変わらない

 長い髪が自慢だった。腰まで届くほど伸ばすのは時間がかかったし、毎晩、丁寧に洗って乾かすだけで、一時間はかかる。手入れはとても大変だ。でも、その甲斐あって、枝毛もなく、艶のある綺麗な長髪を維持することができていた。
 今の、今までは。
「平安時代からタイムスリップしてきたの? 今どきあんなヘアスタイル、ありえないでしょ」
 そんな言葉が、教室の後ろから聞こえてきた。入学式を終えた、翌日のことだ。私たちは早くもヒエラルキーを意識し、その底辺にはいかずに済むようにと願いながら、新生活をスタートさせていた。そんな中で、その言葉はあまりにも冷たく、鋭かった。
 だから、髪を切った。

 違う高校に進学した幼馴染が、訪ねてくるなり無言で私の髪を引っ張った。まったく容赦のない勢いに、頭皮が引っ張られて、目尻に涙が浮かぶ。
「何これ」
「えっ……と、イメチェン、みたいな」
「は?」
 髪から手を離さず、彼女は唇を歪めた。心底不愉快なときにしか見せない、その表情にびくりとする。
「イメチェン? イメージチェンジ? 何を勝手に」
 ぐい、と髪ごと頭を上げられて、玄関の壁に後頭部が当たった。痛い。
「変わるなんて許さない。あんたは」
 不意に耳元へ寄せられた口からこぼれる言葉が、いつものように私を甘やかに拘束する。
「私のものなんだから」
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