Novel

寄り道のあとで


放課後の帰り道。桜田さくらだほのかと別れて、しばらく。日向晃ひゅうがあきらは、一人で歩いていた。夕焼けはもう薄れて、空は少しずつ夜の色に変わり始めている。さっきまで隣にいた気配が、やけに残っていた。
言葉にならない何かが、喉の奥に引っかかっているような気がする。ポケットに手を突っ込み、何気なく歩く。足取りはいつもと変わらないはずなのに、妙に落ち着かない。ふと、足が止まった。

「……俺、何言ってんの?」

思わず、声に出る。頭をがしがしとかいて、晃は小さく息を吐いた。いや、分かってる。原因は一つだ。

「“好きだから、かな”って……」

そこだけは、やけにはっきりと思い出せる。
言った。確かに言った。しかも。

「普通に言ってるし……」

自分で言っておいて、今さらじわじわと恥ずかしくなってくる。あの時のほのかの顔が、頭に浮かんだ。少しだけ目を見開いて、ほんの一瞬、息が止まったみたいな表情。

「あれは、完全に勘違いするやつだろ……」

思わず顔を覆う。
いや、違う。違わないけど、違う……いや、違わない。

「いやでも、そのあとちゃんと“食べてるとこ”って言ったし」

言った。ちゃんとフォローはした。した、けど。

「……余計タチ悪くないか?」

ぽつりと呟く。“好き”って言って、期待させて。
その直後に、引っ込めたみたいな形になっている。そう考えると、今さらながら申し訳なくなってきた。自覚した瞬間、かっと頬に熱が集まる。

「最悪だろ、それ……」

完全に無意識だった。あの時は本当に、ただ思ったことをそのまま口にしただけだ。でも、今になって考えてみれば、

「……いや、普通言うか?」

言わない。少なくとも、ああいう言い方はしない。

街灯が、ぽつぽつと灯り始めていた。晃はしばらく黙ったまま歩く。靴音だけが、やけに響いている。
けれど。ふと、さっきのことを思い出した。コロッケを食べたときの、ほのかの顔。少しだけ頬が緩んで、ほっとしたように小さく笑っていた。

「ああいう顔、するんだよな」

自然と、口元が緩む。あれを見ると、なんというか——

「嬉しくなるっていうか……」

言葉にしてから、少しだけ考える。そういえば、あの時もそのまま口に出した。こっちまで嬉しくなる、と。なんでだろう。そう考えるより先に。

「……まあ、好きだからか」

ぽつりと落ちた言葉に、自分で固まる。

「いやいやいや」

すぐに首を振る。
今のは違う。絶対違う……たぶん違う。

「何だよ、それ」

一人でツッコんで、ため息をつく。けれど、完全には否定しきれなかった。足が止まる。もう姿は見えない。それでも、さっき別れた場所のほうを、なんとなく振り返った。

「また誘うって言ったし」

小さく呟く。あれは、本音だった。お腹が空いたから、だけじゃない。

「普通に、また一緒に食べたいし」

そこまで言って、また言葉が止まる。数秒の沈黙。

「……だから、それが何なんだよ」

軽く笑って、頭をかく。結局、よく分からないままだ。

でも。

「まあ、次また誘えばいっか」

小さく笑って、歩き出す。難しいことは、後でいい。今は、それだけで十分だった。少しだけ軽くなった足取りで、夕焼けの消えた道を一人で進んでいく。

さっきより少しだけ——次の寄り道が、楽しみになっていた。
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