる。
 なのに、またそんな危険な方向へ話が進んでいる。

 華倉の視線に、真鬼は暫く沈黙を続けていた。
 危険であることは明らかだった。
 その上、下手をすると関わる人間全員が命を落とすことも有り得る、と真鬼は考える。
 だから、被害は「最小限」に留めたい。

「……華倉、お前は憂巫女本人でもあるから、私がお前に謝るのは筋が違う。けれど、その理屈で言うなら魅耶は部外者だ。私が憑依していたに過ぎない、普通の人間だ」

 机の縁(フチ)に浅く腰掛け、真鬼は華倉を見据える。
 華倉が何を言いたいのかくらい、真鬼にも分かっている。
 それでも言わなければならない。

「だがそれが理由の全てだ。私が最鬼と戦うには、どうしても魅耶が必要になる。出来れば魅耶は無傷で帰したいと考えているが……」
「最悪の場合は?」
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