こびりつく後ろめたさ


「最鬼が?」

 最鬼の話をしてもさほど動揺を見せない裕が、華倉にとっては意外だった。
 真鬼からの相談を受け、華倉と魅耶は、憂巫女の呪いを解くための協力者である創鬼――裕にも話を伝えに来た。

 真鬼がだいぶ狼狽えた様子だったせいか、裕も似たように動揺するものだと思っていた華倉。
 しかし裕は至って静かに、そうか、とあっさり受け入れている。

「……驚かないの?」

 逆に華倉が吃驚してしまって、素でそう訊いてしまう始末だ。
 裕はガムシロップの蓋を開けつつ、え、と華倉を見返す。

「うんまぁ。あいつが簡単にくたばるとは思ってなかったし」

 そう、平然と裕は続ける。
 その態度に、華倉は妙な悪寒を覚えた。
 それは最初に感じた「怖がっていない」よりも底の見えない気味の悪さ。

 その時改めて、彼は「鬼神」なのか、とさとる。

 若干ではあるが、裕に対して身構えてしまいそうになる華倉の隣で、不意に鳴り出す携帯の音。
 魅耶が鞄から携帯を取り出し、済みません、と立ち上がる。

「担当さんからです」

 そう、手短に告げて、魅耶が席を離れた。
 華倉がその魅耶を見送り、ひとつ息を吐いて座り直す。

「逢坂、作家やってるんだっけ?」
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