小説
『落ち着かない理由』
昼休みの教室は、少し騒がしい。
教室のドアを開ける音、楽しそうな声、椅子を引く音。
ほのかは、いつものように自分の席でお弁当を広げた。
(……美味しい)
朝、お母さんが作ってくれた、お弁当。
好きなおかずを口に入れると、自然と頬が緩んでしまう。
——その時だった。
(……あ)
ふと、視線を感じた。
顔を上げると、少し離れた席にいる
(……見られてた?)
胸が、どくんと鳴る。
思わず、箸を持つ手が止まる。
変なところ、見られてないだろうか。
食べ方、汚くなかったかな。
急に意識してしまって、さっきまで美味しかったお弁当の味が、少し分からなくなる。
(……気のせい、だよね)
そう思いながらも、心臓の音はなかなか落ち着かなかった。
⸻
次の日。
「……あのさ」
突然、声をかけられて、ほのかはびくっと肩を揺らした。
振り返ると、そこにいたのは日向くんだった。
「これ、余ったから食べない?」
そう言って差し出されたのは、小さなお菓子。
「……え?」
一瞬、どう返せばいいか分からなくなる。
今まで、日向くんとはほとんど話したことがない。明るくて、いつもクラスの中心にいるような人だ。
(どうして、私に……?)
戸惑いながらも、断る理由が見つからなくて、そっと受け取った。
「……ありがとうございます」
そう言うと、日向くんの口元がふっと緩んだ。
嬉しそうにしているように見えて——
その表情が思っていたより優しくて、なぜか胸に残った。
(……優しい人、なのかな)
⸻
それから、少しずつ。
お菓子をもらったり、食べ物の話をしたり、
ほんの短い会話を交わすようになった。
特別なことは、何もない。
それなのに——
(……日向くんといると、落ち着かない)
日向くんに貰ったお菓子を食べると、
彼はいつも、嬉しそうな顔で私を見る。
目が合うと、胸がきゅっとなる。
話しかけられると、嬉しいのに、少し緊張する。
自分でも理由が分からなくて、困ってしまう。
ある日、もらったお菓子を食べながら、ほのかは思った。
(……また、見られてたらどうしよう)
そう思って、思わず周りを見渡す。
日向くんは、少し離れた席で、こちらを見ていないふりをしていた。
(……ほんとは、見てるのかな)
そう思うと、胸の奥が、くすぐったくなる。
ほのかは小さく笑って、お菓子を口に入れた。
(……もし、あの時みたいに)
あんなふうに、少しだけ嬉しそうに笑ってくれていたなら。
見られても——
(……嫌じゃ、ない…かも)
そう思ってしまった自分に少し戸惑って、
頬がじんわりと熱くなった。
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