こびりつく後ろめたさ
同じように魅耶を見ていたらしい、裕が顔を華倉に戻しながら訊いた。
華倉は暫く放っておいたコーヒーをスプーンで再度掻き混ぜつつ、うん、と頷く。
「携帯電話は要らないって言ってたんだけど、最近担当さんに持つように頼まれたらしくて」
こんなこと増えたよ、と華倉は笑う。
以前はパソコンメールでのやりとりが中心だったのだが、携帯電話を使い始めたため、こうして華倉の前で呼び出される姿も増えてしまった。
はは、と世間話のつもりで話していた華倉だが、そっかー、と相槌を打つ裕からの返しに、小さく驚く。
「それはちょっと淋しいよなぁ。もうそんな年齢でもないけど」
一拍、間が空く。
それから華倉は、そう見えた、と苦笑を浮かべて返した。
裕は頷いて見せながら、ちょっとね、と答える。
「うちも似たような時期あったから、何かちょっと思い出したってーか。さすがにもう慣れたけど」
そう話す裕は、それでも嬉しそうに見えた。
裕が意識せず零すその笑みに、華倉も安堵を覚える。
けれど、裕はその流れで、話の本題を口にする。
「……浅海はあんまり快く思ってないんだよ。あいつの気持ちも分かるから嬉しいんだけどね」
うん、と華倉は改めて、自分たちの頼みが、彼らの負担になっていると認識する。
憂巫女の呪いを解くためとは言え、もう全く別の人生を歩んでいる裕と浅海に、これ以上この話を持ち掛けるのは躊躇われた。
裕は承諾してくれたものの、浅海は最後まで首を縦に振ることを渋った。
出来れば今でさえ、裕にはもうやめてほしいと考えているだろう。