カレー

 なんて、阿呆みたいに考えていた。

 けれど、司佐はいつも俺の斜め上を行く。
 司佐は自分で調合したカレールーの味を見ながら、呟く。

「……市販品に好きな味がないんだ」





「って言われたとき、何かすげぇかっけー! って思って」

 胸きゅんが収まらず、俺は寝不足にも関わらずハイなテンションで扇に訴えていた。
 しかし扇はだるそうに頬杖付いて、はぁ、と曖昧な呼応。

「そうか? そんなこと言う男、ウザくねぇ?」

 こだわりウザい、と扇は返す。

 そりゃあまぁ、全然どうでもいい奴が言ってたらウザいだろう。
 でも今回は、相手は司佐だし。

 俺は昨晩の司佐の横顔を思い出しながら答える。

「そりゃ俺が司佐のこと好きだからっていう前提はあるけどさ。何て言うか……」

 俺はそこで一旦言葉を切った。
 ん、と扇が俺の異変に気付く。

 俺は正直、そのときまだ言葉になっていなかったんだ。
 司佐へのときめきが。

 本当に情けないんだけど、司佐の言葉っていうよりは、あの横顔に収まっていた瞳に惹かれたっていうか。
 でもそんな抽象的な説明で、扇は納得しない。
 はっきり言えってタイプだから。

 だから俺は、必死で言葉にする。

「自分のこと、ちゃんと理解してるっていう感じ、が、さ」

 そう、いう、言い方が、一番近いかな。

「?」

 しかし扇にはあんまり通じなかった模様。
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