28話:ヒミツに触れる
一学期の期末テストが終わったということは、次に待ち受けているのは一体何か?
(……暑い)
そう、一か月という長いだけで殆ど意味を成さない夏休みである。
太陽の熱射と、アスファルトから伝う熱気が僕を離してはくれない。いっそこのまま家に戻ってしまいたい気分だが、僕はこのただ暑いだけの真夏の真っ只中に、とある場所へと歩いていた。一応目的地としてそこを選んだのだが、少し遠かったかもしれないと後悔している最中だ。
夏休みが始まって三日と過ぎた頃だろうか? ずっと家に居るというのも気が引けてしまい、特に用もないのに出掛けることにしたのだが、その場所が見えてすぐ、思い出してしまったことがあったのだ。
(……流石に鉢合わせは考えすぎか)
この図書館は確か神崎さんがよく来るとか来ないとか、そんなことを言っていた場所である。
しかしそうは言っても、数ある夏休みの日数に加えて、時間までそのまま被るなんてことはそうそう起きないだろう。木の隙間から見える図書館をチラチラと視界に入れながら、歩みを進めていった。この暑さには正直飽き飽きしているが、図書館の中に入ればまだマシになるだろうし、帰る頃には申し訳程度だろうが気温も下がっていることだろう。そう気持ちを騙しながら進むほかなかった。
ようやく見えてきた図書館の出入り口に少し安堵したのもつかの間、僕は思わず足を止めた。この炎天下のなか、止まることを余儀なくされたのだ。
つい先ほど、数ある夏休みに時間まで被って誰かと会うなんてことは起きないだろうと思った。しかし前言撤回する。
(凄いこっち見てる……)
見慣れない姿の見慣れた顔の人物が、図書館の出入り口の前でなにをするでもなくただただこちらを見つめていた。
(神崎さん、ほんとに来てるんだ……)
まるで幻の存在に出会った時のような感想になってしまったが、こうして実際に遭遇してみないといまいち実感が湧かないものである。
向こうも僕を見て止まっていただけなのだろう。僅かに目をそらした後、神崎さんはドアが自動に開かれたタイミングで図書館の中へと消えていく。それを皮切りに、ようやく僕の時間も動いたような、そんな気がした。
これはいわゆる無視をされたと言えばいいのか、僕は人知れず少し判断に困っていた。確かに、鉢合わせたからといって別に一緒にいないといけないわけでもないし、向こうだってただ図書館に本を返しに来ただけですぐに帰るのかもしれない。それに、例えば僕が神崎さん側だったら似たような行動をとってしまいそうな気がしてならないのだ。
人の出入りのタイミングが悪く、自動ドアではなく手動の少し重めの扉に手をかけた。その時見えた光景に、思わずまた時を止めてしまいたくなったのを、この時ばかりは無意識に制御していたのだろう。
ドアを開け、少し広いエントランスホールが見えたところまでは特に問題はなかったのだが、図書館に入る段階では見えない視覚のようなところに、その人はいた。
「……な、なにやってるんですか?」
「いや……」
こういうとき、神崎さんはいつも否定をするのだ。
「無視されたと思われるのも嫌だろ……」
「そ、そうですね……?」
神崎さんはこういう人であるというのをなんとなく理解しながらも、恐らく僕はまだ、ちゃんと認識しきれていなかったのである。
(……暑い)
そう、一か月という長いだけで殆ど意味を成さない夏休みである。
太陽の熱射と、アスファルトから伝う熱気が僕を離してはくれない。いっそこのまま家に戻ってしまいたい気分だが、僕はこのただ暑いだけの真夏の真っ只中に、とある場所へと歩いていた。一応目的地としてそこを選んだのだが、少し遠かったかもしれないと後悔している最中だ。
夏休みが始まって三日と過ぎた頃だろうか? ずっと家に居るというのも気が引けてしまい、特に用もないのに出掛けることにしたのだが、その場所が見えてすぐ、思い出してしまったことがあったのだ。
(……流石に鉢合わせは考えすぎか)
この図書館は確か神崎さんがよく来るとか来ないとか、そんなことを言っていた場所である。
しかしそうは言っても、数ある夏休みの日数に加えて、時間までそのまま被るなんてことはそうそう起きないだろう。木の隙間から見える図書館をチラチラと視界に入れながら、歩みを進めていった。この暑さには正直飽き飽きしているが、図書館の中に入ればまだマシになるだろうし、帰る頃には申し訳程度だろうが気温も下がっていることだろう。そう気持ちを騙しながら進むほかなかった。
ようやく見えてきた図書館の出入り口に少し安堵したのもつかの間、僕は思わず足を止めた。この炎天下のなか、止まることを余儀なくされたのだ。
つい先ほど、数ある夏休みに時間まで被って誰かと会うなんてことは起きないだろうと思った。しかし前言撤回する。
(凄いこっち見てる……)
見慣れない姿の見慣れた顔の人物が、図書館の出入り口の前でなにをするでもなくただただこちらを見つめていた。
(神崎さん、ほんとに来てるんだ……)
まるで幻の存在に出会った時のような感想になってしまったが、こうして実際に遭遇してみないといまいち実感が湧かないものである。
向こうも僕を見て止まっていただけなのだろう。僅かに目をそらした後、神崎さんはドアが自動に開かれたタイミングで図書館の中へと消えていく。それを皮切りに、ようやく僕の時間も動いたような、そんな気がした。
これはいわゆる無視をされたと言えばいいのか、僕は人知れず少し判断に困っていた。確かに、鉢合わせたからといって別に一緒にいないといけないわけでもないし、向こうだってただ図書館に本を返しに来ただけですぐに帰るのかもしれない。それに、例えば僕が神崎さん側だったら似たような行動をとってしまいそうな気がしてならないのだ。
人の出入りのタイミングが悪く、自動ドアではなく手動の少し重めの扉に手をかけた。その時見えた光景に、思わずまた時を止めてしまいたくなったのを、この時ばかりは無意識に制御していたのだろう。
ドアを開け、少し広いエントランスホールが見えたところまでは特に問題はなかったのだが、図書館に入る段階では見えない視覚のようなところに、その人はいた。
「……な、なにやってるんですか?」
「いや……」
こういうとき、神崎さんはいつも否定をするのだ。
「無視されたと思われるのも嫌だろ……」
「そ、そうですね……?」
神崎さんはこういう人であるというのをなんとなく理解しながらも、恐らく僕はまだ、ちゃんと認識しきれていなかったのである。