しるし

 ねえ、見せて、と甥っ子がせがむので、仕方なく、首筋に貼った絆創膏を剥がす。治りかけの傷口は、かさぶたができて、そろそろ塞がりそうだ。
 まだ高校生のはずなのに俺よりデカくなった甥っ子は、身をかがめるようにして、傷口をじっと見つめる。嫌な予感がした。
「いてっ」
 素早い動作で、彼は俺の傷口に歯を立てた。ご丁寧に、それをさらに舌で抉る。せっかく綺麗になりそうだったのに、そこから再び血が滲み始めた。
「傷口に雑菌が入るから、それ、マジでやめてって」
 ほとんど懇願するように言うが、甥っ子はうんともすんとも言わず、慣れた手つきで消毒薬を使う。俺はまったく慣れることのできない痛みに顔をしかめるしかない。
「なあ、なんでこんなことするの」
 俺、何かした? と、何度目になるかしれない質問をする。甥っ子は手当てを終えて、すっと身を引く。その瞬間、正体の分からない寂しさが胸をよぎって、俺はどうしたらいいのか分からない。
「なあ」
 そのまま離れていきそうな体を引き留める。ぶっきらぼうに、彼が口を開く。
「いやなんじゃないの」
「噛まれるのはね」
 でもそれも、かわいい甥っ子の頼みだし、と続けた俺の言葉に、彼は笑う代わりに唇を歪めた。
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