第3話
夢小説設定
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「さらに、保管箱は翡翠 を細かく砕いたもので、さりげなくかつ、豪華にデザインされてる。うーん、こいつは職人技だね。おっと鍵は、純銀製ときたもんだ。ま、素人目の見積りだけど」
炭鉱の権利全てが記載された高級羊皮紙。
獅子の紋章が押された金の箔押し。
滅多にお目にかかれない調度品。
長ったらしい説明に嫌気が差したのか、仏頂面になる男達。
そして最後、エドがどこかさりげなさを意識した声音で告げる。
「これ全部、ひっくるめて―――親方んトコで、一泊二食三人分の料金――」
そう締めくくった。
「――てのが、妥当かな?」
親子が意味を猛然と巡らせば、カヤルが彼の意図に察知し、ある言葉に思い至った。
「あ…等価交換…」
炭鉱の権利書を譲渡する代わりに、三人の宿泊代を帳消しにしろ。
それが代価。
それが錬金術の基本。
それに和して、ホーリングの豪快な笑い声が轟いた。
「はは……はははは、たしかに高ぇな!!よっしゃ、買った!!」
「売った!!」
交渉成立。
その時、血相を変えたヨキが勢いよく戸を開けて入ってきた。
「錬金術師殿、これはいったいどういう事なのか!!」
「これはこれは、中尉殿。ちょうど今、権利書をここの親方に売ったところで」
「なんですとー!!?いや、それよりも!あなたにいただいた金塊が全部、石くれになっておりましたぞ!どういう事か、説明してください!」
慌てふためくヨキが指差した石を見て、アルは小声で訊ねる。
「…いつ石に戻したの?」
「さっき、出がけにちょろっと。キョウコが」
「イェイ」
ナイスチームプレイ。
大量の汗を垂らして詰め寄ると、エドは白々しく言ってのける。
「金塊なんて知りませーん♪」
「とぼけないでいただきたい!金の山と権利書を引き換えたではありませんか!これではサギだ!」
「あれ?権利書は無償で譲り受けたんですけどね。ほら、念書もありますし」
ヨキが驚愕に目を見開いて、羊皮紙を凝視する。
「はうっ!?ぬぐぐ…この取り引きは無効だ!おまえ達!権利書を取り返……せ!?」
すぐさま部下に命令を下すが、背後から憤怒の低い声が漏れる。
おそるおそる振り返ると、にこやかに、しかし目が笑っていない炭鉱夫達が立ちはだかる。
「力ずくで個人の資産を取り上げようなんて、いかんですなぁ」
「これって、職権乱用ってやつか?」
「う、うるさい!どけ、貴様ら。ケガしたくなったら、さっさと…」
肩を怒らせてヨキが叫んだ。
「炭鉱マンの体力、なめてもらっちゃ困るよ、中尉殿」
中肉中背のヨキと比べて、炭鉱夫達は背が高く、体格もよかった。
そして全員がツルハシを手に取ったり、指を、べきごき、と鳴らす。
いつの間にか、部下二人はあっという間に気絶させられ、成す術もないヨキはたちまち顔を青ざめる。
「ひぃ!!」
「あ、そうだ、中尉」
すっかり怯えているヨキに、最後の駄目押しとして声がかけられる。
「中尉の無能っぷりは、上の方にきちんと通しときますんで。そこんとこ、よろしく」
無能っぷりを強調するエドにヨキは顔面蒼白となり、完全に崩れ落ちた。
炭鉱の権利を握っていたヨキの圧政はここに無事終了する運びとなった。
「よっしゃー!!」
「酒持ってこい、酒ーーーっ!!」
ヨキからの圧政の解放によって宴が開かれ、声やら音やら動きやらが弾け溢れた。
『うおおおおおおおおお』
誰もが料理や飲み物を片手に浮かれ、口々に語り合っていた。
そしてエドに酒を飲ませようとする。
「飲めーっ!!」
「飲まねぇと、大きくなれんぞー!!」
「未成年に酒飲ますなよ!!」
「なにぃ!?俺がおめーの位の年の頃なんてなぁ」
見た目も雰囲気も飽和状態の様子を、カウンター席に座るキョウコがつぶやく。
「…気にしてるなら、牛乳飲めばいいのに」
ホーリングの奥さんから渡されたグラスに、そっと口をつける。
牛乳嫌いな金髪の少年に呆れているため、おそらく水の味とか全然分かっていないだろう。
カヤルは涙を浮かべて権利書を握りながら口を開いた。
「親父…エドは魂まで売っちゃいなかったよ」
「ああ。そうだな」
ちなみに、キョウコが飲んでいるものは水ではなく酒であった。
宴会の席のエネルギーはある瞬間を境にぱたりと尽きる。
それは炭鉱夫もエドも例外ではなかったようだ。
男達は酔い潰れ、エドは食い過ぎで眠りこけていた。
起きているのは、ほのかに頬が赤いキョウコと素面 のアル、ホーリングの妻の三人である。
何やらいい夢を見ているらしいエドはキョウコの膝で眠りながら、寝言を言う。
「もう食べられない…」
「あははは!夢の中でも食べてるし」
甲斐甲斐しく兄の世話を焼くアルは毛布を片手にプンプンと怒る。
「また、おなか出して寝て!だらしないなぁ、もう!」
「アルの方がお兄ちゃんみたいよね」
まるで保護者の役割のような感じだと、くすりと笑みをこぼすキョウコは自分の隣をポンポンと叩く。
「アル、こっち来て」
「え?何で?」
「いいから、いいから」
首を傾げながらもアルが隣に座るのを確認したキョウコはそっと身を寄せその肩へ、自分の頭を載っけた。
(え……ぇぇぇぇっ!)
アルは声にならない悲鳴をあげる。
「はー…冷たくて、気持ちいいー…」
彼女の顔を見れば、なんだかずいぶん赤かった。
それだけで動揺するが、それはそれとして、やたらに熱いのが気にかかる。
(ほぼ確実に全力で抱きつくことは間違いないが、酔って眠った女の子相手にそれはいくらなんでもルール違反だぞ、アルフォンス!)
「姉さんって」
ぽつり、と。
上目遣いに見上げるキョウコが囁くように言った。
「姉さんって……呼んでくれたよね。ああ、あたし、アルのお姉ちゃんなんだなって……」
「……自慢の姉さんだよ」
静かで優しい時間が流れていく。
少女の吐息。
柔らかな体温。
頭の奥がぼんやりと熱をもって痺れてくる。
キョウコの首がいきなり、がくんと落ち、そして身体がふらりと揺れた。
「うわっと!――って、キョウコ?」
驚く間もなく、支える間もなく。
こてん、とアルの肩へ首を預けたキョウコは静かに目を閉じた。
「……くぅ」
そして聞こえる、静かな寝息。
あ、どうやら完全に寝入ってしまいました。
エドがキョウコの膝で眠る。
キョウコはアルの肩に頭を載せて眠る。
キョウコに寄り添われたアルは、ぴくりとも動けず固まる。
それはとても心地よくて……これだけで今日一日、自分がやったことが何も間違いなかったと思えるような……重く疲れた体を包む極上の安堵感。
こうして、その夜は静かに、緩やかに更けていくのであった――。
炭鉱の権利全てが記載された高級羊皮紙。
獅子の紋章が押された金の箔押し。
滅多にお目にかかれない調度品。
長ったらしい説明に嫌気が差したのか、仏頂面になる男達。
そして最後、エドがどこかさりげなさを意識した声音で告げる。
「これ全部、ひっくるめて―――親方んトコで、一泊二食三人分の料金――」
そう締めくくった。
「――てのが、妥当かな?」
親子が意味を猛然と巡らせば、カヤルが彼の意図に察知し、ある言葉に思い至った。
「あ…等価交換…」
炭鉱の権利書を譲渡する代わりに、三人の宿泊代を帳消しにしろ。
それが代価。
それが錬金術の基本。
それに和して、ホーリングの豪快な笑い声が轟いた。
「はは……はははは、たしかに高ぇな!!よっしゃ、買った!!」
「売った!!」
交渉成立。
その時、血相を変えたヨキが勢いよく戸を開けて入ってきた。
「錬金術師殿、これはいったいどういう事なのか!!」
「これはこれは、中尉殿。ちょうど今、権利書をここの親方に売ったところで」
「なんですとー!!?いや、それよりも!あなたにいただいた金塊が全部、石くれになっておりましたぞ!どういう事か、説明してください!」
慌てふためくヨキが指差した石を見て、アルは小声で訊ねる。
「…いつ石に戻したの?」
「さっき、出がけにちょろっと。キョウコが」
「イェイ」
ナイスチームプレイ。
大量の汗を垂らして詰め寄ると、エドは白々しく言ってのける。
「金塊なんて知りませーん♪」
「とぼけないでいただきたい!金の山と権利書を引き換えたではありませんか!これではサギだ!」
「あれ?権利書は無償で譲り受けたんですけどね。ほら、念書もありますし」
ヨキが驚愕に目を見開いて、羊皮紙を凝視する。
「はうっ!?ぬぐぐ…この取り引きは無効だ!おまえ達!権利書を取り返……せ!?」
すぐさま部下に命令を下すが、背後から憤怒の低い声が漏れる。
おそるおそる振り返ると、にこやかに、しかし目が笑っていない炭鉱夫達が立ちはだかる。
「力ずくで個人の資産を取り上げようなんて、いかんですなぁ」
「これって、職権乱用ってやつか?」
「う、うるさい!どけ、貴様ら。ケガしたくなったら、さっさと…」
肩を怒らせてヨキが叫んだ。
「炭鉱マンの体力、なめてもらっちゃ困るよ、中尉殿」
中肉中背のヨキと比べて、炭鉱夫達は背が高く、体格もよかった。
そして全員がツルハシを手に取ったり、指を、べきごき、と鳴らす。
いつの間にか、部下二人はあっという間に気絶させられ、成す術もないヨキはたちまち顔を青ざめる。
「ひぃ!!」
「あ、そうだ、中尉」
すっかり怯えているヨキに、最後の駄目押しとして声がかけられる。
「中尉の無能っぷりは、上の方にきちんと通しときますんで。そこんとこ、よろしく」
無能っぷりを強調するエドにヨキは顔面蒼白となり、完全に崩れ落ちた。
炭鉱の権利を握っていたヨキの圧政はここに無事終了する運びとなった。
「よっしゃー!!」
「酒持ってこい、酒ーーーっ!!」
ヨキからの圧政の解放によって宴が開かれ、声やら音やら動きやらが弾け溢れた。
『うおおおおおおおおお』
誰もが料理や飲み物を片手に浮かれ、口々に語り合っていた。
そしてエドに酒を飲ませようとする。
「飲めーっ!!」
「飲まねぇと、大きくなれんぞー!!」
「未成年に酒飲ますなよ!!」
「なにぃ!?俺がおめーの位の年の頃なんてなぁ」
見た目も雰囲気も飽和状態の様子を、カウンター席に座るキョウコがつぶやく。
「…気にしてるなら、牛乳飲めばいいのに」
ホーリングの奥さんから渡されたグラスに、そっと口をつける。
牛乳嫌いな金髪の少年に呆れているため、おそらく水の味とか全然分かっていないだろう。
カヤルは涙を浮かべて権利書を握りながら口を開いた。
「親父…エドは魂まで売っちゃいなかったよ」
「ああ。そうだな」
ちなみに、キョウコが飲んでいるものは水ではなく酒であった。
宴会の席のエネルギーはある瞬間を境にぱたりと尽きる。
それは炭鉱夫もエドも例外ではなかったようだ。
男達は酔い潰れ、エドは食い過ぎで眠りこけていた。
起きているのは、ほのかに頬が赤いキョウコと
何やらいい夢を見ているらしいエドはキョウコの膝で眠りながら、寝言を言う。
「もう食べられない…」
「あははは!夢の中でも食べてるし」
甲斐甲斐しく兄の世話を焼くアルは毛布を片手にプンプンと怒る。
「また、おなか出して寝て!だらしないなぁ、もう!」
「アルの方がお兄ちゃんみたいよね」
まるで保護者の役割のような感じだと、くすりと笑みをこぼすキョウコは自分の隣をポンポンと叩く。
「アル、こっち来て」
「え?何で?」
「いいから、いいから」
首を傾げながらもアルが隣に座るのを確認したキョウコはそっと身を寄せその肩へ、自分の頭を載っけた。
(え……ぇぇぇぇっ!)
アルは声にならない悲鳴をあげる。
「はー…冷たくて、気持ちいいー…」
彼女の顔を見れば、なんだかずいぶん赤かった。
それだけで動揺するが、それはそれとして、やたらに熱いのが気にかかる。
(ほぼ確実に全力で抱きつくことは間違いないが、酔って眠った女の子相手にそれはいくらなんでもルール違反だぞ、アルフォンス!)
「姉さんって」
ぽつり、と。
上目遣いに見上げるキョウコが囁くように言った。
「姉さんって……呼んでくれたよね。ああ、あたし、アルのお姉ちゃんなんだなって……」
「……自慢の姉さんだよ」
静かで優しい時間が流れていく。
少女の吐息。
柔らかな体温。
頭の奥がぼんやりと熱をもって痺れてくる。
キョウコの首がいきなり、がくんと落ち、そして身体がふらりと揺れた。
「うわっと!――って、キョウコ?」
驚く間もなく、支える間もなく。
こてん、とアルの肩へ首を預けたキョウコは静かに目を閉じた。
「……くぅ」
そして聞こえる、静かな寝息。
あ、どうやら完全に寝入ってしまいました。
エドがキョウコの膝で眠る。
キョウコはアルの肩に頭を載せて眠る。
キョウコに寄り添われたアルは、ぴくりとも動けず固まる。
それはとても心地よくて……これだけで今日一日、自分がやったことが何も間違いなかったと思えるような……重く疲れた体を包む極上の安堵感。
こうして、その夜は静かに、緩やかに更けていくのであった――。