カレー

 多分司佐(つかさ)にとって、料理は瞑想なんだと思う。

 何か心がざわつくことがあったときに、よくキッチンに立つ気がする。
 そして大体作るのは、手間がかかる煮込み物とかだ。

「司佐っていっつもカレー粉使うよね。ルー嫌い?」

 深夜。
 俺がトイレに行こうと部屋を出ると、キッチンの灯りが煌々としていて。
 覗いてみると、司佐が鍋を掻き混ぜていた。

 この香りは、カレー、だ。

 司佐の機嫌が悪い日は、よくカレーが出て来る。
 何でだろう、ってずっと気になっていたけど、多分、カレーを作ることで心の乱れを整えてんじゃないかなと思うようになった。

 まぁ、司佐に訊かないと分からないけど。

 でも多分、そこって司佐にとってディープでナイーブな部分だから、俺は容易には触れない。
 そんなことを考えつつ、気付いたら先程の台詞のような質問が口から出ていた。

 司佐がカレールーを使っているところを見たことがない。
 カレー粉と小麦粉で具材を炒めるところから始めている。

 そんな俺の声に気付いたものの、司佐は俺を見ない。
 じっと鍋に向き合って、答える。

「……まぁ、嫌いってほどでもないけど、あんまり使う気にはならないな」

 それは、微かに俺の心をざわつかせる。
 あれ、これって、結構タブーかも、って勘付いた。

 でも、気になる。
 いつも掴めない司佐の本音、ってやつに、手が届きそうだったから。

「何で? ラクチンなのに」

 だから、深夜のテンションに乗っかって、訊いた。

 ルーを使っても、それなりに自分好みの味には出来る。
 各社のルーを混ぜてもいいわけだし。
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