早朝の訪問者
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◆◆◆◆◆◆◆◆
「あ……君が昨日 電話してきた南雲 つばささんだね。」
「はい。
昨日はすみませんでした。」
入学式 翌日……
午前7時30分、烏野高校 社会科準備室に昨日 欠席していた南雲 つばさが緊張した面持ちで深々と頭を下げた。
早朝ということもあり、他の教員達の姿もなく、雑然とした室内はシンと静まり返る。
彼女の突然の訪問がなければ、いつもの朝の光景そのままだった。
「いや、こちらも入学辞退か、電話確認しないといけなかったので、君から連絡があってよかった。
ほら、もう頭を上げて。」
「はい……」
ゆっくりと顔を上げる彼女の表情は暗く、昨日の入学式に出席出来なかったことを悔いているように見えた。
昨日の昼過ぎ、職員会議の後にかかってきた電話では、『無断欠席して申し訳ありませんでした』 という謝罪だった。
欠席した理由は敢えて聞かなかったが、入学式に出席しないのはよっぽどのことだろう。
教員として働き始めて25年経つが、こういう事案は数えるくらいだ。
入学式という節目となるハレの場を保護者共々、把握していなかったのか?
あれこれ考えていると、山のような資料や本に埋もれた机の向こうから立ち上る白い湯気が目に入る。
窓際にある給湯スペースの簡易コンロにかけていたやかんの湯が沸騰したのだろう。
お茶を飲めば、彼女の緊張も緩んで 少しは落ち着くだろうか?
そう思いながら、椅子から立ち上がると給湯スペースへと向かう。
「お茶でもどうですか?
緑茶と紅茶、珈琲……くらいしかないですけど。」
私は基本的にここを訪れる生徒にお茶は勧めない。
相手が図に乗るタイプだと、ここを喫茶店くらいの感覚で利用するようになるからだ。
だが、恐らく彼女についてはその心配はないだろう、何となくそう思った。
「あ、私はどちらでも……
空井先生と一緒の物で構いません。」
今時の高校生には珍しく控え目な回答が返ってきた。
「じゃ、緑茶で。
この前、いい玉露を戴いたんですよ。」
正確には『戴いた』 ではなく、『勝手に持ち出した』 が正しいか……
嫁の実家から送られてきた茶葉を安物だと思い、黙って学校に持っていった後、嫁から散々叱られた代物だ。
そんなことを思い出しながら、棚にある茶筒を取り出して茶葉を急須に入れる。
「そういえば……資料を見たんだけど、君は東京から受験したんですね。」
昨日の電話の後に気になって見た受験時の書類の内容について尋ねた。
恐らく、親の転勤等の都合で入学式の日程を親が間違えていたのだろう。
私はやかんの取っ手を握り、急須に湯を注ぎながら 彼女が話し始めるのを待つ。
だが、彼女はしばらく黙り込んだまま俯いた。
問い掛けが聞こえなかったのか?
それとも、触れてはいけない『地雷』 だったのだろうか?
棚から取り出した湯呑み茶碗にゆっくりと茶を注ぎ入れながら、気を揉んでいると、
「はい。
高校から宮城に移ることになりまして……」
彼女はポツリポツリと話し出した。
「ご両親は?」
「両親は……
小学生の頃に離婚しまして、母に育ててもらっていたのですが……
高校からはこちらに住む祖父母に引き取られることになり……
昨日、一人で東京から引っ越してきたんです。
こちらに到着してから、入学式当日だったことを知りまして……
本当にすみません。」
そう言い終えると、彼女は再び 私に向かって一礼する。
「あ……君が昨日 電話してきた南雲 つばささんだね。」
「はい。
昨日はすみませんでした。」
入学式 翌日……
午前7時30分、烏野高校 社会科準備室に昨日 欠席していた南雲 つばさが緊張した面持ちで深々と頭を下げた。
早朝ということもあり、他の教員達の姿もなく、雑然とした室内はシンと静まり返る。
彼女の突然の訪問がなければ、いつもの朝の光景そのままだった。
「いや、こちらも入学辞退か、電話確認しないといけなかったので、君から連絡があってよかった。
ほら、もう頭を上げて。」
「はい……」
ゆっくりと顔を上げる彼女の表情は暗く、昨日の入学式に出席出来なかったことを悔いているように見えた。
昨日の昼過ぎ、職員会議の後にかかってきた電話では、『無断欠席して申し訳ありませんでした』 という謝罪だった。
欠席した理由は敢えて聞かなかったが、入学式に出席しないのはよっぽどのことだろう。
教員として働き始めて25年経つが、こういう事案は数えるくらいだ。
入学式という節目となるハレの場を保護者共々、把握していなかったのか?
あれこれ考えていると、山のような資料や本に埋もれた机の向こうから立ち上る白い湯気が目に入る。
窓際にある給湯スペースの簡易コンロにかけていたやかんの湯が沸騰したのだろう。
お茶を飲めば、彼女の緊張も緩んで 少しは落ち着くだろうか?
そう思いながら、椅子から立ち上がると給湯スペースへと向かう。
「お茶でもどうですか?
緑茶と紅茶、珈琲……くらいしかないですけど。」
私は基本的にここを訪れる生徒にお茶は勧めない。
相手が図に乗るタイプだと、ここを喫茶店くらいの感覚で利用するようになるからだ。
だが、恐らく彼女についてはその心配はないだろう、何となくそう思った。
「あ、私はどちらでも……
空井先生と一緒の物で構いません。」
今時の高校生には珍しく控え目な回答が返ってきた。
「じゃ、緑茶で。
この前、いい玉露を戴いたんですよ。」
正確には『戴いた』 ではなく、『勝手に持ち出した』 が正しいか……
嫁の実家から送られてきた茶葉を安物だと思い、黙って学校に持っていった後、嫁から散々叱られた代物だ。
そんなことを思い出しながら、棚にある茶筒を取り出して茶葉を急須に入れる。
「そういえば……資料を見たんだけど、君は東京から受験したんですね。」
昨日の電話の後に気になって見た受験時の書類の内容について尋ねた。
恐らく、親の転勤等の都合で入学式の日程を親が間違えていたのだろう。
私はやかんの取っ手を握り、急須に湯を注ぎながら 彼女が話し始めるのを待つ。
だが、彼女はしばらく黙り込んだまま俯いた。
問い掛けが聞こえなかったのか?
それとも、触れてはいけない『地雷』 だったのだろうか?
棚から取り出した湯呑み茶碗にゆっくりと茶を注ぎ入れながら、気を揉んでいると、
「はい。
高校から宮城に移ることになりまして……」
彼女はポツリポツリと話し出した。
「ご両親は?」
「両親は……
小学生の頃に離婚しまして、母に育ててもらっていたのですが……
高校からはこちらに住む祖父母に引き取られることになり……
昨日、一人で東京から引っ越してきたんです。
こちらに到着してから、入学式当日だったことを知りまして……
本当にすみません。」
そう言い終えると、彼女は再び 私に向かって一礼する。