最後の最悪


 真鬼からの反応はなかった。
 皮肉にも、それが確かな返答になってしまった。

「……最鬼の覚醒を防ぐ手段は……ないの?」

 弱々しくて情けなく思いながら、華倉はそう誰にともなく、その場へ投げかけるように口を開く。
 腕を組み、ないことはないが、と真鬼が答える。

「勿論、最鬼の精神を殺す方が確実に安心だ。けれど、最鬼の肉体に別の妖怪が乗り移って暴れ出す可能性も否定し切れない。絶対の策を選ぶなら、やはり精神も肉体も、殺してしまうに越したことはない」

 真鬼の話を受け、あー、と華倉も不本意ながらも納得した。
 それはそうだろうな、と思いたくなくても思ってしまう。

「その話、菱兄ィには……」
「いや、まだしていない。出来れば菱人には知らせずに最鬼を始末出来たらと、先にこちらへ」

 そう、と華倉は答える。
 確かに真鬼の気持ちも分からなくはない。
 菱人の悲願とも呼べる今回の計画。
 華倉にも弟としても、現世の憂巫女としても、これ以上菱人の手を煩わせたくない気持ちがあった。

 けれど。

「そう上手くは行きそうもありませんね」

 魅耶が冷静にそう発した。
 真鬼も気付いているのだろう、ああ、と浮かない表情そのままに続ける。

「肉体の呼び掛けに精神はどうしても呼応する。そうすれば……篠宮本家に在る精神が何をするか分からない。嫌でも菱人にも気付かれる」

 いや、もう気付いているのかも知れない。

 真鬼のそんな小さな独り言が、覇気なく地面に落下した。
 暫しの静寂の後、分かった、と華倉が口を開く。

「とにかくその話を菱兄ィに伝えよう。何も起きなければそれがいいけど……何かあってからじゃ怖いし」

 華倉には正直、最鬼がどれほどの化け物なのか、よく分からない。
 想像は出来るけれど、恐らく、その想像を遥かに上回る化け物なのだろう。
 真鬼がこれほどまでに憂慮する様を見る羽目になるほどに。



2020.5.24
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