終章、望みが叶うとき
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一人の老女が、若き皇太后──ネルファンディアの墓に花を添えた。彼女が静かに祈りを捧げていると、その後ろに気配を感じた。振り返るとそこには寡黙で憮然とした様子を醸し出す、年配のドワーフの戦士が立っていた。戦士──ドワーリンは既にエレボールを発つのか、荷物を載せた馬を携えている。彼は見かけによらず紳士的な口調で、老女に恐る恐る尋ねた。
「……皇太后様の縁者ですか?」
老女は少し驚いた顔をしてから、ドワーリンの顔に何か思い出したのか、微笑みを浮かべながら頷いた。
「ええ、そうですよ。あなたのことも知っています」
「私のことですか?ええと、でもどこで……」
「ティルダおばあ様!」
その時だった。彼女──ティルダを呼ぶ孫の声がした。呼び声に答えると、その人は笑顔でこう言った。
「皇太后様と陛下の間には、ついに花が咲いたのですね。では、さようなら。トイレから出てきた幸運の妖精さん」
深々とドワーリンに一礼すると、彼女はデールへと戻っていってしまった。残されたドワーリンはただ、呆然と立ち尽くしている。すると向こうから、なんとも陽気で明るい声が聞こえてきた。ドワーリンにとって、それは懐かしい種族の姿だった。馬に乗った三人のホビットたちは、相変わらずそれぞれが勝手に話をしている。
「馬鹿。エレボール見学に来たんじゃないぞ」
「でも!折角ここまで来たんだぞ」
「二人とも煩いなぁ……ほら!早く来て下さい」
ドワーリンはホビットたちに手を振ると、あとから来たエレボール遠征の仲間たちと共に馬に乗って隣へやって来た。一番しっかりしているホビット──サム・ギャムジーは礼儀正しくドワーリンらに挨拶をした。残りの二人──メリーとピピンも笑顔で手を振る。彼らはこれから、始まりの地であるホビット庄へと赴くのだ。ボフールは首をかしげながら、似た者同士であるピピンに尋ねた。
「なぁ。俺たちはホビット庄へ何をしに行くんだ?」
「物語を書くためです」
「誰の?」
「決まっているでしょう!ネルファンディア姫とトーリン王の物語ですよ。ビルボとガンダルフに頼まれたんです」
誇らしげに言うピピンに、メリーが噛んでいた干し草を投げつけて鼻で笑い飛ばした。
「偉そうに言うな。お前は書かないくせに」
「うるさいな!滞在場所を提供するのはこの僕なんだぞ?」
その言葉に皆が笑う。ホビットという種族は、いつもこうなのか。ビルボのことを思い出しながら、ドワーリンは微笑んだ。その気持ちを察したのか、サムが地図を見ながら付け加えた。
「ビルボもいますよ。今はホビット庄近くの灰色港に居ます」
「お?忍の者に会えるのか?」
「し、忍び?」
「なんだそれ。ビルボのこと?」
メリーとピピンの問いは無視して、ドワーリンはずっと気になっていたことをサムに聞いてみた。
「ところで、物語の始まりかたはどうするんだ?」
すると、サムは満面の笑みでこう返した。
「ええ!もちろんです。始まりかたはもう決めてあるんです。 『ファンゴルンの森の近くにそびえ立つオルサンクの塔に、一人の美しい賢者の娘が住んでいました。森といってもそこはロマンスや冒険溢れる場所とは違って……』」
サムの心地よい声を先頭として、一行はホビット庄への道──エレボール遠征の時に辿った道を行き始めた。先はまだまだ長い。ゆっくりと思い出して語っていこう。ドワーリンはそう思いながら目を閉じた。
どこかで、ネルファンディアとトーリンが笑っている気がした。いや、そうであってほしいと仲間の誰もが願うのだった。
「……皇太后様の縁者ですか?」
老女は少し驚いた顔をしてから、ドワーリンの顔に何か思い出したのか、微笑みを浮かべながら頷いた。
「ええ、そうですよ。あなたのことも知っています」
「私のことですか?ええと、でもどこで……」
「ティルダおばあ様!」
その時だった。彼女──ティルダを呼ぶ孫の声がした。呼び声に答えると、その人は笑顔でこう言った。
「皇太后様と陛下の間には、ついに花が咲いたのですね。では、さようなら。トイレから出てきた幸運の妖精さん」
深々とドワーリンに一礼すると、彼女はデールへと戻っていってしまった。残されたドワーリンはただ、呆然と立ち尽くしている。すると向こうから、なんとも陽気で明るい声が聞こえてきた。ドワーリンにとって、それは懐かしい種族の姿だった。馬に乗った三人のホビットたちは、相変わらずそれぞれが勝手に話をしている。
「馬鹿。エレボール見学に来たんじゃないぞ」
「でも!折角ここまで来たんだぞ」
「二人とも煩いなぁ……ほら!早く来て下さい」
ドワーリンはホビットたちに手を振ると、あとから来たエレボール遠征の仲間たちと共に馬に乗って隣へやって来た。一番しっかりしているホビット──サム・ギャムジーは礼儀正しくドワーリンらに挨拶をした。残りの二人──メリーとピピンも笑顔で手を振る。彼らはこれから、始まりの地であるホビット庄へと赴くのだ。ボフールは首をかしげながら、似た者同士であるピピンに尋ねた。
「なぁ。俺たちはホビット庄へ何をしに行くんだ?」
「物語を書くためです」
「誰の?」
「決まっているでしょう!ネルファンディア姫とトーリン王の物語ですよ。ビルボとガンダルフに頼まれたんです」
誇らしげに言うピピンに、メリーが噛んでいた干し草を投げつけて鼻で笑い飛ばした。
「偉そうに言うな。お前は書かないくせに」
「うるさいな!滞在場所を提供するのはこの僕なんだぞ?」
その言葉に皆が笑う。ホビットという種族は、いつもこうなのか。ビルボのことを思い出しながら、ドワーリンは微笑んだ。その気持ちを察したのか、サムが地図を見ながら付け加えた。
「ビルボもいますよ。今はホビット庄近くの灰色港に居ます」
「お?忍の者に会えるのか?」
「し、忍び?」
「なんだそれ。ビルボのこと?」
メリーとピピンの問いは無視して、ドワーリンはずっと気になっていたことをサムに聞いてみた。
「ところで、物語の始まりかたはどうするんだ?」
すると、サムは満面の笑みでこう返した。
「ええ!もちろんです。始まりかたはもう決めてあるんです。 『ファンゴルンの森の近くにそびえ立つオルサンクの塔に、一人の美しい賢者の娘が住んでいました。森といってもそこはロマンスや冒険溢れる場所とは違って……』」
サムの心地よい声を先頭として、一行はホビット庄への道──エレボール遠征の時に辿った道を行き始めた。先はまだまだ長い。ゆっくりと思い出して語っていこう。ドワーリンはそう思いながら目を閉じた。
どこかで、ネルファンディアとトーリンが笑っている気がした。いや、そうであってほしいと仲間の誰もが願うのだった。