第4話

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両側の壁に等間隔で並ぶ窓から広がる景色にはしゃぐ子供達を、父親がたしなめる。

「わあーーー!!お父さん!速いね、すごいね!」

「ははは。あんまりはしゃぐと疲れてしまうぞ。むこうに着いたら、父さんとたくさん遊ぶ約束だったろう?」

「わーい」

とある家族が、楽しそうに旅行を満喫していた。

「でも仕事の方は、本当にいいんですか?」

「なに、やっと取れた休みだ。仕事は忘れて家族サービスしたって、バチは当たらんだろ」

すると、扉の向こうがにわかに騒がしくなり、荒々しい靴音と共にライフルを携えた集団が貴賓席きひんせきに雪崩れ込んできた。

「ハクロ将軍だな?」

「なんだ君達は、いきなり無礼な…!!」

子供達が恐怖にすくむ中、勇猛果敢な反応を見せたのは父親だった。

侵入者達は銃器を父親――ハクロ将軍へと突きつける。

最後に現れたのは右目に眼帯をした大柄な男。

「せっかくの一家団欒だんらんをぶち壊しちまってすまんね、将軍。楽しい家族旅行は終わりだ。ここからは、スリルと絶望の家族旅行といこうじゃないか」

他の侵入者を従えて、男は慎重な足取りで近寄って来る。

今の言葉がハクロにかけられたものであるのは間違いない。

というか、誤解のしようがない。

汽車は煙を巻き上げながら、何ごともなく流れ続けていく。







東方司令部内を、一人の男女が廊下を歩きながら話し合う。

「乗っ取られたのは、ニューオプティン発、特急○四八四○便。東部過激派『青の団』による犯行です」

女性は金髪を青のバレッタでまとめ上げ、冷静沈着とも言える表情で報告を続ける。

男性はやや童顔だが、黒髪に切れ長の瞳の端正な顔立ちである。

「声明は?」

「気合入ったのが来てますよ。読みますか?」

「いや、いい」

そうした理由について、おおよその察しはついた。

やがて、到着した部屋の扉を開けて入る。

「どうせ、軍部の悪口に決まっている」

「ごもっとも。要求は、現在収監中の彼らの指導者を解放する事」

「ありきたりだな――で、本当に将軍閣下は乗ってるのか?」

その問いかけに、司令室内にいる物静かな軍人が答える。

「今、確認中ですが、おそらく」

「困ったな。夕方からデートの約束があったのに」

デートの約束があるからとこの場を逃れようとする彼に、コーヒーカップを片手に、ぽっちゃりとした軍人が皮肉のジャブを一発繰り出した。

「たまには俺達とデートしやしょうやー。まずい茶で」

「ここはひとつ。将軍閣下には尊い犠牲になっていただいて、さっさと事件を片付ける方向で…」

「バカ言わないでくださいよ、大佐。乗客名簿、あがりました」

眼鏡をかけた優しげな顔立ちの軍人が、名簿の紙を黒髪の男へと渡した。

煙草をくわえた軍人が横から覗き込む。

「あー。本当に乗ってますね、ハクロのおっさん」

「まったく…東部ここの情勢が不安定なのは知ってるだろうに、こんな時にバカンスとは…」

呆れながら名簿を見つめていると、よく知る名前に目に留まった。

「ああ諸君。今日は思ったより、早く帰れそうだ。鋼の錬金術師と氷刹の錬金術師が乗っている」

極めつけの名前に、口の端をつり上げた。







突如汽車内に侵入してきた男達。

乗客は何が起こっているのか理解できず、どうすればいいのか答えを求めてざわついている。

ハイジャックされた車両で一人だけ、エドが気持ちよさそうに寝ている。

向かい合わせの席に座るのは、キョウコとアルだ。

テロリストは、呑気に熟睡するエドを見て呆れる。

「……この状況で、よく寝てられんな。ガキ」

周りには、他のテロリストが怯える乗客に銃を突きつけていた。

不意に、黒髪の美少女を一瞥すると舌なめずり、瞳に嗜虐の色を浮かべる。

「……へぇ。子供ガキにしちゃ、いいツラしてんじゃねーか」

すると、キョウコは可憐に微笑んで一言。

「おじさん、ロリコンですか?キモッ」

素晴らしい笑顔で毒を吐くキョウコのお言葉。

意外と腹黒いです。

案の定、今の微笑みの素敵さと台詞のギャップに恐れるが、すぐに怒鳴る。

「なっ…!?死にてぇのか!」

自分に向けられた言葉に、苛立ちと、そうと意識はしていなかっただろうが正体不明の恐れを感じて、男は引鉄に置いていた人差し指に力を入れた。

アルがキョウコを守るように盾になる。

「ちょっと、おじさん。落ち着いて」

紳士だ、カッコよすぎる。

鎧の登場に男は舌打ちをすると、エドの頬に銃口を突きつける。

「おい!起きろ、コラ!」

熟睡中なので、全く反応がない。

男の顔に青筋が立ち、苛立ち紛れに吐き捨てる。

「……この…ちっとは人質らしくしねぇか、この…チビ!!」

その瞬間、それまで熟睡だったエドの目つきが険しくなり、物凄い足音を立てて起き上がった。

「お?」

その背後からは、ドス黒い負のオーラが漂っている。

どうやら、男は触れてはいけないものに触れてしまったらしい。

「なんだ、文句あんのか、おう!」

その銃を両手で挟み、

「うお!?」

ラッパへと錬成する。

「なんじゃ、こりゃあ!!」

愕然とする男に容赦のない前蹴りが繰り出され、その拍子に首の骨が折れる嫌な音が聞こえた。

「ぶ!!」

テロリストはそのまま床に倒れ、アルは手で顔を覆い、キョウコは小さく吐息をつく。

「「ああ…」」

周りの乗客は突然の出来事に唖然とするしかなかった。

騒ぎを聞きつけた仲間が一人駆けつけると、三人に銃を突きつける。

「やりやがったな、小僧。逆らう者がいれば、容赦するなと言われている。こんなおチビさんを撃つのは気がひけるが………」

既に銃を構えている状態にもかかわらず、キョウコがやんわりと引き止める。

「まあまあ。二人とも、落ちついて。それ以上、余計な事言ったら死んじゃいますよ」

勿論、彼女なりの忠告なのだろうが、男は聞く耳を持たない。

「なんだ、貴様も抵抗する気」

その言葉を遮るように、エドがジャンプして膝蹴りを顔面に浴びせる。

今までで、一番体重の乗った会心の一撃。

「か」

だから余計に、人々の受けた衝撃は大きかった。

圧倒的優位を誇るはずのテロリストが、次々とボコボコにされていく。

「だぁれぇがぁ、ミジンコどチビかーーーッ!!!」

今のところ、背が低いと言われたエドが殴りかかり、男達がつっこみながら悲鳴をあげるという一方通行な光景が広がっている。

「ギャーー、そこまで言ってねェー!!」

キョウコが困った笑みを浮かべながら声をかける。

「エド。それ以上やったら死んじゃうって」

ちなみに、その光景を眺めていた乗客の老人が、

「鬼じゃ…」

とつぶやく。

まぁ、あながち間違ってないですが。

それはさておき、キョウコの一声でエドはリンチを止め、胡乱な眼差しでテロリストを指差す。

「て言うか、こいつら誰?」

(チビって単語に、無意識に反応しただけか…)

(ホント、エドらしい)

苦笑いするキョウコ、うなだれるアルのみならず、乗客も条件反射で攻撃したエドに唖然とする。







そして、エドに首の骨を折られた男は縄で縛られ、魂が口から半分出ている状態。

もう一人の男は顔面が痣だらけで、こちらも縄で縛られている。

「俺達の他に、機関室に二人。一等車には、将軍を人質に4人。一般客車の人質は数か所に集めて、4人で見張ってる」

「あとは?」

笑顔で訊ねる、しかしその握られた拳はグー。

「本当にこれだけだ!!本当だって!!」

テロリストの残存人数を聞いた乗客は途端にざわめき始める。

「まだ10人も!?」

「どうするんだ。仲間がやられたとわかったら、奴ら報復にくるんじゃ…」

ふと、キョウコは男が説明した中の、ある人物に思い至る。

(――ん?将軍……?)

すぐさま縄で縛られたテロリストに話しかけた。

「ちょっと聞きたい事があるんだけど」

身を乗り出したキョウコの美貌に男が見惚れていると、話を切り出した。

声には、微量の鋭さが混じっていた。

「あなた達の狙いは?」

「………現在収監中の、我らの指導者を解放すること…」

「そう。誰を狙って?」

「一等車に乗る、ハクロ将軍だ…」

「ハクロ将軍……」

キョウコは顎に手を当て思索にふける。

組み合わさる、それぞれのパーツ。

拍子をつけるように一つ一つ、彼らから聞いた話を脳裏に描いていく。

そうして辿り着いた、一つの答え。

「……やるっきゃないか」

アルが、キョウコの言葉に思考を触発され、大袈裟に、ふーやれやれ、とつぶやく。

「誰かさんが大人しくしてれば、穏便にすんだかもしれないのにねぇ」

「過去を悔やんでばかりでは前に進めないぞ、弟よ!!」

大人しくできない本人の顔からは、大量の汗。

「しょうがない。オレは上から、アルは下からでどうだ?キョウコは……下だな」

「「了解」」

考えを巡らせ、現時点で得られた情報から作戦を練り、動きやすくするためコートを脱ぐ。

「き…君達は、いったい何者なんだ?」

乗客の一人から、おそるおそる訊ねられた。

凶悪なテロリスト相手に果敢に突撃する三人は一体、何者なのかと。

「錬金術師だ!!」

窓枠に足をかけて身を乗り出し、風圧で飛ばされそうになるエドを、アルが引き止める。

「うおおおお!!風圧!!風圧!!」

「かっこわるー」


――不安だ………。


それを見た乗客は、一斉に不安を募らした。







壁に取りつけられた作業用の簡易梯子を登り、エドは肌を突き刺す強烈な向かい風に身を屈めて屋根を走り出した。

「…っと、そんじゃ…いっちょ行ってみっか!」







その頃、キョウコとアルがいる車両では男が仲間に無線をかけていた。

「あれ、おかしいな。後ろの奴ら、出ねぇ」

だが、いくら連絡しても返事がないことに疑問を感じ、様子を窺うべく歩き出す。

「ちょっと見て来るわ」

「おう」

仲間が担当する車両へ向かいながら、不満げにつぶやく。

「…たくよー、定時連絡はちゃんとしろって…」

その時、後部側の扉から、二メートルを超える鎧がゆらりと姿を現した。

全身に纏った鎧の威圧感に気圧され、男は銃弾を放った。

「うっ…わあああああああ」

至近距離から明確な殺意をもって放たれた弾丸は、避けようのない悲劇を連想させるに十分だった。

「ちょっと待って…跳弾してあぶないよ」

相手のことを心配するような物言い。

だから余計に、男の受けた衝撃は大きかった。

「アル、もう遅いよ」

アルの後ろから、キョウコが顔を出して指摘する。

そして放たれたはずの銃弾は、壁にも床にも天井にも、どこにもその痕跡を残していない。

既に遅く、頑丈な鎧によって跳ね返った弾が男の太ももに貫通し、激痛にのたうち回る。

「いいいでェェ~~~~~っっ」

悲痛な声を聞き、仲間が駆けつけた。

「おい。どうし…でっ…」

鎧姿のアルを見て無意識に後ずさり、やはり同じように撃つ。

しかし、それすらも遅かった。

声をかける間もなく弾が跳ね返って身体に直撃する。

「うわあああああ!!…って跳弾痛ェーー!!!」

「おじさんたち、アホですか」

「あはははは!」
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