学校の七不思議!?
第三幕
パチンッ……。
「きゃー! び、びっくりした……。」
トイレの個室に入った瞬間、目の前が真っ暗になった。暗い校舎内の探検の束の間、明るいトイレでの談笑で完全に緊張がほどけてしまっていた。
「み、美咲先輩……電気切れたんですかね……?」
恐る恐るトイレのドアに手をかける……何かがおかしい。新校舎のトイレのドアにはドアノブがなかった気がする。
キィーーーーーー……。
さっきは鳴らなかった、錆びた金具の音。
ゆっくりドアをあけて個室を出ると、トイレ全体の雰囲気が全く違う。タイルが敷かれている床に、くもりガラスがはめられたスライド式の窓、洗面台は一つ一つ孤立したタイプのものになっていた。
あぁ、まただ……。小学5年生の時の宿泊学習の時のことを思い出した。
でも今回はあの時とは違う。声を上げただけでは何も解決しないのだ。
「まずは自分がどこにいるのかちゃんと確認しなきゃ。」
意を決して、足早にトイレから出る。できるだけ洗面台上の鏡は見たくないからだった。
トイレから出た私は、取り敢えず背中を壁に付けるようにしてあたりを見回し、自分がどこにいるのか目印になるものを探した。
ピロロロロロ!
「っちょ!わ、私の電話か……。この番号!中里さんだ!」
すぐさま私は電話に応答した。
「繋が ザッー!明里ちゃん!ザザッ…こにいるんd ……!?」
「な、中里さん!私今、旧校舎にいる見たいです!そっちに…」 プツンッ。
「き、切れちゃった……。この辺って電波悪いのかな…。」
携帯画面上に圏外の文字が表示されている。
「そ、そんなことより、早くみんなと合流しなくちゃ!それにしてもここ、どこだろう。」
つい、一か月前にこの学校に入学したばかりで、校舎の構造をすべて把握しているわけではない。まして、旧校舎なんて授業では一度も使ったことがない。せめて調理実習室を見つけることができれば新校舎はすぐそこなのに…。
そんなことを思いながら左右の廊下を確認する。廊下には窓がなく、さっきまでいた新校舎とは全く雰囲気が違う。窓さえあれば自分が何階にいるかが確認できるが、そうではない。幸いにも、トイレを出てすぐ左は用務室と書かれている扉があるだけ。おのずと自分の進む方向が見えてくる。
「校内回ったとき、こんな場所あったかな……。とりあえずここを曲がればいいんだよね。」
短い廊下の先を曲がると、さほど長くもない廊下。左側には教室が並び、右側には少し広めの空間が広がっていた。左側の教室の扉の上には図書室と書かれている。
「そっか、ここ旧校舎の一階だ。廊下の突き当りを右に曲がれば調理実習室だ!」
私は駆け足で廊下を横切る。そして突き当りを右に曲がると、月明かりに照らされた長い長い廊下が見えた。廊下を進み、調理実習室の後ろの戸を過ぎたところで、水の流れる音が聞こえた。
シャー―――――。
「さっき調理室使ったとき誰か蛇口閉め忘れたのかな。念のため確認しとこう……。」
そう思って、教室の後ろの扉に数歩戻り、引き戸に手をかける。
引き戸の窓からは真っ暗な調理室の様子が見えていて、少し怖い雰囲気がした。ほんの数時間前にみんなでカレーを食べていたことが嘘のようだった。教室の扉を開け、手探りで教室の電気のスイッチを探す。
パチッ…… パチッ……
電気を付けようと、何度もスイッチを押すが、一向に電気が付く気配がない。週末だし、学校全体のブレーカーでも落としてるのかな。
……そういえば、さっき聞こえていた水の流れる音がしない。教室の中は暗闇と静寂に包まれる。
「き、気のせいだったのかな……」
そう思い、入ってきたドアの方に振り返った。
っ……!! 私は一目散に手を口に当て、その場にしゃがんだ。
(いや、そ、そんなはずはない。そんなはずはない!だって、私……
扉閉めてないもん。
待って、待って!私開けたままだったよね……。)
自分の見たものと記憶が一致しない。頭の中で何が起きているのか必死に理解しようとした。
それと、咄嗟にその場にしゃがんだことにはもう一つ理由がある。
さっき振り返った瞬間、教室の一番奥の調理台。シンクの前……誰かが立っていたように見えた。見えたっていうのは、ほんとうに一瞬だったから確信がない。それに、教室に抱いていた違和感がやっとで分かった。カーテンが開いているというのに教室が真っ暗なこと。カーテンはすべて開いているにも関わらず、月の光が全くはいってこない。
さっきまで歩いていた廊下やトイレとは全く空気が違う。
自分の中に渦巻く怖いという感情と、自分が見た人影が本物なのか確かめたいという好奇心。
(私は井上明里、15歳……いつまでも龍ちゃんに頼ってばっかじゃダメ。よし。)
私は姿勢を低くしたまま黒板前の先生用調理台の下に隠れる。そしてゆっくり音を立てないように、一番後ろの調理台を確認できる距離まで動く。
シャーッ。 シャーッ。 シャーッ。
(何……?この音?止んだ……?)
謎の音が止んだのを確認してから、ゆっくり調理台の影から顔を出した。
ヒィッ!!!!
あの人影が通路を挟んだ反対側に立っている。そしてその右手には月明かりに照らされて光る刃物が握られている。
(ダメ。見ちゃダメ。でも、体が動かない‼)
その人影はゆっくり……ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
(嫌だ。怖い。こっちに来ないで。逃げたいのに体が動かない……。龍ちゃん、助けて…。)
ガッラッ!!!
「明里ー‼お前!明里から離れろ!!!」
「龍……ちゃん…?」
カチッ。 調理室全体に明かりがともる。その通路の先にはもう何もいない。
「明里ちゃん、大丈夫?怪我とかない?」
美咲先輩が駆け寄り、私の手を引いて立たせてくれた。
「うっ……先輩…怖かったです……」
私は安心感と緊張のほぐれから、先輩のジャージを濡らしてしまった。
******
「龍、さっき何が見えたんだ?」
中里が僕に話しかける。
「わからない。でもすごいやばい気がしたんだ。怒りのような感じ。」
「俺もそれは感じた。女の人だったよな?」
「やっぱり神宮寺先輩にも見えてましたか?俺には同い年か、少し年下に見えました。髪が長くて、セーラー服を着ていたと思います。」
「セーラー服……この学校、セーラー服だった時代って聞いたことないな。」
「そういえば、みんなはどうして私がいたところがわかったんですか?」
少し落ち着いたのか、明里が僕らに聞いた。
「中里さんが明里ちゃんに電話をかけた後、私たちは旧校舎に向かって歩いていたの。旧校舎の端の方は電波が途切れ途切れになることがたまにあるからね。それで、歩いている途中で見える組たちが……」
「あぁ、俺が校舎の黒い人影を見つけたんだ。俺にはわからなかったけど龍が、この人がついて来いって言ってたみたいで、その人影を追ってきたら、ここに着いたってわけだ。」
美咲先輩に続いて、神宮寺先輩が明里の質問に答えた。
「とりあえず、今日はもう解散しましょう。これ以上ここを散策するのはちょっと気が引ける。明里ちゃんも休ませてあげたいし…」
「だな。」
そういって俺たちは中里と解散した後、宿泊学習の部屋に戻り、次の朝までぐっすりだった。明里はすごく怖かったみたいで、美咲先輩と一緒の布団で寝ていたらしい。
翌朝、他の生徒が起きる音につられて僕が一番早く起き、みんなを起こした。布団を片付け、帰る支度をする。
今回あった不可思議な現象はオカルト研究部内だけの秘密にすることとし、先生に提出する報告書は美咲先輩が適当にごまかすと言っていた。
「明里、もう大丈夫か?」
「うん……。ちょっと数日一人でトイレいける自信ないや……。」
ははっと笑う明里の顔は疲れと眠気でくしゃくしゃだった。
「そういえば、あの霊はなんで調理室なんかに居たんだろう。」
「七不思議の、包丁を研ぐ音の正体なんじゃないか?なんかそんな音しなかったか?」
「そういえば……その音聞いた。……思い出したら怖くなってきちゃった。」
明里はそう言って僕のジャージの袖を握った。
パチンッ……。
「きゃー! び、びっくりした……。」
トイレの個室に入った瞬間、目の前が真っ暗になった。暗い校舎内の探検の束の間、明るいトイレでの談笑で完全に緊張がほどけてしまっていた。
「み、美咲先輩……電気切れたんですかね……?」
恐る恐るトイレのドアに手をかける……何かがおかしい。新校舎のトイレのドアにはドアノブがなかった気がする。
キィーーーーーー……。
さっきは鳴らなかった、錆びた金具の音。
ゆっくりドアをあけて個室を出ると、トイレ全体の雰囲気が全く違う。タイルが敷かれている床に、くもりガラスがはめられたスライド式の窓、洗面台は一つ一つ孤立したタイプのものになっていた。
あぁ、まただ……。小学5年生の時の宿泊学習の時のことを思い出した。
でも今回はあの時とは違う。声を上げただけでは何も解決しないのだ。
「まずは自分がどこにいるのかちゃんと確認しなきゃ。」
意を決して、足早にトイレから出る。できるだけ洗面台上の鏡は見たくないからだった。
トイレから出た私は、取り敢えず背中を壁に付けるようにしてあたりを見回し、自分がどこにいるのか目印になるものを探した。
ピロロロロロ!
「っちょ!わ、私の電話か……。この番号!中里さんだ!」
すぐさま私は電話に応答した。
「繋が ザッー!明里ちゃん!ザザッ…こにいるんd ……!?」
「な、中里さん!私今、旧校舎にいる見たいです!そっちに…」 プツンッ。
「き、切れちゃった……。この辺って電波悪いのかな…。」
携帯画面上に圏外の文字が表示されている。
「そ、そんなことより、早くみんなと合流しなくちゃ!それにしてもここ、どこだろう。」
つい、一か月前にこの学校に入学したばかりで、校舎の構造をすべて把握しているわけではない。まして、旧校舎なんて授業では一度も使ったことがない。せめて調理実習室を見つけることができれば新校舎はすぐそこなのに…。
そんなことを思いながら左右の廊下を確認する。廊下には窓がなく、さっきまでいた新校舎とは全く雰囲気が違う。窓さえあれば自分が何階にいるかが確認できるが、そうではない。幸いにも、トイレを出てすぐ左は用務室と書かれている扉があるだけ。おのずと自分の進む方向が見えてくる。
「校内回ったとき、こんな場所あったかな……。とりあえずここを曲がればいいんだよね。」
短い廊下の先を曲がると、さほど長くもない廊下。左側には教室が並び、右側には少し広めの空間が広がっていた。左側の教室の扉の上には図書室と書かれている。
「そっか、ここ旧校舎の一階だ。廊下の突き当りを右に曲がれば調理実習室だ!」
私は駆け足で廊下を横切る。そして突き当りを右に曲がると、月明かりに照らされた長い長い廊下が見えた。廊下を進み、調理実習室の後ろの戸を過ぎたところで、水の流れる音が聞こえた。
シャー―――――。
「さっき調理室使ったとき誰か蛇口閉め忘れたのかな。念のため確認しとこう……。」
そう思って、教室の後ろの扉に数歩戻り、引き戸に手をかける。
引き戸の窓からは真っ暗な調理室の様子が見えていて、少し怖い雰囲気がした。ほんの数時間前にみんなでカレーを食べていたことが嘘のようだった。教室の扉を開け、手探りで教室の電気のスイッチを探す。
パチッ…… パチッ……
電気を付けようと、何度もスイッチを押すが、一向に電気が付く気配がない。週末だし、学校全体のブレーカーでも落としてるのかな。
……そういえば、さっき聞こえていた水の流れる音がしない。教室の中は暗闇と静寂に包まれる。
「き、気のせいだったのかな……」
そう思い、入ってきたドアの方に振り返った。
っ……!! 私は一目散に手を口に当て、その場にしゃがんだ。
(いや、そ、そんなはずはない。そんなはずはない!だって、私……
扉閉めてないもん。
待って、待って!私開けたままだったよね……。)
自分の見たものと記憶が一致しない。頭の中で何が起きているのか必死に理解しようとした。
それと、咄嗟にその場にしゃがんだことにはもう一つ理由がある。
さっき振り返った瞬間、教室の一番奥の調理台。シンクの前……誰かが立っていたように見えた。見えたっていうのは、ほんとうに一瞬だったから確信がない。それに、教室に抱いていた違和感がやっとで分かった。カーテンが開いているというのに教室が真っ暗なこと。カーテンはすべて開いているにも関わらず、月の光が全くはいってこない。
さっきまで歩いていた廊下やトイレとは全く空気が違う。
自分の中に渦巻く怖いという感情と、自分が見た人影が本物なのか確かめたいという好奇心。
(私は井上明里、15歳……いつまでも龍ちゃんに頼ってばっかじゃダメ。よし。)
私は姿勢を低くしたまま黒板前の先生用調理台の下に隠れる。そしてゆっくり音を立てないように、一番後ろの調理台を確認できる距離まで動く。
シャーッ。 シャーッ。 シャーッ。
(何……?この音?止んだ……?)
謎の音が止んだのを確認してから、ゆっくり調理台の影から顔を出した。
ヒィッ!!!!
あの人影が通路を挟んだ反対側に立っている。そしてその右手には月明かりに照らされて光る刃物が握られている。
(ダメ。見ちゃダメ。でも、体が動かない‼)
その人影はゆっくり……ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
(嫌だ。怖い。こっちに来ないで。逃げたいのに体が動かない……。龍ちゃん、助けて…。)
ガッラッ!!!
「明里ー‼お前!明里から離れろ!!!」
「龍……ちゃん…?」
カチッ。 調理室全体に明かりがともる。その通路の先にはもう何もいない。
「明里ちゃん、大丈夫?怪我とかない?」
美咲先輩が駆け寄り、私の手を引いて立たせてくれた。
「うっ……先輩…怖かったです……」
私は安心感と緊張のほぐれから、先輩のジャージを濡らしてしまった。
******
「龍、さっき何が見えたんだ?」
中里が僕に話しかける。
「わからない。でもすごいやばい気がしたんだ。怒りのような感じ。」
「俺もそれは感じた。女の人だったよな?」
「やっぱり神宮寺先輩にも見えてましたか?俺には同い年か、少し年下に見えました。髪が長くて、セーラー服を着ていたと思います。」
「セーラー服……この学校、セーラー服だった時代って聞いたことないな。」
「そういえば、みんなはどうして私がいたところがわかったんですか?」
少し落ち着いたのか、明里が僕らに聞いた。
「中里さんが明里ちゃんに電話をかけた後、私たちは旧校舎に向かって歩いていたの。旧校舎の端の方は電波が途切れ途切れになることがたまにあるからね。それで、歩いている途中で見える組たちが……」
「あぁ、俺が校舎の黒い人影を見つけたんだ。俺にはわからなかったけど龍が、この人がついて来いって言ってたみたいで、その人影を追ってきたら、ここに着いたってわけだ。」
美咲先輩に続いて、神宮寺先輩が明里の質問に答えた。
「とりあえず、今日はもう解散しましょう。これ以上ここを散策するのはちょっと気が引ける。明里ちゃんも休ませてあげたいし…」
「だな。」
そういって俺たちは中里と解散した後、宿泊学習の部屋に戻り、次の朝までぐっすりだった。明里はすごく怖かったみたいで、美咲先輩と一緒の布団で寝ていたらしい。
翌朝、他の生徒が起きる音につられて僕が一番早く起き、みんなを起こした。布団を片付け、帰る支度をする。
今回あった不可思議な現象はオカルト研究部内だけの秘密にすることとし、先生に提出する報告書は美咲先輩が適当にごまかすと言っていた。
「明里、もう大丈夫か?」
「うん……。ちょっと数日一人でトイレいける自信ないや……。」
ははっと笑う明里の顔は疲れと眠気でくしゃくしゃだった。
「そういえば、あの霊はなんで調理室なんかに居たんだろう。」
「七不思議の、包丁を研ぐ音の正体なんじゃないか?なんかそんな音しなかったか?」
「そういえば……その音聞いた。……思い出したら怖くなってきちゃった。」
明里はそう言って僕のジャージの袖を握った。