学校の七不思議!?
第二幕 其の一
「いってきまーす。」
日に日にあたたかさを増す太陽の光がまぶたを重くする。できることなら今すぐ布団にもどって二度寝をしたいところだ。
「龍ちゃん!おっはよ~!」
聞きなれた元気な朝の声が通りを挟んで聞こえてくる。
「明里はいつも元気だな…。ふぁあ~…。」
「私は朝が強いだけだよ~。目覚めるときはすぐ起きられるんだけど、9時くらいになるとすごく眠くなるの」
「僕はいつでも眠い…。」
「そういえば、昨日の部活終わりに神宮寺先輩と何か話してたよね?」
「んー?あぁ、今日の放課後に他の部活の奴らに学校の七不思議について聞きに行こうって話してただけ。」
「もうそんなに仲良くなったの?」
「ま、あまり友達を作ることが得意ではない僕からしたらぁ、仲良くなったって言えるかもな!神宮寺先輩の親戚って神社の神主さんしてるみたいでさ、いろんなこと教えてもらえそうなんだよ!」
「いいな~私も放課後一緒に行きたい!」
「来てもいいんじゃないか?」
「でも料理研究部の活動が火曜と木曜なんだもん」
「んじゃ、今日は仕方ないな。明日明里も来ていいか聞いてみるよ。」
「ありがと!私も今日の部活の時間、七不思議について先輩たちに聞いてみる!」
たわいもない、されど部活というなんとも青春らしい会話をしているうちに学校の門を通り越していた。校門前に立つ日直の先生とあいさつを交わし、真っ直ぐ校舎に進む。見えてきた玄関は二手に分かれており、右側の入り口は三年生専用の入り口。校門から真っ直ぐ面している玄関は一年生と二年生の入り口になっている。昨日見た霊は一体ここで何をしていたのだろう。
「龍ちゃん?どうしたの?」
「え、あぁ、何でもない。」
気が付けば足を止めていたらしい。不思議に思った明里が様子を訪ねてきた。
神宮寺先輩の話によるとあの霊は何の害もないらしいが、七不思議のひとつだったりするのだろうか。
******
キーンコーンカーンコーン……。
「「起立! 礼! ありがとうございました。」」
ガヤガヤ……。
「じゃ、龍ちゃん、また明日ね!」
1日の授業が終わる。クラスのみんなは颯爽と教室を後にし、部活に急ぐ。
神宮寺先輩が今日の放課後に、僕のクラスに迎えに来てくれるらしいのでそれまでは教室で待機。待っている間に帰る身支度をする。ある程度の生徒が教室から出ていき、静まり返る教室には外から部活の掛け声が響く。
「龍!悪い、待ったか?」
扉の影から少し息を切らしながら神宮寺先輩が顔を覗かせた。
「いえ、そんなに待ってませんよ。」
「アポとれる奴らに、部活の休憩時間を聞いて回ってたんだよ。先輩たちと回る部活分担したから、今日は体育館で部活をやる、バスケ、バレー、バド、卓球に聞いて回るぞ。」
「はい!」
神宮寺先輩は耳にピアスの跡が残ってたり、ネクタイが緩く結ばれていて、肩まで伸びたストレートの髪が少しチャラい印象を与える。廊下ですれ違う二年生の生徒たちは神宮寺先輩によく声をかける。
「そういや、俺が知ってる七不思議教えようか。」
そういって先輩は、体育館へ向かう道中、話を始めた。
「俺が知ってる学校の怪談は5つ。1つ目がこゆりの女の子。これは、学校にある宿泊施設のこゆりっていう部屋に女の子の霊が出るっていうやつ。2つ目が体育館ギャラリーの人。夜に誰かが立っているやつ、3つ目が旧校舎の絵画の前でお辞儀をしてはいけないのと、4つ目がこの前見た黒い影。で、5つ目が屋上の女の子。くらいかな……。」
「でも、たしか学校の七不思議って全部知っちゃいけないんですよね?」
「まぁ、諸説あるよなーでも結局この学校の七不思議も学年で違ったり、他校のうわさが入ってきたりして、どれが本当なのかわからないだろ?しかもそんな噂が立ったって、誰もほんとかどうかは証明できない。俺個人の意見だけど確実に7つあるのかもわからないしな」
「そうか……。」
たしかに、先輩の言うことに一理ある。世の中に広まっている学校の怪談とは、夜に学校の怪談の段数が増えたり、鏡の中の世界やトイレの花子さんなどがあるが、これは誰もが知っているようなもの。そして、それを実際に確認したのかと言われると実際にはわからない。
そうこう話をしている間に体育館に着く。この学校の体育館はバスケットボール用のコートが3面入る大きさで、体育館入口から見て手前をバスケ部が、真ん中をバレー部、一番奥の面を半分に分けて右側を卓球部、左側をバドミントン部が使用している。
「とりあえず、休憩に入った部活から話を聞いていこう。」
僕たちは体育館の脇を通り、体育館の真ん中あたりまで進んだ時、卓球部が休憩に入ったのを確認した。すかさず僕たちは話を聞くために彼らのもとに向かった。
「三島さん!早速だけど、学校の七不思議について聞いてまわっていいかな?」
神宮寺先輩が2年生の眼鏡をかけた女子の先輩に声をかけた。
「あ、神宮寺。えぇ、いいわよ。みんなにも話はしてあるから聞いて回って。」
僕たちはこの三島という女子生徒とその隣の生徒からまずは話を聞くことにした。
「三島さんは学校の七不思議で何知ってる?」
「そうね…こゆりの子と、旧校舎の絵画、合わせ鏡、体育館のギャラリー…くらいかな?由奈は何か知ってる?」
「私もそれくらいかも…」
「あの、合わせ鏡って何ですか?」
先輩の話には出てこなかった項目に疑問を感じた僕は質問をした。
「あぁ、合わせ鏡のやつは、合わせ鏡の前に三分間立っていると、自分から数えて4番目の自分の顔が変わるっていうやつ。でも数年前にその鏡は取り壊されて、多目的トイレに変わったって聞いたから、もうないはずだよ。」
「俺、あと二つくらい知ってる!調理室のやつと屋上の女の子。」
僕たちが話してるのを聞いて、男の2年の先輩が話に割り込んできた。
「おお、戸部!お前も卓球部だったか!その、調理室ってのはなんだ?」
どうやら神宮寺先輩の知り合いらしい。
「深夜1時半、調理室の前を通ると、包丁を研ぐ音が聞こえてくるらしいそして、研ぎ終わる音を最後まで聞いてしまうと…。っていう話で、最後にどうなるかはわからないみたいだけどな!」
「へぇ……。調理室、別に何かいる気はないけどな…。三年の先輩たちは何か七不思議知ってるかな?」
「山口先輩ー!学校の七不思議って何か知ってますか?」
「俺が知ってるのは、旧校舎の絵画、体育館ギャラリー、合わせ鏡と、なんだっけ?教頭先生の不思議ってのがあるな」
「え、何ですか?それ」
「単に噂かもしれないけど、教頭先生が花持って屋上に行くところを見たって生徒が結構いるんだよ。でも、最近は聞かないな…。」
「俺たち2年は聞いたことないですね…。そういえば去年から教頭が変わってなかったか?」
「確かに……前の教頭ってなんでやめたんだっけ?」
ピ――――ッ!「全員集合!」
卓球部の先輩たちが集まって話を始めようとすると、顧問の先生が集合の合図をかけた。
「神宮寺、それじゃまたね。」
「ああ、ありがとな!」
卓球部の先輩らが駆け足で顧問の周りに集まっていった。
「結構色んな話聞けたな。」
「やっぱり、2年生と3年生で変わってるみたいですね。」
「今のところ、2年生の中で言われてるのが、こゆりの子、絵画、合わせ鏡、ギャラリー、黒い影、調理室、屋上の子…これで七つだ。3年生からもっと話を聞く必要がありそうだな。」
次いで僕たちはバレー部の特に3年の先輩たちに話を聞くことにした。
「そうね、私が知ってるのは、旧校舎の絵画と合わせ鏡、体育館のギャラリーの人影と、体育館放送室の雑音と、教頭先生のうわさかな~」
「あ、私、講堂の倉庫の話も知ってるよ~」
バレー部の先輩たちに話を聞いたのち、バスケ部とバドミントン部にも話を聞いて回った。一通り先輩たちに話を聞いた僕たちは話を整理してみた。
「3年生の先輩たちが言うには、旧校舎の絵画、合わせ鏡、体育館のギャラリーに放送室の雑音、講堂の倉庫、教頭先生の噂…」
「この、教頭先生って何なんですかね?」
「そうだな……、去年新しい教頭になったのはわかってるんだが、なんで退職したのかはわからないんだよな。」
「来週の月曜に、先輩たちに聞いてみるか。」
「そうですね。」
******
翌週の月曜日の放課後、僕たちオカルト部は部室に集まっていた。
「それじゃあ、聞き込みした中で噂になってる学校の怪談上げていってくれる?」
そういうと美咲先輩はホワイトボードに向き直り、箇条書きで描き始めた。
「えっと、俺と龍、明里ちゃんは運動部全体に話を聞いて回って、2年生の中で噂になっている学校の怪談は、
‣宿泊施設 こゆりに出る女の子の霊。
‣体育館のギャラリーに立つ人影。
‣調理室から包丁を研ぐ音が聞こえる。
‣旧校舎の絵画の前でお辞儀をしてはいけない。
‣黒い人影。
‣屋上の女の子。
‣旧校舎2階の合わせ鏡で自分の顔が変わる。
の7つかな」
「じゃあ3年生から聞いたのは俺から
‣旧校舎の絵画の前でお辞儀をしてはいけない。
‣体育館のギャラリーに立つ人影。
‣宿泊施設 こゆりに出る女の子の霊。
‣旧校舎2階の合わせ鏡で自分の顔が変わる。
‣文化祭の夜、講堂の倉庫から何かがはい回る音が聞こえる。
‣体育館に不気味な騒音が放送される。
‣教頭先生の謎。
の7つです。」
「私と山戸が生徒から聞いたのもこれと同じだったわ。今回、この学校の七不思議を決めるにあたって、類似してるこゆりの少女、旧校舎の絵画と合わせ鏡、体育館のギャラリーの人影は捜査対象外として、どうして他の3つが違うのか調べていきましょう。」
「俺が聞いたところによると、体育館の騒音は、ただ単に機械の故障だったって聞いたよぉー。去年の冬休み前に修理したらならなくなったって。授業中にも変なノイズがかかってたからきっと、霊関係ではないと思うよぉー。」
「そういや、教頭先生の謎の目撃情報っていつごろから無くなったんですか?」
神宮寺先輩が先輩達に質問をした。
「俺が聞いたのは、教頭先生が花束を持って屋上に行くのはいつも新しい学期が始まる最初の週らしい。俺が1年の時に3年生の先輩から聞いたことだから情報が古いのかも~。」
「私が聞いたのは、何かの供養のために屋上に上がってるって聞いたことがあったわ。」
「ってことは、教頭先生が俺た2年の代で変わったから、もうその習慣がなくなったってことか?それに、供養って……。」
キィーーーーーー。
話し合いの最中に後ろの戸が開いたので、全員の視線がそちらに向いた。
「おお~、今年は1年生は二人か!」
眼鏡をかけ、スーツ姿の50代男性が入ってきた。
「竹内先生!今日来てたんですね!龍君、明里ちゃん、紹介するね。こちらがオカルト部顧問の竹内先生。普段は三年生の日本史の授業の外部講師をしてて、地域の伝統や古い話を語り継ぐ活動をしてます。」
「こ、こんにちは。初めまして、井上明里です。」
「井野瀬龍です。」
「竹内先生、そういえば聞きたいことがあったんですけど、おととし退職した教頭先生って何があったのかご存じですか?定年には達してなかった記憶があるんですけど……。」
「あぁー、堀町教頭かぁ。確か、この学校に勤めて5年だった気がするな。退職の理由は原因不明の病気の悪化だと聞いていたよ。私が前にあったときはだいぶ顔がやつれていたかな。」
「これは調べてみる価値がありそうだな。もしかしたら屋上の女の子ってのに何か繋がってるかもしれないしな。」
神宮寺先輩は顎に手を置きながらそう言った。
「ってことは~~!実際にこの七不思議たちが本当なのか検証に行きましょうか!」
そういう美咲先輩の顔には笑みがこぼれ、僕たち他の部員はその笑みの意味が分からずにいると……。
「ほれ、校長と教頭先生の許可はとってきたぞ。だが問題があってな、保護者最低一人の付き添いが必要なようだ。言っておくが私は付き添いはできないぞ。」
「了解しました。ところで、全員参加可能?」
美咲先輩は、口が開いて閉まらない僕たちの方に向きなおす。
「ごめんごめん!えっと、実は急なんだけど、今週の金曜から土曜にかけてちょうどリーダー集会があって、各クラスのリーダーと副リーダーが全員学校の離れに泊まるらしいのよ。それで、この際だから、オカルト部も一緒に金曜の夜に泊まらせてもらって、七不思議の検証をしようと思って!でー、だれが参加できる?」
「そういえば、原田先生がリーダー研修が週末にあるって言ってたなー……ちなみに、私は参加できます!」
「俺も参加できるぜ。」
明里と神宮寺先輩が答える。
「俺は、門限があるし、ちょっと親に聞いてみなきゃわかんないなぁ……。一応俺抜きで話し進めといていいよ~」
「龍ちゃんは参加するでしょ?」
隣に座る明里が顔を覗かせて俺に尋ねる。
「あぁ、俺も金曜なら問題ないです。」
「じゃー、浩則以外が参加ってことで、問題は大人の参加者かー……。校内を回るときだけ一緒にいてくれればいいんだけど……」
それぞれ考えを巡らせる。
「あの、俺の叔父に頼めると思います。」
胸元まで手を上げて僕は答えた。
「そっか!中里さん!土日は休みだっけ?」
「一応刑事も公務員だし、急な事件がない限り土日は休み。それに今は特に大きな事件に関わってるわけじゃないから、夜の数時間くらいなら来てくれると思う。」
「龍君の叔父さんって刑事さんなんだーそれなら心強い!」
「ちょっと、メッセージ送って聞いてみますね…… ……大丈夫みたいです。」
「それじゃ、龍君の叔父さんに来てもらうことで決定!それじゃあ金曜の放課後、すべての荷物を持って部室に集合!ちなみに、私たちが泊まる部屋は、問題の”こゆり”の部屋よ」
美咲先輩の顔はこれでもないくらいニヤけている。相当楽しみなのだろう。
そして、時間は思ったより早く流れ、金曜の放課後になっていた。
「いってきまーす。」
日に日にあたたかさを増す太陽の光がまぶたを重くする。できることなら今すぐ布団にもどって二度寝をしたいところだ。
「龍ちゃん!おっはよ~!」
聞きなれた元気な朝の声が通りを挟んで聞こえてくる。
「明里はいつも元気だな…。ふぁあ~…。」
「私は朝が強いだけだよ~。目覚めるときはすぐ起きられるんだけど、9時くらいになるとすごく眠くなるの」
「僕はいつでも眠い…。」
「そういえば、昨日の部活終わりに神宮寺先輩と何か話してたよね?」
「んー?あぁ、今日の放課後に他の部活の奴らに学校の七不思議について聞きに行こうって話してただけ。」
「もうそんなに仲良くなったの?」
「ま、あまり友達を作ることが得意ではない僕からしたらぁ、仲良くなったって言えるかもな!神宮寺先輩の親戚って神社の神主さんしてるみたいでさ、いろんなこと教えてもらえそうなんだよ!」
「いいな~私も放課後一緒に行きたい!」
「来てもいいんじゃないか?」
「でも料理研究部の活動が火曜と木曜なんだもん」
「んじゃ、今日は仕方ないな。明日明里も来ていいか聞いてみるよ。」
「ありがと!私も今日の部活の時間、七不思議について先輩たちに聞いてみる!」
たわいもない、されど部活というなんとも青春らしい会話をしているうちに学校の門を通り越していた。校門前に立つ日直の先生とあいさつを交わし、真っ直ぐ校舎に進む。見えてきた玄関は二手に分かれており、右側の入り口は三年生専用の入り口。校門から真っ直ぐ面している玄関は一年生と二年生の入り口になっている。昨日見た霊は一体ここで何をしていたのだろう。
「龍ちゃん?どうしたの?」
「え、あぁ、何でもない。」
気が付けば足を止めていたらしい。不思議に思った明里が様子を訪ねてきた。
神宮寺先輩の話によるとあの霊は何の害もないらしいが、七不思議のひとつだったりするのだろうか。
******
キーンコーンカーンコーン……。
「「起立! 礼! ありがとうございました。」」
ガヤガヤ……。
「じゃ、龍ちゃん、また明日ね!」
1日の授業が終わる。クラスのみんなは颯爽と教室を後にし、部活に急ぐ。
神宮寺先輩が今日の放課後に、僕のクラスに迎えに来てくれるらしいのでそれまでは教室で待機。待っている間に帰る身支度をする。ある程度の生徒が教室から出ていき、静まり返る教室には外から部活の掛け声が響く。
「龍!悪い、待ったか?」
扉の影から少し息を切らしながら神宮寺先輩が顔を覗かせた。
「いえ、そんなに待ってませんよ。」
「アポとれる奴らに、部活の休憩時間を聞いて回ってたんだよ。先輩たちと回る部活分担したから、今日は体育館で部活をやる、バスケ、バレー、バド、卓球に聞いて回るぞ。」
「はい!」
神宮寺先輩は耳にピアスの跡が残ってたり、ネクタイが緩く結ばれていて、肩まで伸びたストレートの髪が少しチャラい印象を与える。廊下ですれ違う二年生の生徒たちは神宮寺先輩によく声をかける。
「そういや、俺が知ってる七不思議教えようか。」
そういって先輩は、体育館へ向かう道中、話を始めた。
「俺が知ってる学校の怪談は5つ。1つ目がこゆりの女の子。これは、学校にある宿泊施設のこゆりっていう部屋に女の子の霊が出るっていうやつ。2つ目が体育館ギャラリーの人。夜に誰かが立っているやつ、3つ目が旧校舎の絵画の前でお辞儀をしてはいけないのと、4つ目がこの前見た黒い影。で、5つ目が屋上の女の子。くらいかな……。」
「でも、たしか学校の七不思議って全部知っちゃいけないんですよね?」
「まぁ、諸説あるよなーでも結局この学校の七不思議も学年で違ったり、他校のうわさが入ってきたりして、どれが本当なのかわからないだろ?しかもそんな噂が立ったって、誰もほんとかどうかは証明できない。俺個人の意見だけど確実に7つあるのかもわからないしな」
「そうか……。」
たしかに、先輩の言うことに一理ある。世の中に広まっている学校の怪談とは、夜に学校の怪談の段数が増えたり、鏡の中の世界やトイレの花子さんなどがあるが、これは誰もが知っているようなもの。そして、それを実際に確認したのかと言われると実際にはわからない。
そうこう話をしている間に体育館に着く。この学校の体育館はバスケットボール用のコートが3面入る大きさで、体育館入口から見て手前をバスケ部が、真ん中をバレー部、一番奥の面を半分に分けて右側を卓球部、左側をバドミントン部が使用している。
「とりあえず、休憩に入った部活から話を聞いていこう。」
僕たちは体育館の脇を通り、体育館の真ん中あたりまで進んだ時、卓球部が休憩に入ったのを確認した。すかさず僕たちは話を聞くために彼らのもとに向かった。
「三島さん!早速だけど、学校の七不思議について聞いてまわっていいかな?」
神宮寺先輩が2年生の眼鏡をかけた女子の先輩に声をかけた。
「あ、神宮寺。えぇ、いいわよ。みんなにも話はしてあるから聞いて回って。」
僕たちはこの三島という女子生徒とその隣の生徒からまずは話を聞くことにした。
「三島さんは学校の七不思議で何知ってる?」
「そうね…こゆりの子と、旧校舎の絵画、合わせ鏡、体育館のギャラリー…くらいかな?由奈は何か知ってる?」
「私もそれくらいかも…」
「あの、合わせ鏡って何ですか?」
先輩の話には出てこなかった項目に疑問を感じた僕は質問をした。
「あぁ、合わせ鏡のやつは、合わせ鏡の前に三分間立っていると、自分から数えて4番目の自分の顔が変わるっていうやつ。でも数年前にその鏡は取り壊されて、多目的トイレに変わったって聞いたから、もうないはずだよ。」
「俺、あと二つくらい知ってる!調理室のやつと屋上の女の子。」
僕たちが話してるのを聞いて、男の2年の先輩が話に割り込んできた。
「おお、戸部!お前も卓球部だったか!その、調理室ってのはなんだ?」
どうやら神宮寺先輩の知り合いらしい。
「深夜1時半、調理室の前を通ると、包丁を研ぐ音が聞こえてくるらしいそして、研ぎ終わる音を最後まで聞いてしまうと…。っていう話で、最後にどうなるかはわからないみたいだけどな!」
「へぇ……。調理室、別に何かいる気はないけどな…。三年の先輩たちは何か七不思議知ってるかな?」
「山口先輩ー!学校の七不思議って何か知ってますか?」
「俺が知ってるのは、旧校舎の絵画、体育館ギャラリー、合わせ鏡と、なんだっけ?教頭先生の不思議ってのがあるな」
「え、何ですか?それ」
「単に噂かもしれないけど、教頭先生が花持って屋上に行くところを見たって生徒が結構いるんだよ。でも、最近は聞かないな…。」
「俺たち2年は聞いたことないですね…。そういえば去年から教頭が変わってなかったか?」
「確かに……前の教頭ってなんでやめたんだっけ?」
ピ――――ッ!「全員集合!」
卓球部の先輩たちが集まって話を始めようとすると、顧問の先生が集合の合図をかけた。
「神宮寺、それじゃまたね。」
「ああ、ありがとな!」
卓球部の先輩らが駆け足で顧問の周りに集まっていった。
「結構色んな話聞けたな。」
「やっぱり、2年生と3年生で変わってるみたいですね。」
「今のところ、2年生の中で言われてるのが、こゆりの子、絵画、合わせ鏡、ギャラリー、黒い影、調理室、屋上の子…これで七つだ。3年生からもっと話を聞く必要がありそうだな。」
次いで僕たちはバレー部の特に3年の先輩たちに話を聞くことにした。
「そうね、私が知ってるのは、旧校舎の絵画と合わせ鏡、体育館のギャラリーの人影と、体育館放送室の雑音と、教頭先生のうわさかな~」
「あ、私、講堂の倉庫の話も知ってるよ~」
バレー部の先輩たちに話を聞いたのち、バスケ部とバドミントン部にも話を聞いて回った。一通り先輩たちに話を聞いた僕たちは話を整理してみた。
「3年生の先輩たちが言うには、旧校舎の絵画、合わせ鏡、体育館のギャラリーに放送室の雑音、講堂の倉庫、教頭先生の噂…」
「この、教頭先生って何なんですかね?」
「そうだな……、去年新しい教頭になったのはわかってるんだが、なんで退職したのかはわからないんだよな。」
「来週の月曜に、先輩たちに聞いてみるか。」
「そうですね。」
******
翌週の月曜日の放課後、僕たちオカルト部は部室に集まっていた。
「それじゃあ、聞き込みした中で噂になってる学校の怪談上げていってくれる?」
そういうと美咲先輩はホワイトボードに向き直り、箇条書きで描き始めた。
「えっと、俺と龍、明里ちゃんは運動部全体に話を聞いて回って、2年生の中で噂になっている学校の怪談は、
‣宿泊施設 こゆりに出る女の子の霊。
‣体育館のギャラリーに立つ人影。
‣調理室から包丁を研ぐ音が聞こえる。
‣旧校舎の絵画の前でお辞儀をしてはいけない。
‣黒い人影。
‣屋上の女の子。
‣旧校舎2階の合わせ鏡で自分の顔が変わる。
の7つかな」
「じゃあ3年生から聞いたのは俺から
‣旧校舎の絵画の前でお辞儀をしてはいけない。
‣体育館のギャラリーに立つ人影。
‣宿泊施設 こゆりに出る女の子の霊。
‣旧校舎2階の合わせ鏡で自分の顔が変わる。
‣文化祭の夜、講堂の倉庫から何かがはい回る音が聞こえる。
‣体育館に不気味な騒音が放送される。
‣教頭先生の謎。
の7つです。」
「私と山戸が生徒から聞いたのもこれと同じだったわ。今回、この学校の七不思議を決めるにあたって、類似してるこゆりの少女、旧校舎の絵画と合わせ鏡、体育館のギャラリーの人影は捜査対象外として、どうして他の3つが違うのか調べていきましょう。」
「俺が聞いたところによると、体育館の騒音は、ただ単に機械の故障だったって聞いたよぉー。去年の冬休み前に修理したらならなくなったって。授業中にも変なノイズがかかってたからきっと、霊関係ではないと思うよぉー。」
「そういや、教頭先生の謎の目撃情報っていつごろから無くなったんですか?」
神宮寺先輩が先輩達に質問をした。
「俺が聞いたのは、教頭先生が花束を持って屋上に行くのはいつも新しい学期が始まる最初の週らしい。俺が1年の時に3年生の先輩から聞いたことだから情報が古いのかも~。」
「私が聞いたのは、何かの供養のために屋上に上がってるって聞いたことがあったわ。」
「ってことは、教頭先生が俺た2年の代で変わったから、もうその習慣がなくなったってことか?それに、供養って……。」
キィーーーーーー。
話し合いの最中に後ろの戸が開いたので、全員の視線がそちらに向いた。
「おお~、今年は1年生は二人か!」
眼鏡をかけ、スーツ姿の50代男性が入ってきた。
「竹内先生!今日来てたんですね!龍君、明里ちゃん、紹介するね。こちらがオカルト部顧問の竹内先生。普段は三年生の日本史の授業の外部講師をしてて、地域の伝統や古い話を語り継ぐ活動をしてます。」
「こ、こんにちは。初めまして、井上明里です。」
「井野瀬龍です。」
「竹内先生、そういえば聞きたいことがあったんですけど、おととし退職した教頭先生って何があったのかご存じですか?定年には達してなかった記憶があるんですけど……。」
「あぁー、堀町教頭かぁ。確か、この学校に勤めて5年だった気がするな。退職の理由は原因不明の病気の悪化だと聞いていたよ。私が前にあったときはだいぶ顔がやつれていたかな。」
「これは調べてみる価値がありそうだな。もしかしたら屋上の女の子ってのに何か繋がってるかもしれないしな。」
神宮寺先輩は顎に手を置きながらそう言った。
「ってことは~~!実際にこの七不思議たちが本当なのか検証に行きましょうか!」
そういう美咲先輩の顔には笑みがこぼれ、僕たち他の部員はその笑みの意味が分からずにいると……。
「ほれ、校長と教頭先生の許可はとってきたぞ。だが問題があってな、保護者最低一人の付き添いが必要なようだ。言っておくが私は付き添いはできないぞ。」
「了解しました。ところで、全員参加可能?」
美咲先輩は、口が開いて閉まらない僕たちの方に向きなおす。
「ごめんごめん!えっと、実は急なんだけど、今週の金曜から土曜にかけてちょうどリーダー集会があって、各クラスのリーダーと副リーダーが全員学校の離れに泊まるらしいのよ。それで、この際だから、オカルト部も一緒に金曜の夜に泊まらせてもらって、七不思議の検証をしようと思って!でー、だれが参加できる?」
「そういえば、原田先生がリーダー研修が週末にあるって言ってたなー……ちなみに、私は参加できます!」
「俺も参加できるぜ。」
明里と神宮寺先輩が答える。
「俺は、門限があるし、ちょっと親に聞いてみなきゃわかんないなぁ……。一応俺抜きで話し進めといていいよ~」
「龍ちゃんは参加するでしょ?」
隣に座る明里が顔を覗かせて俺に尋ねる。
「あぁ、俺も金曜なら問題ないです。」
「じゃー、浩則以外が参加ってことで、問題は大人の参加者かー……。校内を回るときだけ一緒にいてくれればいいんだけど……」
それぞれ考えを巡らせる。
「あの、俺の叔父に頼めると思います。」
胸元まで手を上げて僕は答えた。
「そっか!中里さん!土日は休みだっけ?」
「一応刑事も公務員だし、急な事件がない限り土日は休み。それに今は特に大きな事件に関わってるわけじゃないから、夜の数時間くらいなら来てくれると思う。」
「龍君の叔父さんって刑事さんなんだーそれなら心強い!」
「ちょっと、メッセージ送って聞いてみますね…… ……大丈夫みたいです。」
「それじゃ、龍君の叔父さんに来てもらうことで決定!それじゃあ金曜の放課後、すべての荷物を持って部室に集合!ちなみに、私たちが泊まる部屋は、問題の”こゆり”の部屋よ」
美咲先輩の顔はこれでもないくらいニヤけている。相当楽しみなのだろう。
そして、時間は思ったより早く流れ、金曜の放課後になっていた。