04話:幻影畑
眩しかった視界。無意識のうちに目を瞑って、かつ咄嗟に腕で遮っていたようだったけど、その動作が次第と不要になっていくのがよく分かった。
僕は、意を決して目の前を邪魔しているそれら全ての行為を止める。ゆっくりと辺りが開けていった先に見えたのは、あからさまなほどに眩しかった光が少しずつ粒へと変わっていく姿。
さっきまで僕の目に映っていたものなんていうのは無かったかのように辺りに広がっていくのは、僕の手のひらにおさまっているロデオと、何かを考えているとも呆けているとも取れるルシアン。それに、当たり前のように存在しているリベリオさんの部屋と静寂のみ。
僕の目に見えた何かなんていうものは、もう何処にも存在していなかった。
「今のは……?」
自然と、口からそんな言葉が零れていく。それに反応したのは、他でもなくロデオだった。
「この家の、記憶なの……」
「記憶?」
「でも……」
彼の声が、段々と小さくなっていく。
「もう、なくなっちゃった……」
その一言に、一体どれだけの思いが込められているのかは今の僕には分からない。ただ、ロデオの消沈具合からして、彼はこの家にかなり関係しているのではないかということだけはよく分かった。
「……ルシアンは見た?」
「ああまあ、うん……」
僕と同じものが見えたのかどうなのか、何かを考えているようでいまいち歯切れの悪い返事を反してくるルシアンは、次に一言だけ言葉を漏らした。
「花畑ねぇ……」
「ルシアンは知ってる?」
「……いや、この近くにあるだなんて聞いたことないな。もう枯れてるだけなのかも知れないけど……」
「まあそれはそれとして」と前置きをしつつ、ルシアンは言葉を続ける。
「帰りに行ってみる? さっきのでなんとなく場所は分かったから」
「そう……だね」
「じゃ、さっさと行こうか。結構いい時間だから、あんまり長居は出来ないし」
本当は、ルシアンに聞いても分からないようなことをもう少し沢山聞きたいんだけど、余りにも冷静ないつものルシアンがそこにはいたから、何となくタイミングが掴めないまま。
「お、おいら……」
ゆっくりと、ロデオが声をあげた。
「行かないほうが、いいとおもう……」
「……どうして?」
「だって……」
ルシアンの問いに、ロデオはすっかり黙ってしまう。
「まただんまり?」
その様子を見て、呆れに似た溜め息がルシアンの口から漏れた。
「……じゃあ、ロデオくんとはここでお別れだね」
「え……?」
「ちょ、ちょっとルシアン?」
「またね、小さな妖精くん」
それだけ言うと、誰の話を聞くこともせずその辺りに置かれたランタンだけ手にとって、僕をも置いて部屋から出ていってしまった。扉の絞まる閉まる尾とが音が、酷く耳につく。
「ルシアンってば……もう」
いつものルシアンだと言われれば確かにそうだったかも知れないけど、やっぱりどこかおかしいというか、どこか不自然で僕には少し怒っているように見えた。いや、怒っているというのは語弊がある。僕が質問する一切の時間を与えなかった辺り、出来るだけ早くこの場所から去りたかったといった感じに見えた。
どちらにしたって、別に置いていくことなんてないのに。
「……ルシアンはああ言ってるけど、ロデオはどうする?」
「うう……」
ロデオは、眉を歪ませながらどうしようかといった様子で僕を見つめている。今にも涙が零れ落ちそうだったが、それよりも先に声をあげた。
「お、おいらも行くよお……!」
「分かった分かった、じゃあ早く行こうか。あれじゃ本当に置いてかれちゃうし」
宥めるように、僕はロデオを胸まで寄せる。今にも枯れ果ててしまいそうな程に溢れている涙と、それに合わせてグズグズ言わせている鼻のお陰で、マフラーもそうだけど服が大変なことになっている。
これは帰ったら全部洗わなきゃなあなどと苦笑いを浮かべながら、僕は誰かが閉めていった扉を再び開けた。
僕は、意を決して目の前を邪魔しているそれら全ての行為を止める。ゆっくりと辺りが開けていった先に見えたのは、あからさまなほどに眩しかった光が少しずつ粒へと変わっていく姿。
さっきまで僕の目に映っていたものなんていうのは無かったかのように辺りに広がっていくのは、僕の手のひらにおさまっているロデオと、何かを考えているとも呆けているとも取れるルシアン。それに、当たり前のように存在しているリベリオさんの部屋と静寂のみ。
僕の目に見えた何かなんていうものは、もう何処にも存在していなかった。
「今のは……?」
自然と、口からそんな言葉が零れていく。それに反応したのは、他でもなくロデオだった。
「この家の、記憶なの……」
「記憶?」
「でも……」
彼の声が、段々と小さくなっていく。
「もう、なくなっちゃった……」
その一言に、一体どれだけの思いが込められているのかは今の僕には分からない。ただ、ロデオの消沈具合からして、彼はこの家にかなり関係しているのではないかということだけはよく分かった。
「……ルシアンは見た?」
「ああまあ、うん……」
僕と同じものが見えたのかどうなのか、何かを考えているようでいまいち歯切れの悪い返事を反してくるルシアンは、次に一言だけ言葉を漏らした。
「花畑ねぇ……」
「ルシアンは知ってる?」
「……いや、この近くにあるだなんて聞いたことないな。もう枯れてるだけなのかも知れないけど……」
「まあそれはそれとして」と前置きをしつつ、ルシアンは言葉を続ける。
「帰りに行ってみる? さっきのでなんとなく場所は分かったから」
「そう……だね」
「じゃ、さっさと行こうか。結構いい時間だから、あんまり長居は出来ないし」
本当は、ルシアンに聞いても分からないようなことをもう少し沢山聞きたいんだけど、余りにも冷静ないつものルシアンがそこにはいたから、何となくタイミングが掴めないまま。
「お、おいら……」
ゆっくりと、ロデオが声をあげた。
「行かないほうが、いいとおもう……」
「……どうして?」
「だって……」
ルシアンの問いに、ロデオはすっかり黙ってしまう。
「まただんまり?」
その様子を見て、呆れに似た溜め息がルシアンの口から漏れた。
「……じゃあ、ロデオくんとはここでお別れだね」
「え……?」
「ちょ、ちょっとルシアン?」
「またね、小さな妖精くん」
それだけ言うと、誰の話を聞くこともせずその辺りに置かれたランタンだけ手にとって、僕をも置いて部屋から出ていってしまった。扉の絞まる閉まる尾とが音が、酷く耳につく。
「ルシアンってば……もう」
いつものルシアンだと言われれば確かにそうだったかも知れないけど、やっぱりどこかおかしいというか、どこか不自然で僕には少し怒っているように見えた。いや、怒っているというのは語弊がある。僕が質問する一切の時間を与えなかった辺り、出来るだけ早くこの場所から去りたかったといった感じに見えた。
どちらにしたって、別に置いていくことなんてないのに。
「……ルシアンはああ言ってるけど、ロデオはどうする?」
「うう……」
ロデオは、眉を歪ませながらどうしようかといった様子で僕を見つめている。今にも涙が零れ落ちそうだったが、それよりも先に声をあげた。
「お、おいらも行くよお……!」
「分かった分かった、じゃあ早く行こうか。あれじゃ本当に置いてかれちゃうし」
宥めるように、僕はロデオを胸まで寄せる。今にも枯れ果ててしまいそうな程に溢れている涙と、それに合わせてグズグズ言わせている鼻のお陰で、マフラーもそうだけど服が大変なことになっている。
これは帰ったら全部洗わなきゃなあなどと苦笑いを浮かべながら、僕は誰かが閉めていった扉を再び開けた。