07話:クチナシは回視する
雅間という人物を認識したのは、確か1月も半ば。寒さもピークに達しているくらいの、そんな季節だった。
途中までの帰路は、いつものように宇栄原と一緒だった。別に一緒に帰る必要性なんて何処にもないのだが、帰り道が同じでしかも同じ学校に通っているとなると、どうも自然とそうなることが多かったのだ。
「今日は普通に帰るの?」
「……いや、図書館行く」
「また? 相変わらず図書館好きだよねぇ……」
宇栄原が言う好きというのと俺の解釈はまた違う。というか全然違うのだけが、別に話せるような明確な理由がないのも事実だった。まあ、単純に家でなにか作業をするというのがどうにも好きじゃないというだけではある。一般的な家庭であり、決して家族との折り合いが悪いとかそういう訳でもないが、それとこれとは話は別だ。
「図書室と何が違うの?」
「……お前がいないところ」
「うわー、そういうこと言う?」
思わず皮肉めいたことが口から出るが、それはあながち間違いではない。かといって、別に本当に嫌いだとかいう極端な話になるわけでは無いが。
「そういうお前は普通に帰るんだろ?」
「まあね。今姉さんが原稿で死んでるから、おれが代わりに店手伝わないといけなくてさぁ」
面倒だけど、と付け加え更に言葉を続けた。
「……ま、それくらいはやらないとね」
苦笑交じりの言葉だったが、どこか楽しそうにも見えたのは、きっと気のせいではなかったのだろう。
「じゃ、またー」
簡単な挨拶をかわし、宇栄原は家へ。俺はそのまま図書館へと向かった。
家からだとそこまで遠くはないが、学校からだと少しだけ距離が遠くなる。だからどうという訳ではないが、いつもだった一回家に寄ってから向かうのだけれど、今日は少しだけ違った。別に特に意味があったわけではなくて、本当にただの気まぐれで学校帰りの足でそのまま図書館へと歩を進めた。
……この時はそう思っていたけど、もしかしたら本当は早く図書館に着きたくて仕方がなかっただけなのかも知れない。
いくつかの道を歩み、冷たい風が頬を掠めていくのをマフラーでどうにか阻止しながら信号待ちをしているこの場所。別になんてことないよくある道路なのだが、図書館に行く時には必ず通る場所だ。それだけの意味しか持たないただの通り道であることに変わりはない。
(……今日はいない、か)
辺りを少し見回して、俺の見える範囲にとあるものが入らないということを確認する。
俺が探しているのは一体何なのか? この期に及んで、それがこの辺りを徘徊している猫だったなんて言う訳では毛頭ないが、いっそそっちのほうが単純で良かったのかも知れない。
歩道側の信号が青になったのが視界に入る。車通りがそんなに多くない道路をいつにも増してそわそわしながら歩いていたのは、これから訪れるであろう出来事をどこかで予感していたからだろうか? 否、そんな超能力のような力を俺は持ち合わせていない。恐らく、その日はいつもより寒かったからというだけの話だろう。
途中までの帰路は、いつものように宇栄原と一緒だった。別に一緒に帰る必要性なんて何処にもないのだが、帰り道が同じでしかも同じ学校に通っているとなると、どうも自然とそうなることが多かったのだ。
「今日は普通に帰るの?」
「……いや、図書館行く」
「また? 相変わらず図書館好きだよねぇ……」
宇栄原が言う好きというのと俺の解釈はまた違う。というか全然違うのだけが、別に話せるような明確な理由がないのも事実だった。まあ、単純に家でなにか作業をするというのがどうにも好きじゃないというだけではある。一般的な家庭であり、決して家族との折り合いが悪いとかそういう訳でもないが、それとこれとは話は別だ。
「図書室と何が違うの?」
「……お前がいないところ」
「うわー、そういうこと言う?」
思わず皮肉めいたことが口から出るが、それはあながち間違いではない。かといって、別に本当に嫌いだとかいう極端な話になるわけでは無いが。
「そういうお前は普通に帰るんだろ?」
「まあね。今姉さんが原稿で死んでるから、おれが代わりに店手伝わないといけなくてさぁ」
面倒だけど、と付け加え更に言葉を続けた。
「……ま、それくらいはやらないとね」
苦笑交じりの言葉だったが、どこか楽しそうにも見えたのは、きっと気のせいではなかったのだろう。
「じゃ、またー」
簡単な挨拶をかわし、宇栄原は家へ。俺はそのまま図書館へと向かった。
家からだとそこまで遠くはないが、学校からだと少しだけ距離が遠くなる。だからどうという訳ではないが、いつもだった一回家に寄ってから向かうのだけれど、今日は少しだけ違った。別に特に意味があったわけではなくて、本当にただの気まぐれで学校帰りの足でそのまま図書館へと歩を進めた。
……この時はそう思っていたけど、もしかしたら本当は早く図書館に着きたくて仕方がなかっただけなのかも知れない。
いくつかの道を歩み、冷たい風が頬を掠めていくのをマフラーでどうにか阻止しながら信号待ちをしているこの場所。別になんてことないよくある道路なのだが、図書館に行く時には必ず通る場所だ。それだけの意味しか持たないただの通り道であることに変わりはない。
(……今日はいない、か)
辺りを少し見回して、俺の見える範囲にとあるものが入らないということを確認する。
俺が探しているのは一体何なのか? この期に及んで、それがこの辺りを徘徊している猫だったなんて言う訳では毛頭ないが、いっそそっちのほうが単純で良かったのかも知れない。
歩道側の信号が青になったのが視界に入る。車通りがそんなに多くない道路をいつにも増してそわそわしながら歩いていたのは、これから訪れるであろう出来事をどこかで予感していたからだろうか? 否、そんな超能力のような力を俺は持ち合わせていない。恐らく、その日はいつもより寒かったからというだけの話だろう。