カレー

 きょとんと俺を見ながら、アイスコーヒーのストローを回している。

 俺は思い出したドキドキを感じながら、言葉を続けて作る。

「司佐は自分のことがよく分かってる。だからあんなに佇まいが綺麗っていうか、強いんだろうなぁ、って思えて。そこにときめいたっていうか」

 たった一言。
 何気ない、何の関連もないあんな一言に、俺は司佐の本音を見た気がして。

 何だろう……これ、嬉しい、っていうのかな。

 司佐って普段何考えているのか分からないし、いっつもポーカーフェイスだし。
 それに、まだ俺に心を開いてないと思うから。

 正直悔しいし寂しいから、何か……昨日のあれは、心に突き刺さったなぁ。
 なんて思っていたら、扇が理解したらしい。

「……ああ、なるほど。単なる好き嫌いじゃなくて、自分の中核部分を、ってこと?」

 扇が具体的に言い換える。
 ああ、と俺は手を叩いて扇に返す。

「そうそう、それ。それが分かってる人間ってやっぱ強いじゃん?」

 一歩、司佐に近付けた気になって、俺はテンションが上がった。
 ふうん、と扇はあんまり興味なさそうだけど、構わない。

 にこにこ笑う俺に対して、扇の視線は冷ややかだけど。
 くっそー、ラブラブなお前には分からないか!

 でも、俺たちには俺たちのペースがある。
 それを崩してまで、司佐の奥深くに踏み込む資格なんかないことも、分かってるから。

「司佐のあの一言でそこまで感じちゃったのよ。やっぱ愛だよなこれって(●´ω`●)」

 でも、そんな俺の覚悟とは裏腹に、やっぱり勝手に嬉しさが滲み出て来る。
 絶対愛がなきゃ見抜けない感覚だったと自負していた。

 すると。

「……途中までいい話だったのになぁ」

 ずず、とアイスコーヒーを飲み干して、扇が残念そうに呟いた。

 えっ、何で?



2017.4.14
(ちなみにわたしがきゅんとしたのも「市販品に好きな味がないんだ」です)
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