33話:ニセモノの行動理由
――幽霊よりももっと格が上で、でも悪霊とかいうのとはまた別のもの。オレらでは手に負えないような、いわゆる怨霊・悪霊という存在を、無条件でとある場所に送り出すためだけに存在していて、それ以外の行動は禁止されているモノのこと。
オレが宇栄原先輩に言った逝邪という存在に対する説明は、おおかたこんな感じだ。基本的にはタカハラさんが言っていたことをそのまま言っているのだが、この説明には幾つかのフィクションが含まれている。
まず一つめは、「オレらでは手に負えない」という部分である。確かに生身の人間が手に負えないような存在もいるが、必ずしもそうというわけではなく、それは力の持ち主がどこまでその力を幽霊に対して使えるのかということに依存するし、最悪それは無くても対話でどうにかなったりすることも、ゼロではない(とても稀有なケースのようだが)。
それともう一つ、「それ以外の行動は禁止されている」という部分だ。正確には、「それ以外の行動をするモノは逝邪にはなり得ない」というのが正しいだろう。
嘘を織り交ぜてまでこの話をわざわざしに来たのには、一応理由がある。別にやましいことは何もないわけだし、変に警戒心を駆り立てるようなことをするのは余りメリットがあるものではないのだが……。
「神崎先輩はいると思います? 逝邪って」
この人たちがその類の存在を知らないのなら、知らないままの方がいいに決まっているし、だったら余り悪影響のなさそうなことを口にしたほうがいいだろうと思ったのだ。
だからこの時、本来なら暝邪(祥吾)の話をするべきところで、オレはそれをしなかった。
「……俺、幽霊とか見えないんだけど」
「いや、視える視えないの話なんてしてないですから」
神崎先輩に適当に話を振りつつ、オレは宇栄原先輩の顔をチラリと視界に入れる。
先輩は、オレの話を聞いてとても難しい顔をしていた。驚いたというよりは、どうしてそれを自分に話してくるのか、という思案の顔のようにも見えた。こんな出来れば聞きたくないような情報を急に聞かされればそれも当然だろうが、その反応で明確になってしまったりものがある。
ここでこんなに考え始めるということは、この人は、もしかするとこれまでオレと同じように幽霊の視える人物に会ったことが無く、オレの言う逝邪はおろか、瞑邪という存在にも無縁だった人物なのだろうということが。
恐らく幽霊という類のものは認識しているのだろうが(そうでなければ困るが)、先輩のように力を持っているような人がこれまでそれに無縁だったというのはどういうことなのだろう。いや、暝邪や逝邪にそう多く接触があるのもおかしな話だが……。
「君は、その力っていうのは持ってるの?」宇栄原先輩は、これまでのオレの説明の中から取りこぼしたものではなく、どういうわけかオレについての質問をしてきた。
「オレですか? そうですねえ……」
その質問は、少々分が悪かった。それを聞かれるとは思ってなかったというのもあるが、オレのことはいいからもう少し別の質問をしてくれればよかったのにと、理不尽な感情に苛まれた。オレにはそれが無いから、今ここでそんな話をしに来ているのだから。
これにどう答えるべきか、少しだけ考えた。それがないから、ひとつ頼みごとを聞いて欲しいというのが一番手っ取り早いのだろう。でもオレは、それを言葉にするのを躊躇した。
祥吾は既に瞑邪と呼ぶにはふさわしく、手立ては幾らも残っていない。放っておいたらいつ何が起こるか分からないという不安に駆られてしまうし、だから今、こうして誰かに話を聞いてもらおうとしている。
でもこんなことをしておいて今更、オレは思うのだ。
「あったら、良かったんですけどね」
出会ったばかりの人にそんなことを頼むなんて、余りにも都合が良すぎるのではないかと。
オレが宇栄原先輩に言った逝邪という存在に対する説明は、おおかたこんな感じだ。基本的にはタカハラさんが言っていたことをそのまま言っているのだが、この説明には幾つかのフィクションが含まれている。
まず一つめは、「オレらでは手に負えない」という部分である。確かに生身の人間が手に負えないような存在もいるが、必ずしもそうというわけではなく、それは力の持ち主がどこまでその力を幽霊に対して使えるのかということに依存するし、最悪それは無くても対話でどうにかなったりすることも、ゼロではない(とても稀有なケースのようだが)。
それともう一つ、「それ以外の行動は禁止されている」という部分だ。正確には、「それ以外の行動をするモノは逝邪にはなり得ない」というのが正しいだろう。
嘘を織り交ぜてまでこの話をわざわざしに来たのには、一応理由がある。別にやましいことは何もないわけだし、変に警戒心を駆り立てるようなことをするのは余りメリットがあるものではないのだが……。
「神崎先輩はいると思います? 逝邪って」
この人たちがその類の存在を知らないのなら、知らないままの方がいいに決まっているし、だったら余り悪影響のなさそうなことを口にしたほうがいいだろうと思ったのだ。
だからこの時、本来なら暝邪(祥吾)の話をするべきところで、オレはそれをしなかった。
「……俺、幽霊とか見えないんだけど」
「いや、視える視えないの話なんてしてないですから」
神崎先輩に適当に話を振りつつ、オレは宇栄原先輩の顔をチラリと視界に入れる。
先輩は、オレの話を聞いてとても難しい顔をしていた。驚いたというよりは、どうしてそれを自分に話してくるのか、という思案の顔のようにも見えた。こんな出来れば聞きたくないような情報を急に聞かされればそれも当然だろうが、その反応で明確になってしまったりものがある。
ここでこんなに考え始めるということは、この人は、もしかするとこれまでオレと同じように幽霊の視える人物に会ったことが無く、オレの言う逝邪はおろか、瞑邪という存在にも無縁だった人物なのだろうということが。
恐らく幽霊という類のものは認識しているのだろうが(そうでなければ困るが)、先輩のように力を持っているような人がこれまでそれに無縁だったというのはどういうことなのだろう。いや、暝邪や逝邪にそう多く接触があるのもおかしな話だが……。
「君は、その力っていうのは持ってるの?」宇栄原先輩は、これまでのオレの説明の中から取りこぼしたものではなく、どういうわけかオレについての質問をしてきた。
「オレですか? そうですねえ……」
その質問は、少々分が悪かった。それを聞かれるとは思ってなかったというのもあるが、オレのことはいいからもう少し別の質問をしてくれればよかったのにと、理不尽な感情に苛まれた。オレにはそれが無いから、今ここでそんな話をしに来ているのだから。
これにどう答えるべきか、少しだけ考えた。それがないから、ひとつ頼みごとを聞いて欲しいというのが一番手っ取り早いのだろう。でもオレは、それを言葉にするのを躊躇した。
祥吾は既に瞑邪と呼ぶにはふさわしく、手立ては幾らも残っていない。放っておいたらいつ何が起こるか分からないという不安に駆られてしまうし、だから今、こうして誰かに話を聞いてもらおうとしている。
でもこんなことをしておいて今更、オレは思うのだ。
「あったら、良かったんですけどね」
出会ったばかりの人にそんなことを頼むなんて、余りにも都合が良すぎるのではないかと。