学校の七不思議!?
第二幕 其の二
キーンコーンカーンコーン。
授業の終わりを知らせるチャイムが学校中に鳴り渡る。
「起立! 礼!」
「「ありがとうございました。」」
俺と明里は制服からジャージに着替え、荷物をまとめ、部室に急ぐ。
部室に着くと、すでに先輩たちが集まっており、週末の宿題を進めていた。
「すみません、遅くなりました!ホームルームがいつもより少し長引いちゃって……。」
「同じく。」
後輩として軽く謝罪をする。
「大丈夫大丈夫!今日はたくさん時間あるんだし、のんびりやりましょ~!」
美咲先輩が伸びをしながら答える。
「でも、とりあえず全員そろったので、今日と明日のスケジュールをつたえておくね!この後、6時半ころに各クラスのリーダーたちと合流して、夕食の準備を一緒にすることになってて、7時ころに夕食と片付け、8時半ころに学校の離れに移動して、消灯が10時になってるから、その時間まではクラスのリーダーと先生達と一緒に行動することになってます。で、私たちの活動は11時半からを予定してます。」
「夜の学校って考えただけでめちゃめちゃ怖いね……。」
明里が僕の服の袖を握りながらつぶやく。
「今回調べる七不思議は、体育館ギャラリーの人影と放送の騒音、黒い人影、調理室の包丁を研ぐ音で、こゆりの子は実際に泊まるわけだし、霊感のある方々に任せま~す!で、土曜の朝は起床が7時。9時までに離れを出て、先生に報告しておしまい。」
「龍の叔父さんはいつ頃くるんだ?」
「えっと、学校まで車で20分くらいかかるから、11時ころに家を出るように伝えておきます。校門入って真っ直ぐの生徒玄関待ち合わせで大丈夫ですか?」
「誰も使わないわけだし、生徒玄関で大丈夫よ!」
「わかりました。メッセージ送っときます。」
******
僕らは時間になるまで宿題を進めたり、談笑したりして時間をつぶしていた。徐々に暗くなる外が、部室の蛍光灯の明るさをより際立たせる。窓の外が暗くなるたびに、実際に学校に泊まるという非現実のリアルさが増してくる。
6時半になり、部室を出て他の生徒と先生方に合流する。窓の外と大半の廊下の明りは消えており、普段の学校とは違う夜の空気を感じる。
他の生徒たちと合流した僕らは一緒に調理実習室に移り、夕食の準備に取り掛かる。夕食の食材と人数分の食器はすでに各テーブルに用意されており、僕らオカルト部の4人と1年1組のリーダーと副リーダーの6人で調理をすることとなった。各テーブルで協力してカレーを作るらしい。僕らのグループは、唯一の3年生であり、料理は人並みだという美咲先輩の指示に従ってカレーを作ることに決まった。僕と神宮寺先輩はご飯を炊く係、明里は野菜を切る係、1組のリーダーと副リーダーは食器を洗い、美咲先輩はカレーを煮込む。僕らオカルト部と1組の2人とは割と仲良くなり、部活の話や、先輩方から学校行事についての話などもいっぱい聞くことができた。各テーブルは各々楽しそうで賑やかだった。このような形で他のクラスの人や先輩たちと親睦を深められるのはこの学校ならではな感じがした。
各テーブル夕食を終え、食器を洗い、片付けをする。そのころにはすでに8時半を過ぎており、すべてのテーブルが片づけを終えてから宿泊施設へ移動した。
学校の宿泊施設は校舎とは渡り廊下で切り離されている。建物自体はこじんまりとした二階建てになっており、入口を入ると靴を脱ぐスペースがあり、両脇には靴箱がある。靴を脱いで進むと左側には階段、階段下と脇には男女分かれたトイレ、入口正面には観音扉があり、30人程度が納まるホールへ続いている。二階に上がると4部屋あり、左から、桜、小百合、菊、山茶花の順で、それぞれ10人が泊まることができる。
今回僕らはこの、小百合の部屋に4人で泊まることになる。
早速僕らは荷物を部屋に運び、布団を敷き始める。部屋は畳で、奥の壁には窓がはめられている。特に霊が出るような雰囲気ではない。僕らは男女で左右に分かれて寝ることとなり、時間まで布団の上でくつろいだり、寝る支度を済ませたりしている。
「龍、この部屋、何か見えたり感じたりするか?」
携帯をいじっている僕の隣で神宮寺先輩が聞いてきた。携帯を一度置き、その場に立つ。天井、床、奥の壁、入口。僕は一度部屋全体を見まわして、意識を部屋全体に向けてみる。その間部屋はしんと静まり返る。
「いや、何もいないし、感じないです。もしかしたら、時間帯によるんじゃないですかね?」
「俊くんはなにか感じるの?」
「いや、俺も感じないっすね。」
「それならどこからこの噂が広がったんですかね?深夜に起こるなら、ここに泊まった人物だけが見たってことになりますよね?」
明里が質問する。
「深夜に起こるとは限らないかもな。この建物はたまに授業でも使われてるし、最低でも年に一度はこうやって人が利用してる訳だ。それに、ここの掃除の割り当てもあるから、一概に夜とは言えないな。」
「今晩実際に泊まってみて何が起きるか検証するしかないですね。」
「本当に霊が出たらどうしよう……ちょっと怖いな……」
布団に包まる明里が美咲先輩にぴったりとくっつく。
そんな話をしている間に時刻は消灯時間を過ぎ、廊下は何の音もしない。
******
気づけば時刻は11時15分。中里からのメッセージを受け取った僕たちは眠い目を擦りながら、中里との待ち合わせの生徒玄関へ向う。宿泊施設から生徒玄関へは結構距離があり、薄暗い廊下を4人で談笑しながら向かった。幸いなことに、空には雲一つなく、月明かりが廊下を照らしているため、足元ははっきりと見える。生徒玄関に着いた僕らは開錠し、中里と合流した。
「おーい、中里ー!こっちこっち!」
僕が手招きすると中里が駆け足で近づいてくる。
「中里さん!こんばんは!」
「明里ちゃん、こんばんは。はじめまして、龍の叔父の中里祐一です。」
中里が先輩達に自己紹介をする。
「あ、はじめまして、部長の藤井美咲です。」
「2年の神宮寺俊です。」
「今日は時間を作っていただき、ありがとうございます。」
美咲先輩が丁寧にあいさつをする。
「いえいえ、明日は休みだし、夜の学校なんてめったに入れないしね」
「おい、龍」
神宮寺先輩が小声で僕に話しかけてきた。
「中里さんって、何か芸能関係の仕事してたりしてたか?」
「芸能関係……?あ、確かどこかの雑誌の読者モデルやってた時期がありますよ。」
「だからか……どっかで見たことある気がして。」
「じゃあ、早速オカルト部の活動を始めましょう!まずは体育館!」
俺たちオカルト部4人と中里は、各自懐中電灯で廊下を照らしながら体育館へ向った。もちろん、廊下に電気をつけることはできたが、それでは雰囲気が出ないという部長のアイディアで懐中電灯を使うことになった。
「ってか、明里!なんでそんなに中里にくっついてるんだよ。」
「え、だって、こ、怖いし……」
「だからって、そんな腕つかんでぴったりくっついてたら歩きにくいだろ!」
「俺は別に大丈夫だよ……龍、反対側開いてるけど、一緒に歩くか?」
「僕はもう高校生だ!中里とそんなにくっつくかよ。それ、中里が怖いだけじゃないのか?」
「そりゃぁ、夜の学校なんてホラーでしかないだろ。龍は見えるから問題ないだろうけど!」
「中里さんってホラーダメなんですか?」
「映画とか作品としてのホラーは大丈夫なんだけどね、実際に体験はしたくないよね。事件とかで変死体とか見るのは全然問題ないし」
そうこうしているうちに体育館に到着する。
「龍君、俊君、ギャラリーに人影とか見えたりする?」
僕ら二人は美咲先輩に言われて体育館の二階ギャラリーを見渡す。
「俺は特に何も見えないっすね」
「俺もです。」
そこはただ、月明かりに照らされて青白く光るだけだった。
「多分、いろんなものが置いてあったり、カーテン降ろすためのロープの影とかが人影に見えたとかかもしれないですね。」
「そうね……じゃあ、次は体育館の放送。雑音が入り込むって話だったけど……」
「今のところ何も聞こえないですね。」
「もしかしたらそれも、誰かが電源を切り忘れてたとか……。」
「もしくは、まだ時間じゃないのかも。」
「丑三つ時……とか?」
「私、そんな時間には居たくないですよ!いかにも出ますって時間じゃん!」
「私も、その時間まで起きてるのはつらいわ……歳ね」
「「先輩がそれを言うなら中里(さん)は……」」
「とりあえず、次行きましょう!次は、問題の黒い人影。目撃情報が結構色んな所にあるんだけど」
「いつもだいたい昼間は生徒玄関前にいるのを見るっすねー けど、さっきは見なかったな。」
「俺も今日の昼間は見なかったですね。」
「その人影って、校内にいたりするの?」
「あぁ、たまに廊下にいたりもする。」
「俺は教室の後ろに立っているのを見たことがあります。」
「じゃあ、特定の場所に居るわけじゃないんだ。」
「心当たりある所を見て回りましょうか」
僕らは体育館を後にして、実際に僕らが見たことがある所を見て回った。1年生の教室の後ろ、2年生の廊下、そして生徒玄関前。
「どこにも見当たらないね。」
「昼間にしか出ないのか?」
「でもこの学校の浮遊霊なら夜にいてもおかしくはないんじゃないか?」
普段何気なく見ている物を、探すとなると案外難しい。
この時点ですでに時計の針は午前0時半を過ぎていた。
「一度休憩にしませんか?私、トイレ行きたくて……」
「あ、俺も」
僕らは一番近くにある2年生のトイレを使うことにした。そして念のために男女両方の電気を付けて用を足すことに。
10分後、僕と神宮寺先輩、中里は用を足したり、談笑したりして、全員が同時に男子トイレから出た。電気を消し、女子トイレの入り口で待っていることにした。
そして、待っていると美咲先輩が女子トイレの戸を開け、言った。
「ねぇ、明里ちゃん出てきた?」
「いや、見てない。」
俺たちは3人で顔を見合わせて答えた。
「明里ちゃん、いないんだけど。」
声をしぼるようにして美咲先輩が答えた。
「トイレの個室は全部確認しましたか?」
「したよ!何なら3人も確認してよ!」
俺たち3人は女子トイレに入り、個室の一つひとつ、扉の裏、掃除用具入れまで探したが、明里の姿はどこにもない。
「明里!」
「明里ちゃん!」
「そうだ!携帯!メッセから通話かけてみます。」
美咲先輩がポケットから携帯を取り出し、スピーカーに設定し、電話をかける。
チロン チロン…… チロン チロン……。
電話の呼び出し音がトイレに響く。
「出ない……。」
「俺、一応、グループメッセにメッセージ入れときました。」
「中里、明里の携帯番号しらないか?もしかしたらアプリ使うより電波はっきりしてるかも」
「わかった。かけてみる。」
そういうと、中里は携帯を取り出し、耳に当てる。
プルルルルル……。 プルルルルル……。 カチャ。
「繋がった!明里ちゃん!今どこにいるんだ!?」
「ザー……ザッ……中ザッ さん! わザ s…… きゅうッこう ザッ sh……。」 プツッ。
「切れた。おかしい。電波は通っているのに。」
「くそっ。またかよ……。」
僕はこの納得できない状況と、繰り返されるこの現象に少し苛立ちを感じていた。
「龍……。」
「龍君、またって…。」
「とりあえず、校舎の中を探しましょう。そう遠くには行ってないはず。」
気持ちを切り替えて先輩たちに言った。
「探すってったって、どこを探すんだ?」
「ここは電波が通ってるけど、向こうは通っていない。校内で電波通りにくいとこってありますか?」
「旧校舎1階から2階の奥の階段……あそこらへんはよく電波障害が起こるな。」
「行ってみましょう。」
僕らは廊下に出て、旧校舎と新校舎をつなぐ渡り廊下目指して暗い廊下を歩き進めた。
「龍、さっきいってた、またってどう言う意味なんだ?前にも似たようなことがあったのか?」
僕の隣をあるく神宮寺先輩が聞いてくる。
「はい……。以前起きたときは、小学校5年生の時です。あの時は確か、宿泊学習の行事で、少年の家に2泊3日泊まった時でした。俺と井上は同じグループで、課外活動の真っ最中、施設の外で木の枝や木の実を班になって集めているときでした。ほんの1分も経たない一瞬目を離したすきに井上は忽然と姿を消しました。俺たち4人はあたりを10分くらい探したんですけど見つからず、担任の先生に伝えたんです。そして、クラス全員であたりを捜索しました。それでも見つからなくて、警察に連絡しようとした時、施設の人が泣きわめいてる明里の手を引いて施設から出てきました。事が済んだ後に明里にどこにいたのか聞いたら、体育館倉庫だと言ってました。でも不思議なのが、その体育館倉庫は普段は鍵がかけられていて、鍵は職員が誰でも持ち出せるようになっていたけど、その時に鍵が使われたところを誰も見ていないと。たまたま通りかかった職員が扉をたたく音に気付いて開けたら井上がそこにいたみたいなんです。」
「確かに、今の状況に少し似てるな。5人グループで行動してるのにも関わらず、一瞬の目を離したすきに……。」
「明里ちゃん、大丈夫かな……。また閉じ込められてなきゃいいけど……。」
2年生のクラスの廊下を抜け、右に曲がり、ホールを抜ける。この廊下を真っ直ぐ進むと新校舎と旧校舎をつなぐ渡り廊下がある。
「なぁ、龍……。」
神宮寺先輩が足を止めて僕の名前を呼ぶ。
「どうしたんですか?先輩」
「あれ……、見えるか?」
先輩は一点を見つめたままそういった。僕は先輩の視線の先を見る。
あぁ……あの人影だ。
廊下の窓から差す月明かりに照らされて少し年の召した人影が見えた。
「はい。いますね。しかも僕らをみてる。」
「ちょっと、二人とも何が見えてるのよ!」
後方にいた美咲先輩が肩を縮めて言った。それを見た中里が美咲先輩のかたを引き寄せる。
「2人とも、大丈夫だよ。あの人影だ。」
僕は二人を安心させるために声をかける。
「あの人影って、七不思議の?でもこっちを見てるって……。」
「龍、その方は何か言ってるのか?」
「僕らに何かを伝えたい気はするけど、何も言ってない。」
少しの間、その人影に意識を向ける。そうしていると、その人影は廊下の奥に歩き始めた。
「龍君、どうしたの?あの影は?」
「わかりません。でも旧校舎の方に向かって歩いてるのが見えます。敵意とか悪意は感じません。でも、なんだか付いてきてって言ってるようで……。」
「どうせ俺たちも方向が一緒なんだ。ついてってみよう。」
キーンコーンカーンコーン。
授業の終わりを知らせるチャイムが学校中に鳴り渡る。
「起立! 礼!」
「「ありがとうございました。」」
俺と明里は制服からジャージに着替え、荷物をまとめ、部室に急ぐ。
部室に着くと、すでに先輩たちが集まっており、週末の宿題を進めていた。
「すみません、遅くなりました!ホームルームがいつもより少し長引いちゃって……。」
「同じく。」
後輩として軽く謝罪をする。
「大丈夫大丈夫!今日はたくさん時間あるんだし、のんびりやりましょ~!」
美咲先輩が伸びをしながら答える。
「でも、とりあえず全員そろったので、今日と明日のスケジュールをつたえておくね!この後、6時半ころに各クラスのリーダーたちと合流して、夕食の準備を一緒にすることになってて、7時ころに夕食と片付け、8時半ころに学校の離れに移動して、消灯が10時になってるから、その時間まではクラスのリーダーと先生達と一緒に行動することになってます。で、私たちの活動は11時半からを予定してます。」
「夜の学校って考えただけでめちゃめちゃ怖いね……。」
明里が僕の服の袖を握りながらつぶやく。
「今回調べる七不思議は、体育館ギャラリーの人影と放送の騒音、黒い人影、調理室の包丁を研ぐ音で、こゆりの子は実際に泊まるわけだし、霊感のある方々に任せま~す!で、土曜の朝は起床が7時。9時までに離れを出て、先生に報告しておしまい。」
「龍の叔父さんはいつ頃くるんだ?」
「えっと、学校まで車で20分くらいかかるから、11時ころに家を出るように伝えておきます。校門入って真っ直ぐの生徒玄関待ち合わせで大丈夫ですか?」
「誰も使わないわけだし、生徒玄関で大丈夫よ!」
「わかりました。メッセージ送っときます。」
******
僕らは時間になるまで宿題を進めたり、談笑したりして時間をつぶしていた。徐々に暗くなる外が、部室の蛍光灯の明るさをより際立たせる。窓の外が暗くなるたびに、実際に学校に泊まるという非現実のリアルさが増してくる。
6時半になり、部室を出て他の生徒と先生方に合流する。窓の外と大半の廊下の明りは消えており、普段の学校とは違う夜の空気を感じる。
他の生徒たちと合流した僕らは一緒に調理実習室に移り、夕食の準備に取り掛かる。夕食の食材と人数分の食器はすでに各テーブルに用意されており、僕らオカルト部の4人と1年1組のリーダーと副リーダーの6人で調理をすることとなった。各テーブルで協力してカレーを作るらしい。僕らのグループは、唯一の3年生であり、料理は人並みだという美咲先輩の指示に従ってカレーを作ることに決まった。僕と神宮寺先輩はご飯を炊く係、明里は野菜を切る係、1組のリーダーと副リーダーは食器を洗い、美咲先輩はカレーを煮込む。僕らオカルト部と1組の2人とは割と仲良くなり、部活の話や、先輩方から学校行事についての話などもいっぱい聞くことができた。各テーブルは各々楽しそうで賑やかだった。このような形で他のクラスの人や先輩たちと親睦を深められるのはこの学校ならではな感じがした。
各テーブル夕食を終え、食器を洗い、片付けをする。そのころにはすでに8時半を過ぎており、すべてのテーブルが片づけを終えてから宿泊施設へ移動した。
学校の宿泊施設は校舎とは渡り廊下で切り離されている。建物自体はこじんまりとした二階建てになっており、入口を入ると靴を脱ぐスペースがあり、両脇には靴箱がある。靴を脱いで進むと左側には階段、階段下と脇には男女分かれたトイレ、入口正面には観音扉があり、30人程度が納まるホールへ続いている。二階に上がると4部屋あり、左から、桜、小百合、菊、山茶花の順で、それぞれ10人が泊まることができる。
今回僕らはこの、小百合の部屋に4人で泊まることになる。
早速僕らは荷物を部屋に運び、布団を敷き始める。部屋は畳で、奥の壁には窓がはめられている。特に霊が出るような雰囲気ではない。僕らは男女で左右に分かれて寝ることとなり、時間まで布団の上でくつろいだり、寝る支度を済ませたりしている。
「龍、この部屋、何か見えたり感じたりするか?」
携帯をいじっている僕の隣で神宮寺先輩が聞いてきた。携帯を一度置き、その場に立つ。天井、床、奥の壁、入口。僕は一度部屋全体を見まわして、意識を部屋全体に向けてみる。その間部屋はしんと静まり返る。
「いや、何もいないし、感じないです。もしかしたら、時間帯によるんじゃないですかね?」
「俊くんはなにか感じるの?」
「いや、俺も感じないっすね。」
「それならどこからこの噂が広がったんですかね?深夜に起こるなら、ここに泊まった人物だけが見たってことになりますよね?」
明里が質問する。
「深夜に起こるとは限らないかもな。この建物はたまに授業でも使われてるし、最低でも年に一度はこうやって人が利用してる訳だ。それに、ここの掃除の割り当てもあるから、一概に夜とは言えないな。」
「今晩実際に泊まってみて何が起きるか検証するしかないですね。」
「本当に霊が出たらどうしよう……ちょっと怖いな……」
布団に包まる明里が美咲先輩にぴったりとくっつく。
そんな話をしている間に時刻は消灯時間を過ぎ、廊下は何の音もしない。
******
気づけば時刻は11時15分。中里からのメッセージを受け取った僕たちは眠い目を擦りながら、中里との待ち合わせの生徒玄関へ向う。宿泊施設から生徒玄関へは結構距離があり、薄暗い廊下を4人で談笑しながら向かった。幸いなことに、空には雲一つなく、月明かりが廊下を照らしているため、足元ははっきりと見える。生徒玄関に着いた僕らは開錠し、中里と合流した。
「おーい、中里ー!こっちこっち!」
僕が手招きすると中里が駆け足で近づいてくる。
「中里さん!こんばんは!」
「明里ちゃん、こんばんは。はじめまして、龍の叔父の中里祐一です。」
中里が先輩達に自己紹介をする。
「あ、はじめまして、部長の藤井美咲です。」
「2年の神宮寺俊です。」
「今日は時間を作っていただき、ありがとうございます。」
美咲先輩が丁寧にあいさつをする。
「いえいえ、明日は休みだし、夜の学校なんてめったに入れないしね」
「おい、龍」
神宮寺先輩が小声で僕に話しかけてきた。
「中里さんって、何か芸能関係の仕事してたりしてたか?」
「芸能関係……?あ、確かどこかの雑誌の読者モデルやってた時期がありますよ。」
「だからか……どっかで見たことある気がして。」
「じゃあ、早速オカルト部の活動を始めましょう!まずは体育館!」
俺たちオカルト部4人と中里は、各自懐中電灯で廊下を照らしながら体育館へ向った。もちろん、廊下に電気をつけることはできたが、それでは雰囲気が出ないという部長のアイディアで懐中電灯を使うことになった。
「ってか、明里!なんでそんなに中里にくっついてるんだよ。」
「え、だって、こ、怖いし……」
「だからって、そんな腕つかんでぴったりくっついてたら歩きにくいだろ!」
「俺は別に大丈夫だよ……龍、反対側開いてるけど、一緒に歩くか?」
「僕はもう高校生だ!中里とそんなにくっつくかよ。それ、中里が怖いだけじゃないのか?」
「そりゃぁ、夜の学校なんてホラーでしかないだろ。龍は見えるから問題ないだろうけど!」
「中里さんってホラーダメなんですか?」
「映画とか作品としてのホラーは大丈夫なんだけどね、実際に体験はしたくないよね。事件とかで変死体とか見るのは全然問題ないし」
そうこうしているうちに体育館に到着する。
「龍君、俊君、ギャラリーに人影とか見えたりする?」
僕ら二人は美咲先輩に言われて体育館の二階ギャラリーを見渡す。
「俺は特に何も見えないっすね」
「俺もです。」
そこはただ、月明かりに照らされて青白く光るだけだった。
「多分、いろんなものが置いてあったり、カーテン降ろすためのロープの影とかが人影に見えたとかかもしれないですね。」
「そうね……じゃあ、次は体育館の放送。雑音が入り込むって話だったけど……」
「今のところ何も聞こえないですね。」
「もしかしたらそれも、誰かが電源を切り忘れてたとか……。」
「もしくは、まだ時間じゃないのかも。」
「丑三つ時……とか?」
「私、そんな時間には居たくないですよ!いかにも出ますって時間じゃん!」
「私も、その時間まで起きてるのはつらいわ……歳ね」
「「先輩がそれを言うなら中里(さん)は……」」
「とりあえず、次行きましょう!次は、問題の黒い人影。目撃情報が結構色んな所にあるんだけど」
「いつもだいたい昼間は生徒玄関前にいるのを見るっすねー けど、さっきは見なかったな。」
「俺も今日の昼間は見なかったですね。」
「その人影って、校内にいたりするの?」
「あぁ、たまに廊下にいたりもする。」
「俺は教室の後ろに立っているのを見たことがあります。」
「じゃあ、特定の場所に居るわけじゃないんだ。」
「心当たりある所を見て回りましょうか」
僕らは体育館を後にして、実際に僕らが見たことがある所を見て回った。1年生の教室の後ろ、2年生の廊下、そして生徒玄関前。
「どこにも見当たらないね。」
「昼間にしか出ないのか?」
「でもこの学校の浮遊霊なら夜にいてもおかしくはないんじゃないか?」
普段何気なく見ている物を、探すとなると案外難しい。
この時点ですでに時計の針は午前0時半を過ぎていた。
「一度休憩にしませんか?私、トイレ行きたくて……」
「あ、俺も」
僕らは一番近くにある2年生のトイレを使うことにした。そして念のために男女両方の電気を付けて用を足すことに。
10分後、僕と神宮寺先輩、中里は用を足したり、談笑したりして、全員が同時に男子トイレから出た。電気を消し、女子トイレの入り口で待っていることにした。
そして、待っていると美咲先輩が女子トイレの戸を開け、言った。
「ねぇ、明里ちゃん出てきた?」
「いや、見てない。」
俺たちは3人で顔を見合わせて答えた。
「明里ちゃん、いないんだけど。」
声をしぼるようにして美咲先輩が答えた。
「トイレの個室は全部確認しましたか?」
「したよ!何なら3人も確認してよ!」
俺たち3人は女子トイレに入り、個室の一つひとつ、扉の裏、掃除用具入れまで探したが、明里の姿はどこにもない。
「明里!」
「明里ちゃん!」
「そうだ!携帯!メッセから通話かけてみます。」
美咲先輩がポケットから携帯を取り出し、スピーカーに設定し、電話をかける。
チロン チロン…… チロン チロン……。
電話の呼び出し音がトイレに響く。
「出ない……。」
「俺、一応、グループメッセにメッセージ入れときました。」
「中里、明里の携帯番号しらないか?もしかしたらアプリ使うより電波はっきりしてるかも」
「わかった。かけてみる。」
そういうと、中里は携帯を取り出し、耳に当てる。
プルルルルル……。 プルルルルル……。 カチャ。
「繋がった!明里ちゃん!今どこにいるんだ!?」
「ザー……ザッ……中ザッ さん! わザ s…… きゅうッこう ザッ sh……。」 プツッ。
「切れた。おかしい。電波は通っているのに。」
「くそっ。またかよ……。」
僕はこの納得できない状況と、繰り返されるこの現象に少し苛立ちを感じていた。
「龍……。」
「龍君、またって…。」
「とりあえず、校舎の中を探しましょう。そう遠くには行ってないはず。」
気持ちを切り替えて先輩たちに言った。
「探すってったって、どこを探すんだ?」
「ここは電波が通ってるけど、向こうは通っていない。校内で電波通りにくいとこってありますか?」
「旧校舎1階から2階の奥の階段……あそこらへんはよく電波障害が起こるな。」
「行ってみましょう。」
僕らは廊下に出て、旧校舎と新校舎をつなぐ渡り廊下目指して暗い廊下を歩き進めた。
「龍、さっきいってた、またってどう言う意味なんだ?前にも似たようなことがあったのか?」
僕の隣をあるく神宮寺先輩が聞いてくる。
「はい……。以前起きたときは、小学校5年生の時です。あの時は確か、宿泊学習の行事で、少年の家に2泊3日泊まった時でした。俺と井上は同じグループで、課外活動の真っ最中、施設の外で木の枝や木の実を班になって集めているときでした。ほんの1分も経たない一瞬目を離したすきに井上は忽然と姿を消しました。俺たち4人はあたりを10分くらい探したんですけど見つからず、担任の先生に伝えたんです。そして、クラス全員であたりを捜索しました。それでも見つからなくて、警察に連絡しようとした時、施設の人が泣きわめいてる明里の手を引いて施設から出てきました。事が済んだ後に明里にどこにいたのか聞いたら、体育館倉庫だと言ってました。でも不思議なのが、その体育館倉庫は普段は鍵がかけられていて、鍵は職員が誰でも持ち出せるようになっていたけど、その時に鍵が使われたところを誰も見ていないと。たまたま通りかかった職員が扉をたたく音に気付いて開けたら井上がそこにいたみたいなんです。」
「確かに、今の状況に少し似てるな。5人グループで行動してるのにも関わらず、一瞬の目を離したすきに……。」
「明里ちゃん、大丈夫かな……。また閉じ込められてなきゃいいけど……。」
2年生のクラスの廊下を抜け、右に曲がり、ホールを抜ける。この廊下を真っ直ぐ進むと新校舎と旧校舎をつなぐ渡り廊下がある。
「なぁ、龍……。」
神宮寺先輩が足を止めて僕の名前を呼ぶ。
「どうしたんですか?先輩」
「あれ……、見えるか?」
先輩は一点を見つめたままそういった。僕は先輩の視線の先を見る。
あぁ……あの人影だ。
廊下の窓から差す月明かりに照らされて少し年の召した人影が見えた。
「はい。いますね。しかも僕らをみてる。」
「ちょっと、二人とも何が見えてるのよ!」
後方にいた美咲先輩が肩を縮めて言った。それを見た中里が美咲先輩のかたを引き寄せる。
「2人とも、大丈夫だよ。あの人影だ。」
僕は二人を安心させるために声をかける。
「あの人影って、七不思議の?でもこっちを見てるって……。」
「龍、その方は何か言ってるのか?」
「僕らに何かを伝えたい気はするけど、何も言ってない。」
少しの間、その人影に意識を向ける。そうしていると、その人影は廊下の奥に歩き始めた。
「龍君、どうしたの?あの影は?」
「わかりません。でも旧校舎の方に向かって歩いてるのが見えます。敵意とか悪意は感じません。でも、なんだか付いてきてって言ってるようで……。」
「どうせ俺たちも方向が一緒なんだ。ついてってみよう。」