34話:ニセモノとヒミツ
「朝はやっぱりまだ寒いよなぁ……」
世間一般的には春に分類されている四月の早朝は、まだ春と呼ぶには相応しくない気温だった。いくら日中に寒いからといって、寒冷地域でもないのに四月にマフラーをしていたら変な目で見られるだろうが、まだ歩いている人が少ないこの時間であれば、さほど注目をされることはなかった。
一般的な学生はまだ起きてすらいないであろう時間の中、オレは制服を着て外を走っていた。こんな時間に一体何をしているのかと言えば、別に運動がしたいからでも、部活の早朝の練習に間に合わないわけでもない。コンビニのバイトの時間が迫っているのだ。といっても、別に急がなければいけない程遅れているというわけではないのだが。余りにも面白みに欠けるバイトへ行く道を、オレは定期的に違う道を使ってバイトに向かっているのだ。
こんな時間から学生がバイトだなんてと、何も知らない周りの人間は思うかもしれないが、そんなことは余計なお世話で、世の中そう単純には出来ていない。と言うより、特待生として入学しているお陰もあって、そこまで生活も困窮しているわけでもない(と、胸を張って言えればよかったのだが)。
だがそれでも、公立高校に通うより当然出費は多かった。自分で使うお金くらいは自分でどうにかするのが、この場合は普通だろうし、まあ……なんというか、家に居ても面白くないのだ。
(幽霊、この辺りにはいないのかな……いや、いても困るけど)
走っている最中でも、オレの意識は自然とそんなことを考えてしまっている。
幽霊を探すという行為は、一見難しいと思うかもしれない。生きている人々よりも存在している数は少ないだろうし、確かに、そう多く見つかるものでも無い。とはいえ、すぐに区別はつくから(あくまでも、感覚的なものでしかないのだが)難しいという話ではないだろう。
しかしその数少ない幽霊の中で、話が通じる幽霊と通じない幽霊がいるということを忘れてはいけない。
幽霊だって、急に訳の分からない奴に話しかけられても意味が分からないだろうし、オレのことを幽霊が祓えるのだと勘違いするような幽霊も当然いる。この前幽霊に追われたのがいい例だが、正直話が通じるような幽霊のほうが少ないのではないだろうか。そうじゃなければ、悪霊や怨霊などという言葉が、視えない人々にもすらも根強いているなんてことはないはずなのだから。
車通りのない一車線道路の歩道を若さに任せて走っていると、向かいの歩道に一人の女性がいるのがみえた。
少し近づいて分かったが、髪型はセミロングで白い長袖のシャツを着ており、黄色いサロペットスカートを風に任せて靡かせている。四月の平均的な気候と、早朝ということもあり、少し薄着の印象だった。
(あれ、幽霊か……)
目だけを動かし女性を追いながらも、オレは走るのを止めなかった。いくらバイトの時間にまだ余裕があるからといって、全く知らない幽霊を相手にするほどの時間まではないし、そんなにホイホイ話しかけていたら、それこそ本当に、命がいくつあっても足りないなどという話になってしまうだろう。
(この道、また使うか迷うな……)
帰りは帰りでまたバイトがあるのだが、夕方のほうがまだ余裕があったと記憶している。僅かに後ろ髪を轢かれながらも、オレはバイト先のコンビニへと向かった。
世間一般的には春に分類されている四月の早朝は、まだ春と呼ぶには相応しくない気温だった。いくら日中に寒いからといって、寒冷地域でもないのに四月にマフラーをしていたら変な目で見られるだろうが、まだ歩いている人が少ないこの時間であれば、さほど注目をされることはなかった。
一般的な学生はまだ起きてすらいないであろう時間の中、オレは制服を着て外を走っていた。こんな時間に一体何をしているのかと言えば、別に運動がしたいからでも、部活の早朝の練習に間に合わないわけでもない。コンビニのバイトの時間が迫っているのだ。といっても、別に急がなければいけない程遅れているというわけではないのだが。余りにも面白みに欠けるバイトへ行く道を、オレは定期的に違う道を使ってバイトに向かっているのだ。
こんな時間から学生がバイトだなんてと、何も知らない周りの人間は思うかもしれないが、そんなことは余計なお世話で、世の中そう単純には出来ていない。と言うより、特待生として入学しているお陰もあって、そこまで生活も困窮しているわけでもない(と、胸を張って言えればよかったのだが)。
だがそれでも、公立高校に通うより当然出費は多かった。自分で使うお金くらいは自分でどうにかするのが、この場合は普通だろうし、まあ……なんというか、家に居ても面白くないのだ。
(幽霊、この辺りにはいないのかな……いや、いても困るけど)
走っている最中でも、オレの意識は自然とそんなことを考えてしまっている。
幽霊を探すという行為は、一見難しいと思うかもしれない。生きている人々よりも存在している数は少ないだろうし、確かに、そう多く見つかるものでも無い。とはいえ、すぐに区別はつくから(あくまでも、感覚的なものでしかないのだが)難しいという話ではないだろう。
しかしその数少ない幽霊の中で、話が通じる幽霊と通じない幽霊がいるということを忘れてはいけない。
幽霊だって、急に訳の分からない奴に話しかけられても意味が分からないだろうし、オレのことを幽霊が祓えるのだと勘違いするような幽霊も当然いる。この前幽霊に追われたのがいい例だが、正直話が通じるような幽霊のほうが少ないのではないだろうか。そうじゃなければ、悪霊や怨霊などという言葉が、視えない人々にもすらも根強いているなんてことはないはずなのだから。
車通りのない一車線道路の歩道を若さに任せて走っていると、向かいの歩道に一人の女性がいるのがみえた。
少し近づいて分かったが、髪型はセミロングで白い長袖のシャツを着ており、黄色いサロペットスカートを風に任せて靡かせている。四月の平均的な気候と、早朝ということもあり、少し薄着の印象だった。
(あれ、幽霊か……)
目だけを動かし女性を追いながらも、オレは走るのを止めなかった。いくらバイトの時間にまだ余裕があるからといって、全く知らない幽霊を相手にするほどの時間まではないし、そんなにホイホイ話しかけていたら、それこそ本当に、命がいくつあっても足りないなどという話になってしまうだろう。
(この道、また使うか迷うな……)
帰りは帰りでまたバイトがあるのだが、夕方のほうがまだ余裕があったと記憶している。僅かに後ろ髪を轢かれながらも、オレはバイト先のコンビニへと向かった。