塩を擦り込む

 部活の先輩は美人で優しくて、どんな話も決して否定しないで聞いてくれる。先輩のおかげで、こんな私でもなんとか学校に来ることができている。
 でも、先輩には、唯一にして最大の欠点がある。
「そう。それは辛かったね。あなたは何も悪くないよ」
 いつものようにクラスメートについて愚痴を言う私に、先輩はにこやかに請け合う。その表情にホッとしつつ、ああ、そろそろかなと、身構えてしまう自分がいる。
「それで、その話なんだけど……もっと詳しく教えてくれない?」
 来た。
 先輩は言いながら、真っ黒な手帳を取り出した。高校生にしては渋すぎるその手帳には、これまで私が話したものだけではない、多くの人たちの「傷」が記されているはずだ。
 私が怯んでも、先輩は訊ねるのをやめない。
「そう言われたとき、どう感じたの? 自分はダメな人間だって思った? それとも相手のことを殴ってやりたいと思った?」
 にこにこと変わらぬ笑顔で、先輩の言葉は続く。私の傷口を開いて、塩を擦り込んで、またそれを閉じて。
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