第3話:壊れた光
――辺りは、眩しい光に包まれている。
目を開けることが出来ないくらいに、オレの周りには光が蔓延っているのが分かる。あの人は、オレを元の場所に戻してくれると言った。光が収まるのを待って目を開けたその先には、本当にオレがいたいつものあの街なのだろうか?別に疑っている訳ではないけど、どうしても不安が付きまとってくる。そんな疑念が晴れていくかのように、少しずつ光が終息を迎えていくのが瞼越しでもよくわかった。
恐る恐る、ゆっくりと瞼を開ける。そうして目の前に存在していたのは、何事も無かったかのように水飛沫をあげる噴水だった。それと同時に聞こえてくるのは、騒がしく街に蔓延る人の声。それは、オレが元いた街に戻ってきたという証明でもあるのだろう。
ただ、不思議なことに、その音を五月蝿く感じてしまっていた自分がいた。
街の状況は、オレがいた時となんら変わらない。子供が遊んでいて、大人達は相変わらず噂話を繰り広げている。広場にある時計を見ると、さほど時は経っていないようだった。
だから、特殊な時間を過ごしていたのは恐らくオレだけなのだろうと理解するのに、そんなに時間はかからなかった。
「そういえば、あの人の名前聞くの忘れたな……」
左手首には、あの人貰ってしまったブレスレットの重みを感じる。それは、さっきの出来事が夢でも幻覚でもないという事実を突きつけられているようだ。
「……帰ろう」
ここにいてもしょうがない。そのまま買い物だけして帰ってしまおうかとも思ったけれど、きっとローザおばさんに「早かったね?」と言われてしまう。なんというか、それだけは避けたい。オレは少しでも時間を稼ごうと、遠回りでもしていつもの店に向かうことを決め、足を翻す。今度は、誰かに呼び止められるなんていうことは起きなかった。
オレが向かったのは、さっき通った市場ではなく余り通らない別の道。図書館のある、穏やかな時間に満ちた場所。人がいるということに安堵すると共に、どうしてかそわそわしてしまう。ふと、道中に存在する路地裏に目をやった。
『これがあれば、いつでもここに来れるから、出来れば大事に持っていて欲しいな』
左手首に繋がれたブレスレット。これに一体なんの意味があるのだろうか。魔法で作られたという事は確かなのだけれど……。
路地裏なんて入ることはないと思っていたけど、まさか、よく分からない空間の路地裏に入ることになるだなんて思ってなかった。視線の先にあるのは、別に何てことない何処にでもある路地裏。こんな適当に選んだ路地裏を通っても、あの人のいる場所にたどり着けるのだろうか。
その疑問に応えるかのように、ブレスレットは太陽の光を反射させ、ほんの一瞬だけ路地裏を照らす。それはまるで、誰かがオレを呼んでいるかのようにも見えた。
「行けってこと……?」
普通に考えたのなら、ただ光を反射させただけなのだろう。でも、何となくそうじゃないと思ってしまうのは、さっきまでの出来事のに感化されてしまったせいだったのかも知れない。ただ、一度生み出された思考は、そう簡単に払拭出来るものではなかった。
いっそのこと、適当に路地裏に入ってみようか?そんなこと、普段なら考えもしないことだけれど、このままモヤモヤしたまま帰ったところで、多分ずっと気になってしまう。それにもう、オレが望んでいる平和な日常はきっと戻ってこないんだと子供ながらに思ってしまっていた。だって、普通に暮らしていれば縁のないはずの、魔法と貴族という存在に触れてしまったから。
まあ、路地裏って言っても迷路になってるわけじゃないだろうし、別に問題ないよね……?
その考えは、オレが路地裏に入るのには十分過ぎる結論だった。だけど、これがどれだけ浅はかな考えだったのかというのを、この先嫌になるほど痛感することになるだなんて、思いもしなかったのだ。
目を開けることが出来ないくらいに、オレの周りには光が蔓延っているのが分かる。あの人は、オレを元の場所に戻してくれると言った。光が収まるのを待って目を開けたその先には、本当にオレがいたいつものあの街なのだろうか?別に疑っている訳ではないけど、どうしても不安が付きまとってくる。そんな疑念が晴れていくかのように、少しずつ光が終息を迎えていくのが瞼越しでもよくわかった。
恐る恐る、ゆっくりと瞼を開ける。そうして目の前に存在していたのは、何事も無かったかのように水飛沫をあげる噴水だった。それと同時に聞こえてくるのは、騒がしく街に蔓延る人の声。それは、オレが元いた街に戻ってきたという証明でもあるのだろう。
ただ、不思議なことに、その音を五月蝿く感じてしまっていた自分がいた。
街の状況は、オレがいた時となんら変わらない。子供が遊んでいて、大人達は相変わらず噂話を繰り広げている。広場にある時計を見ると、さほど時は経っていないようだった。
だから、特殊な時間を過ごしていたのは恐らくオレだけなのだろうと理解するのに、そんなに時間はかからなかった。
「そういえば、あの人の名前聞くの忘れたな……」
左手首には、あの人貰ってしまったブレスレットの重みを感じる。それは、さっきの出来事が夢でも幻覚でもないという事実を突きつけられているようだ。
「……帰ろう」
ここにいてもしょうがない。そのまま買い物だけして帰ってしまおうかとも思ったけれど、きっとローザおばさんに「早かったね?」と言われてしまう。なんというか、それだけは避けたい。オレは少しでも時間を稼ごうと、遠回りでもしていつもの店に向かうことを決め、足を翻す。今度は、誰かに呼び止められるなんていうことは起きなかった。
オレが向かったのは、さっき通った市場ではなく余り通らない別の道。図書館のある、穏やかな時間に満ちた場所。人がいるということに安堵すると共に、どうしてかそわそわしてしまう。ふと、道中に存在する路地裏に目をやった。
『これがあれば、いつでもここに来れるから、出来れば大事に持っていて欲しいな』
左手首に繋がれたブレスレット。これに一体なんの意味があるのだろうか。魔法で作られたという事は確かなのだけれど……。
路地裏なんて入ることはないと思っていたけど、まさか、よく分からない空間の路地裏に入ることになるだなんて思ってなかった。視線の先にあるのは、別に何てことない何処にでもある路地裏。こんな適当に選んだ路地裏を通っても、あの人のいる場所にたどり着けるのだろうか。
その疑問に応えるかのように、ブレスレットは太陽の光を反射させ、ほんの一瞬だけ路地裏を照らす。それはまるで、誰かがオレを呼んでいるかのようにも見えた。
「行けってこと……?」
普通に考えたのなら、ただ光を反射させただけなのだろう。でも、何となくそうじゃないと思ってしまうのは、さっきまでの出来事のに感化されてしまったせいだったのかも知れない。ただ、一度生み出された思考は、そう簡単に払拭出来るものではなかった。
いっそのこと、適当に路地裏に入ってみようか?そんなこと、普段なら考えもしないことだけれど、このままモヤモヤしたまま帰ったところで、多分ずっと気になってしまう。それにもう、オレが望んでいる平和な日常はきっと戻ってこないんだと子供ながらに思ってしまっていた。だって、普通に暮らしていれば縁のないはずの、魔法と貴族という存在に触れてしまったから。
まあ、路地裏って言っても迷路になってるわけじゃないだろうし、別に問題ないよね……?
その考えは、オレが路地裏に入るのには十分過ぎる結論だった。だけど、これがどれだけ浅はかな考えだったのかというのを、この先嫌になるほど痛感することになるだなんて、思いもしなかったのだ。