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平和な日常~夏~3

連日の暑い日々が続く麻帆良だったが、暦は八月の下旬に差し掛かっていた。

ストーカーの件では多少不安になっていた千鶴や木乃香達だが、今回の加害者が自宅謹慎になって麻帆良を離れたと聞き正直ホッとしている。


「あの……、一体何をするのですか?」

そんな八月の下旬のとある日の夜、木乃香・明日菜・夕映・のどかは横島に頼まれて閉店後も店に残っていた。

横島が特に理由も説明しなかったので、いつものように一緒に夕食でも食べるのかと考えていた木乃香達だったがこの日は違っていたのだ。

数人の雪広グループの関係者がやって来ると、厨房を借りて次々に食材や料理を並べていく。

しかも雪広グループの人間はかなり緊張気味であり、夕映は何か場違いな場所に居ると感じて横島に恐る恐る何をするのか尋ねる。


「雪広グループの冬の新商品の試食だよ。 せっかくだし一緒にどうかと思ってな」

明らかに場違いだと感じた夕映とのどかは若干引き攣った表情を見せるが、横島は相変わらず軽かった。

さて今回の試食だが、麻帆良祭以降も何かと交流があった雪広グループの人に横島が試食を頼まれたのである。

実は麻帆良カレーの名前で売り出した横島のフレンチカレーは、暑い夏場にも関わらずかなり売れ行きが好調らしい。

他のポテトや桃のデザートも安定した売り上げを伸ばしており、地味に横島の評価が上がっていたようだった

加えて先日の接待での料理も評判がよかったらしく、そんな高まった評価が元で雪広グループの系列にある幾つかの食品会社の開発中のイチ押しの新商品を試食して欲しいと依頼が来たのである。


「今回の商品はまだ社外秘なので、他では口外しないで頂けると助かります。 意見に関しては遠慮なく率直な意見をお願いします」

雪広グループ関係者を代表して説明していたのは、四十代後半の中間管理職のような男性だった。

見てる方が緊張するほど緊張している男性に対し、横島は緊張感のカケラもないのだからその場には不思議な空気が漂っている。


「ここでごはんたべるの?」

「前におっきなビルにカレー食べに行っただろ。 あれと同じで美味しいかどうか聞きたいんだってさ」

厨房を支配する不思議な空気の理由を理解出来ないタマモは、キョトンとしながら横島の膝の上に座っていた。

横島とさよは割といつも通りだが、雪広グループ関係者達は緊張感で張り詰めており木乃香達も緊張気味だ。

タマモには何がなんだか理解出来ないのだろう。

というか木乃香達も雪広グループの関係者が、何故これほど緊張しているのか不思議に感じている。

またおかしな噂でも広まったのかと考える彼女達だが、その考えは間違ってはなかった。

これは横島も知らないが少し前に接待した時の態度から、実はプライドが高くて気難しい人間だと雪広グループ内の一部で噂が流れていたのだ。

しかしあの時一緒だった明日菜やさよ達はもちろん、横島もそんなことになってるなど思いもしてなかった。


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