学校の七不思議!?
第一幕
キーンコーンカーンコーン……。
「これでホームルームは終わりだ。何か質問あるやついるか?なければ、解散!」
先週の半ばから体調を崩して入院していたため、久々の登校になる。学校の様子は特に何も変わっていない。だが、クラスの中での話題はどの部活にするかってのが大きいらしい。今は5月半ば。今年の4月に高校に入学し、もう1か月半が過ぎているのに既に学校を何日か休んでしまっているのは少々いたたまれない。
「井野瀬龍!授業始まる前に話がある。一緒に来い!」
教卓に立つ原田先生が僕を呼ぶ。
「はいー!」
ホームルームが終わって教室を出る先生の後を追って職員室に向かう。
職員室の扉を開けると、コーヒーの匂いが春の風と共に鼻をかすめる。ホームルームが終わって帰ってくる先生と、急いで次の授業の準備に取り掛かる先生で大忙しだ。
俺たち1年3組を担当する原田先生の席は廊下側で、ずらりと並んだ教師用の机と本棚の狭い通路を通らなくてはいけない。幸いにも、1組と2組の先生は戻っていないため、普段よりもすんなり通れる。先生が席について、話とやらを始めた。
「もう、体調はいいのか?」
「はい、大丈夫です。大事をみて1日多く入院させてもらいました。まぁ、季節の変わり目に体調を崩すことが結構あるので、気を付けてはいたんですが……。」
「高校に入って1か月半、環境に慣れるためにも身体が無理をしたんだろ。体調が悪くなったらいつでも言えよ。一応テストとか、保健室で受けることも可能ではあるから、その時は躊躇せずちゃんと言ってほしい。先週、お兄さんからも電話もらったし、な?」
「はい…… それ、たぶん叔父です。」
「あ、叔父さんなの?随分声が若く聞こえたからさ。いやー、わるいわるい。叔父さんはいくつなの?」
「26です。」
「へぇー、随分しっかりしてるね。先生の弟と同い年だ。」
先生はそう言って少し顔が緩んでいた。それと同時に、机の上の書類の山の中から1枚の紙を出して僕に向き直った。
「で、その話っていうのが入部届の事なんだけど…… どこに入るか決まってる?一応先週の金曜日が締め切りだったんだけどさ」
「まだちょっと決めかねてます……。」
入学後しばらくして、3週間ほどの仮入部期間があり、先週の金曜に入部届を提出しなければならなかった。そして今日が本入部の顔合わせだったが、すっかり忘れていた。
「できれば今日中に出してほしいが、難しかったら今週中で大丈夫。今週はまだ部活変えられる期間だから、今日の放課後までに、とりあえずどこに今日顔出すか教えておいてほしい。」
「わかりました。」
「話はそれだけだ。戻って授業の準備していいぞ。」
「はい。失礼します。」
「先生!日誌届けに来ました~!」
「おぉー、早かったな。ありがとう。」
「あ、龍ちゃん!」
僕が教室に戻ろうとした直後に、明里がクラスの日誌を届けに来た。僕たちは先生に教室へ帰る旨を伝え、職員室を後にした。
「龍ちゃん、先生何だって?」
「入部届今日中に出すか、今日の部員顔合わせにどこに参加するか教えてほしいって」
「どこに顔出すか決まってるの?」
「いやー、ここだけの話、帰宅部でいい。体調のこともあるし、あまり活発に活動するのもなー」
「龍ちゃんなら、文化部だよねー……。文化部なら、美術部、茶道部、吹奏楽部、放送部、料理研究部くらいかなー?」
「井上はどこにしたんだ?」
「私は料理研究部だよ!」
「ほんと、料理好きだな。」
「へへへ~!龍ちゃんが好きなお菓子いっぱい作って持ってくね!」
「学校では渡したりするなよ」
「え、なんでー!?いいじゃん!それに、なんで苗字で呼ぶわけー!?」
「あ……。」
「どうしたの?」
2階から3階に上がる階段の踊り場の掲示板に貼られた1枚の入部勧誘のポスターが目に留まった。
「ん?オカルト研究部、一緒に地域の謎を解明しませんか?他の部活と掛け持ちできます? へー!オカルト部なんてあるんだ!知らなかった~」
「掛け持ちありって、活動は少ないのか?」
「掛け持ち出来るなら、私興味あるかも~!!」
「とりあえず今日はここに顔出してみようかな……。」
「龍ちゃんが行くなら私も行く~!」
「一緒に部室には行かないからな!」
「えー、いいじゃん!一緒に行こうよー!」
—放課後—
オカルト研究部は掛け持ちができる部活のため、他の部活より集合時間が少し遅くなっている。個人的には少し時間が遅れているほうが都合がいい。なぜなら、入学したばかりで、まだ理科室にも行ったことがないので部室を探すのに時間がかかるからだ。原田先生にオカルト研究部へ顔を出すことを告げると、そんな部活があったのかと面白がっていた。
他の部活は帰りのホームルームが終わり次第、部活の練習場所に集合になっているため、今教室には僕しかいない。
特に何かするわけでもないこの時間を使って、学校の中を少し歩き回ってみようと思い、荷物をまとめ教室を後にする。
ここ、芦立私立南高校は創業120年にもなる古い歴史のある学校で、お察しの通り新校舎と旧校舎が存在する。旧校舎とはいっても、建物の作りはわりと近代的で、一度立て直しをしているのだと思う。そのため、旧校舎は新校舎ほど施設は整っていなく、窓からの隙間風や灯油式のストーブを設置できる場所と配管が各教室に配備されている。旧校舎は今現在でも普通に授業で使われており、理科室、美術室、調理実習室、旧図書室、音楽室、それと簡易的な宿泊施設があるようだ。聞いた話によると、一学期に一度クラスのリーダー、副リーダー、生徒会会長、副会長が集まり、金曜から土曜にかけて泊まり込みで話し合いをする時にその宿泊施設は使われるのだとか。
一年生の教室から理科室に向かうためには、階段を下りて、2階の職員室の前を通らなくてはならない。そこから長い廊下を真っ直ぐ進み、突き当りを右に曲がる必要がある。
職員室の目の前を通るとき、一人の生徒が目に入った。靴に入ったラインの色が緑のため、2年生の生徒らしい。
その先輩は窓から生徒玄関の方を見ていたので、気になって僕も覗いてみた。
「何ですか?あれ……。 あ……」
「君も見えるか?あの人影……。わからない。特に弊害はないんだけどな。」
「はぁ……。」
この先輩が言った、”人影”とは、生徒玄関前に立つ霊の事なのだろうか。まぁ、古い学校だから、少しくらい霊がうろうろしていてもおかしくはない。
会話を終えると先輩はどこかへ行ってしまった。
とくに気にも留めず、部室へと向かう。
「ここが理科準備室の……隣?」
鉄製の開き戸には曇りガラスがはめられており、適当な裏紙に”オカルト研究部”と小綺麗な字で書かれている。集合時間に合わせて部室に着いたが、やけに静かで人の気配もない……。あまりにマイナーな部活のため、部員がいないんじゃないかと思いながらも、意を決してドアノブを捻る。
ガチャ……。 ガチャ ガチャ……。
「開かない……。」
「あ、ごめんごめーん!生徒会の集まりでちょっと遅くなっちゃったぁ~。今鍵開けるね!」
カチャ。
「はい、どうぞ!そこにパイプ椅子あるから、出して好きなところに座って!」
鍵を開けてくれたのは3年の先輩らしい。長身の少しふくよかな体つきで眼鏡をかけている。
部室に入ると、6畳あるかないかくらいの部屋の両壁には本棚が置いてあり、古い本の匂いが充満している。先輩が`部室の窓を一番先に開けたのも納得がいく。部室の部屋からは中庭と講堂の建物が見え、部活動をしている掛け声が校舎に反響しているのが春の風と共に部室に入ってくる。
ガチャッ!
「ごめん、遅れた!」
数分遅れて入ってきたのは、毛先まで手入れがされている長髪をした3年の女子の先輩が入ってきた。
「大丈夫だよぉ~、まだ俊が来てないし。」
「俊くんは少し遅れるって、さっきメッセージ来てたから、1年生がそろってるなら初めてもいいんじゃないかな?」
「今のところ、一人だね~、始めちゃうー?」
彼らの会話から、部員が3年生2人、2年生1人の計3人のようだ。やはりあまり人気の少ない部活らしい。
「あのー、もう1人話聞きたいって子がいるんですけど……。」
数分前に、明里から部室に向かっているという連絡を受けていた。
ガチャッ!
「すみません!ちょっと迷子になってて……。」
廊下を走ってきたのか、明里は少し息を切らしている。
「大丈夫大丈夫、場所分かりにくいよね!1年生始まってすぐに理科室使うわけじゃないし!」
長髪の先輩はそういうと、全員に座るように促し、挨拶を始めた。
「それじゃあこれから、オカルト研究部の顔合わせはじめます。まずは自己紹介から!今日はここにいないけど、外部講師の竹内のおじいちゃんが顧問してくれてます。で、私の名前は藤井美咲。3年で部長をしています。美術部と掛け持ちしてます。」
「えーっと、俺は山戸浩則。副部です。生徒会の会計をしてまぁーす。」
「今はここにいないけど、2年生の神宮寺俊くんがいます。じゃー、1年生自己紹介お願いします。」
「はい!井上明里です!料理研究部と掛け持ちする予定です。」
「井野瀬龍です。掛け持ちは特に考えていません。」
「2人はどうしてこの部活に興味を持ったの?」
美咲先輩がもっともな質問をしてきた。明里と僕は一瞬顔を見合わせ、どちらが先に答えるか目くばせで合図をする。
「えっと、私は、そういう目に見えないものの力とか超常現象とかすごく興味あって、龍ちゃんが入るならやりたいな~と……」
明里は少し照れくさそうに答えた。
「俺は……霊とか興味あるし、謎解きとか頭使うことが好きなので。あと、左目が不自由だったりするから普通の部には入れないし、スケジュールに融通のきく部活がいいと思って。」
「いろいろと訳アリのようね。じゃあ、この部活の活動内容に関して浩則から説明してもらおうかな!」
「えーっと……まあ、普段は週に2回くらい集まって、オカルト関係の話するだけなんだけど、年に2回超常現象を体験する合宿に行ったり、神社とかお寺の方に話を伺ったり、地域の伝承をひろめる講演会を開いたりするくらいかな~。で、一年の活動を文化祭で発表!って感じ!」
「へぇー、合宿があるんだ~!なんか楽しそう!」
「でも、超常現象の体験だってさ。井上はそういうの苦手だろ。」
「そうだけど、みんなと一緒なら大丈夫だよ~!」
「そ~いえば、二人は心霊体験とかしたことあるのー?」
浩則先輩が興味深々なまなざしで聞いてくる。
「えっと、私、実は小学2年生の時に霊に足をつかまれて溺れかけたことあって……。」
明里は分が悪そうに答えた。
「あ、でもその時は龍ちゃんが助けてくれたし、大人の人も周りにいたので大事にはならなかったんです。龍ちゃんがお化けに怒ってくれたみたいで」
「明里がそういうのに付きまとわれやすいからだ!」
「2人ってかなり付き合いながいのね。名前呼びだし。」
美咲先輩に言われてはっとした。いつも通り明里を名前呼びしてしまった。
「そうだよー、龍ちゃん、なんで学校にいる時苗字で呼ぶの!?」
「別にいいだろ、それくらい。」
「ってことは、龍君も、霊感があるんだねー!」
ガチャッ。
浩則先輩が僕の霊感の話題を出そうとしたとき、部室の扉が開き、ストレートの髪をハーフアップにした2年の先輩が入ってきた。先ほど話していた神宮寺先輩だろう。
「すみません。遅れました……。あれ、さっきの」
「ん?俊くんと龍くんって知り合いだったの?」
「いや、さっき職員室の前でちょっと話しただけです。」
「俊君、龍君も霊が見えるみたいだよ~!」
「へぇー、見えるんだ!どれくらい?」
神宮寺先輩の雰囲気は少し冷たくて接しにくい気がしていたが、この話題にはとても食いつきがいい。
「えっと、かなりはっきり見えます。あと、たまにだけど意思疎通できたり…。」
「へぇー、すごいな。そこまで見える人初めて会った。俺の場合、モヤッと影のようなものは見えるが、それが何なのかは見えないんだ。ってことは、さっきのも見えてるのか?」
さっきのとは、玄関付近に立っていた霊のことのようだ。
「はい……」
キューッ、キュッ、キュッ、キュッ……。
僕たちが学校でみた霊の話をしていると、美咲先輩がホワイトボードに何かを描き始めた。
「「「学校の七不思議調査!?」」」
「そう!オカルト部の今年一番最初のミッションは、学校の七不思議を調査することに決定!」
「美咲先輩、でも七不思議を調査したら不思議じゃなくなるんじゃ……。それに、見える俺と神宮寺先輩には不思議でも何でもないかもしれないですよ。」
「まぁ、このミッションの目的は、七不思議を知ることにある!それに、噂によると、学年で七不思議が変わってるようなのよ。」
七不思議が学年で変わるという不思議な現象に、僕たちが目を丸くしていると、先輩は引き続き話を進める。
「だいたい、学校の七不思議っていうと、代々伝わる学校で起きる7つの不可思議な現象だけど、私ら3年が知ってるのと、2年で知ってるのが違うらしいの。」
「それは、伝言ゲーム形式で少し変わっていくとかじゃないんですか?」
「それが、そうではないらしいの。だから、この際だし、オカルト部で正式に学校の七不思議を作ろう!ってね!」
「面白そうかも!私ぜひやりたいです!」
「明里ちゃん、ノリがいいね!じゃあ、来週のこの時間にここに集まって、情報を整理しよっか!じゃー、今日はこれで解散!」
キーンコーンカーンコーン……。
「これでホームルームは終わりだ。何か質問あるやついるか?なければ、解散!」
先週の半ばから体調を崩して入院していたため、久々の登校になる。学校の様子は特に何も変わっていない。だが、クラスの中での話題はどの部活にするかってのが大きいらしい。今は5月半ば。今年の4月に高校に入学し、もう1か月半が過ぎているのに既に学校を何日か休んでしまっているのは少々いたたまれない。
「井野瀬龍!授業始まる前に話がある。一緒に来い!」
教卓に立つ原田先生が僕を呼ぶ。
「はいー!」
ホームルームが終わって教室を出る先生の後を追って職員室に向かう。
職員室の扉を開けると、コーヒーの匂いが春の風と共に鼻をかすめる。ホームルームが終わって帰ってくる先生と、急いで次の授業の準備に取り掛かる先生で大忙しだ。
俺たち1年3組を担当する原田先生の席は廊下側で、ずらりと並んだ教師用の机と本棚の狭い通路を通らなくてはいけない。幸いにも、1組と2組の先生は戻っていないため、普段よりもすんなり通れる。先生が席について、話とやらを始めた。
「もう、体調はいいのか?」
「はい、大丈夫です。大事をみて1日多く入院させてもらいました。まぁ、季節の変わり目に体調を崩すことが結構あるので、気を付けてはいたんですが……。」
「高校に入って1か月半、環境に慣れるためにも身体が無理をしたんだろ。体調が悪くなったらいつでも言えよ。一応テストとか、保健室で受けることも可能ではあるから、その時は躊躇せずちゃんと言ってほしい。先週、お兄さんからも電話もらったし、な?」
「はい…… それ、たぶん叔父です。」
「あ、叔父さんなの?随分声が若く聞こえたからさ。いやー、わるいわるい。叔父さんはいくつなの?」
「26です。」
「へぇー、随分しっかりしてるね。先生の弟と同い年だ。」
先生はそう言って少し顔が緩んでいた。それと同時に、机の上の書類の山の中から1枚の紙を出して僕に向き直った。
「で、その話っていうのが入部届の事なんだけど…… どこに入るか決まってる?一応先週の金曜日が締め切りだったんだけどさ」
「まだちょっと決めかねてます……。」
入学後しばらくして、3週間ほどの仮入部期間があり、先週の金曜に入部届を提出しなければならなかった。そして今日が本入部の顔合わせだったが、すっかり忘れていた。
「できれば今日中に出してほしいが、難しかったら今週中で大丈夫。今週はまだ部活変えられる期間だから、今日の放課後までに、とりあえずどこに今日顔出すか教えておいてほしい。」
「わかりました。」
「話はそれだけだ。戻って授業の準備していいぞ。」
「はい。失礼します。」
「先生!日誌届けに来ました~!」
「おぉー、早かったな。ありがとう。」
「あ、龍ちゃん!」
僕が教室に戻ろうとした直後に、明里がクラスの日誌を届けに来た。僕たちは先生に教室へ帰る旨を伝え、職員室を後にした。
「龍ちゃん、先生何だって?」
「入部届今日中に出すか、今日の部員顔合わせにどこに参加するか教えてほしいって」
「どこに顔出すか決まってるの?」
「いやー、ここだけの話、帰宅部でいい。体調のこともあるし、あまり活発に活動するのもなー」
「龍ちゃんなら、文化部だよねー……。文化部なら、美術部、茶道部、吹奏楽部、放送部、料理研究部くらいかなー?」
「井上はどこにしたんだ?」
「私は料理研究部だよ!」
「ほんと、料理好きだな。」
「へへへ~!龍ちゃんが好きなお菓子いっぱい作って持ってくね!」
「学校では渡したりするなよ」
「え、なんでー!?いいじゃん!それに、なんで苗字で呼ぶわけー!?」
「あ……。」
「どうしたの?」
2階から3階に上がる階段の踊り場の掲示板に貼られた1枚の入部勧誘のポスターが目に留まった。
「ん?オカルト研究部、一緒に地域の謎を解明しませんか?他の部活と掛け持ちできます? へー!オカルト部なんてあるんだ!知らなかった~」
「掛け持ちありって、活動は少ないのか?」
「掛け持ち出来るなら、私興味あるかも~!!」
「とりあえず今日はここに顔出してみようかな……。」
「龍ちゃんが行くなら私も行く~!」
「一緒に部室には行かないからな!」
「えー、いいじゃん!一緒に行こうよー!」
—放課後—
オカルト研究部は掛け持ちができる部活のため、他の部活より集合時間が少し遅くなっている。個人的には少し時間が遅れているほうが都合がいい。なぜなら、入学したばかりで、まだ理科室にも行ったことがないので部室を探すのに時間がかかるからだ。原田先生にオカルト研究部へ顔を出すことを告げると、そんな部活があったのかと面白がっていた。
他の部活は帰りのホームルームが終わり次第、部活の練習場所に集合になっているため、今教室には僕しかいない。
特に何かするわけでもないこの時間を使って、学校の中を少し歩き回ってみようと思い、荷物をまとめ教室を後にする。
ここ、芦立私立南高校は創業120年にもなる古い歴史のある学校で、お察しの通り新校舎と旧校舎が存在する。旧校舎とはいっても、建物の作りはわりと近代的で、一度立て直しをしているのだと思う。そのため、旧校舎は新校舎ほど施設は整っていなく、窓からの隙間風や灯油式のストーブを設置できる場所と配管が各教室に配備されている。旧校舎は今現在でも普通に授業で使われており、理科室、美術室、調理実習室、旧図書室、音楽室、それと簡易的な宿泊施設があるようだ。聞いた話によると、一学期に一度クラスのリーダー、副リーダー、生徒会会長、副会長が集まり、金曜から土曜にかけて泊まり込みで話し合いをする時にその宿泊施設は使われるのだとか。
一年生の教室から理科室に向かうためには、階段を下りて、2階の職員室の前を通らなくてはならない。そこから長い廊下を真っ直ぐ進み、突き当りを右に曲がる必要がある。
職員室の目の前を通るとき、一人の生徒が目に入った。靴に入ったラインの色が緑のため、2年生の生徒らしい。
その先輩は窓から生徒玄関の方を見ていたので、気になって僕も覗いてみた。
「何ですか?あれ……。 あ……」
「君も見えるか?あの人影……。わからない。特に弊害はないんだけどな。」
「はぁ……。」
この先輩が言った、”人影”とは、生徒玄関前に立つ霊の事なのだろうか。まぁ、古い学校だから、少しくらい霊がうろうろしていてもおかしくはない。
会話を終えると先輩はどこかへ行ってしまった。
とくに気にも留めず、部室へと向かう。
「ここが理科準備室の……隣?」
鉄製の開き戸には曇りガラスがはめられており、適当な裏紙に”オカルト研究部”と小綺麗な字で書かれている。集合時間に合わせて部室に着いたが、やけに静かで人の気配もない……。あまりにマイナーな部活のため、部員がいないんじゃないかと思いながらも、意を決してドアノブを捻る。
ガチャ……。 ガチャ ガチャ……。
「開かない……。」
「あ、ごめんごめーん!生徒会の集まりでちょっと遅くなっちゃったぁ~。今鍵開けるね!」
カチャ。
「はい、どうぞ!そこにパイプ椅子あるから、出して好きなところに座って!」
鍵を開けてくれたのは3年の先輩らしい。長身の少しふくよかな体つきで眼鏡をかけている。
部室に入ると、6畳あるかないかくらいの部屋の両壁には本棚が置いてあり、古い本の匂いが充満している。先輩が`部室の窓を一番先に開けたのも納得がいく。部室の部屋からは中庭と講堂の建物が見え、部活動をしている掛け声が校舎に反響しているのが春の風と共に部室に入ってくる。
ガチャッ!
「ごめん、遅れた!」
数分遅れて入ってきたのは、毛先まで手入れがされている長髪をした3年の女子の先輩が入ってきた。
「大丈夫だよぉ~、まだ俊が来てないし。」
「俊くんは少し遅れるって、さっきメッセージ来てたから、1年生がそろってるなら初めてもいいんじゃないかな?」
「今のところ、一人だね~、始めちゃうー?」
彼らの会話から、部員が3年生2人、2年生1人の計3人のようだ。やはりあまり人気の少ない部活らしい。
「あのー、もう1人話聞きたいって子がいるんですけど……。」
数分前に、明里から部室に向かっているという連絡を受けていた。
ガチャッ!
「すみません!ちょっと迷子になってて……。」
廊下を走ってきたのか、明里は少し息を切らしている。
「大丈夫大丈夫、場所分かりにくいよね!1年生始まってすぐに理科室使うわけじゃないし!」
長髪の先輩はそういうと、全員に座るように促し、挨拶を始めた。
「それじゃあこれから、オカルト研究部の顔合わせはじめます。まずは自己紹介から!今日はここにいないけど、外部講師の竹内のおじいちゃんが顧問してくれてます。で、私の名前は藤井美咲。3年で部長をしています。美術部と掛け持ちしてます。」
「えーっと、俺は山戸浩則。副部です。生徒会の会計をしてまぁーす。」
「今はここにいないけど、2年生の神宮寺俊くんがいます。じゃー、1年生自己紹介お願いします。」
「はい!井上明里です!料理研究部と掛け持ちする予定です。」
「井野瀬龍です。掛け持ちは特に考えていません。」
「2人はどうしてこの部活に興味を持ったの?」
美咲先輩がもっともな質問をしてきた。明里と僕は一瞬顔を見合わせ、どちらが先に答えるか目くばせで合図をする。
「えっと、私は、そういう目に見えないものの力とか超常現象とかすごく興味あって、龍ちゃんが入るならやりたいな~と……」
明里は少し照れくさそうに答えた。
「俺は……霊とか興味あるし、謎解きとか頭使うことが好きなので。あと、左目が不自由だったりするから普通の部には入れないし、スケジュールに融通のきく部活がいいと思って。」
「いろいろと訳アリのようね。じゃあ、この部活の活動内容に関して浩則から説明してもらおうかな!」
「えーっと……まあ、普段は週に2回くらい集まって、オカルト関係の話するだけなんだけど、年に2回超常現象を体験する合宿に行ったり、神社とかお寺の方に話を伺ったり、地域の伝承をひろめる講演会を開いたりするくらいかな~。で、一年の活動を文化祭で発表!って感じ!」
「へぇー、合宿があるんだ~!なんか楽しそう!」
「でも、超常現象の体験だってさ。井上はそういうの苦手だろ。」
「そうだけど、みんなと一緒なら大丈夫だよ~!」
「そ~いえば、二人は心霊体験とかしたことあるのー?」
浩則先輩が興味深々なまなざしで聞いてくる。
「えっと、私、実は小学2年生の時に霊に足をつかまれて溺れかけたことあって……。」
明里は分が悪そうに答えた。
「あ、でもその時は龍ちゃんが助けてくれたし、大人の人も周りにいたので大事にはならなかったんです。龍ちゃんがお化けに怒ってくれたみたいで」
「明里がそういうのに付きまとわれやすいからだ!」
「2人ってかなり付き合いながいのね。名前呼びだし。」
美咲先輩に言われてはっとした。いつも通り明里を名前呼びしてしまった。
「そうだよー、龍ちゃん、なんで学校にいる時苗字で呼ぶの!?」
「別にいいだろ、それくらい。」
「ってことは、龍君も、霊感があるんだねー!」
ガチャッ。
浩則先輩が僕の霊感の話題を出そうとしたとき、部室の扉が開き、ストレートの髪をハーフアップにした2年の先輩が入ってきた。先ほど話していた神宮寺先輩だろう。
「すみません。遅れました……。あれ、さっきの」
「ん?俊くんと龍くんって知り合いだったの?」
「いや、さっき職員室の前でちょっと話しただけです。」
「俊君、龍君も霊が見えるみたいだよ~!」
「へぇー、見えるんだ!どれくらい?」
神宮寺先輩の雰囲気は少し冷たくて接しにくい気がしていたが、この話題にはとても食いつきがいい。
「えっと、かなりはっきり見えます。あと、たまにだけど意思疎通できたり…。」
「へぇー、すごいな。そこまで見える人初めて会った。俺の場合、モヤッと影のようなものは見えるが、それが何なのかは見えないんだ。ってことは、さっきのも見えてるのか?」
さっきのとは、玄関付近に立っていた霊のことのようだ。
「はい……」
キューッ、キュッ、キュッ、キュッ……。
僕たちが学校でみた霊の話をしていると、美咲先輩がホワイトボードに何かを描き始めた。
「「「学校の七不思議調査!?」」」
「そう!オカルト部の今年一番最初のミッションは、学校の七不思議を調査することに決定!」
「美咲先輩、でも七不思議を調査したら不思議じゃなくなるんじゃ……。それに、見える俺と神宮寺先輩には不思議でも何でもないかもしれないですよ。」
「まぁ、このミッションの目的は、七不思議を知ることにある!それに、噂によると、学年で七不思議が変わってるようなのよ。」
七不思議が学年で変わるという不思議な現象に、僕たちが目を丸くしていると、先輩は引き続き話を進める。
「だいたい、学校の七不思議っていうと、代々伝わる学校で起きる7つの不可思議な現象だけど、私ら3年が知ってるのと、2年で知ってるのが違うらしいの。」
「それは、伝言ゲーム形式で少し変わっていくとかじゃないんですか?」
「それが、そうではないらしいの。だから、この際だし、オカルト部で正式に学校の七不思議を作ろう!ってね!」
「面白そうかも!私ぜひやりたいです!」
「明里ちゃん、ノリがいいね!じゃあ、来週のこの時間にここに集まって、情報を整理しよっか!じゃー、今日はこれで解散!」