平和な日常~夏~3

さて今回のストーカーの一件だが、横島の思惑とは無関係に問題は更に難しくなり始めていた。


「学園長、女子生徒の保護者を中心にこの一件に関する問い合わせや抗議が多数届いてます」

「うむ……」

今回の問題である千鶴へのストーカー行為と横島への誹謗中傷未遂に関して、麻帆良学園は被害者と加害者を伏せた上での事件の情報をすでに公開している。

これに関しては報道部は一連の報道を控えてはいたが、千鶴へのストーカー行為から始まる事件は麻帆良では有名であり学園側も隠すことなど出来ずに保護者にも情報を公開していた。

今回の件は生徒や学園側の働きにより未遂に終わったことがせめてもの救いだが、結果的に前回の学園側の対応が甘かったのではないかとの声も増えている。


「生徒からは彼らの退学や停学を含めた、厳しい処罰を求める声も上がってます」

険しい表情で報告を聞く近右衛門に、報告をしている担当者は若干冷や汗を流していた。

保護者も問題だが、生徒からも彼らに厳しい処罰を与えるべきだとの意見が多数出ていたのだ。

生徒達の場合は少数の愚か者の為に学園の規則が厳しくなるのを恐れており、本音を言えば退学にして欲しいと考えてる者も少なくない。


「仕方あるまい。 彼らを一ヶ月の自宅謹慎での停学処分にする。 今後の対策に関しては生徒による対策委員会の対応をみてから決める」

担当者の報告を聞き終えた近右衛門はストーカーの処分を決めるが、前回が厳重注意だっただけに今回は停学も仕方ない処分だった。

正直言えば近右衛門としてはカウンセリングなどで再教育する処分にしたかったのだが、保護者も生徒達もそれでは収まりそうもない。

今後の対策に関しては実は麻帆良祭後に学園全体の生徒会や風紀委員会を中心としたストーカー対策委員会が設置されており、対策を検討中だったのでそれの結論を待つことになる。

通常の学校ならば学校側が規則を決めて守らせるのだが、麻帆良学園はそれを生徒達に行わせていた。

無論本当に最低限の校則は存在するが、基本的には生徒達に自ら考え行わせることでこれまでやって来たのだ。

保護者に関してもその方針に関しては入学前に説明を十分に受けており、今回のように抗議が来ることは珍しいことである。

この麻帆良学園の教育方針には正直賛否両論あるが、実際に麻帆良学園の卒業生は応用力や判断力があり柔軟性もある者が多いと評価が高いのも事実であった。



さて話が少し逸れたが、今回の誹謗中傷未遂に加担した者は最終的に停学の上で自主退学することになる。

はっきり言えば彼らには停学から戻るような勇気も居場所もなかった。

麻帆良学園の生徒は自由な校風は生徒自身が守るものだとの意識が非常に高いので自由で寛容的な一面もあるが、今回のような被害者が出る犯罪紛いのことには逆に厳しいという一面もある。

加えて同じように麻帆良祭の件で厳重注意された者でも、ほとんどの者は改心していた事実も重く受け止められていた。

短期間でしかも逆恨みした者に対して同情的な者はほとんど出なかったようである。



ちなみに停学後には土偶羅が密かに、彼らから横島や千鶴に対する恨みや憎しみを消したのは言うまでもない。

感情の操作は決して褒められた行動ではないが、その後冷静になった彼らは自分達の行動を恥じて麻帆良学園に居られなくなったことを後悔することになる。



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