復讐なんて
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「またね、ジェノスくん」
小さいころの記憶。どうして今そんなことを思い出すのだろう。
温もりが感じなくなったはずの手のひらが温かい。
誰かに手をのせられている。……いや、自分がそうするようにしている?
目の前にいる人物は誰だろう。
見たいのに、彼女の顔はモヤがかかっていた。
──誰?
ピピピピピッ
けたたましいアラーム音に、ジェノスはスリープモードを解除した。
この音が鳴っているということは、サイタマが起きる時間である。
しまった、朝ごはんの用意ができていない。
サイタマが起きる。大きな口で欠伸をした。
「お、ジェノスも今起きたのか。珍しいな」
「申し訳ございません! 俺としたことが寝坊など……!!」
「寝坊ではないだろ。いつも用意してもらってるし、今日は俺が朝飯の用意するよ」
「いえ、そんな」
「いーんだよ」
そう言ってサイタマは着替えて、スーパーへと向かった。
ジェノスは激しく後悔し、反省した。
どうしてあんな夢を見たのか。どうして、温もりを感じたのか。
ジェノスは過去の出来事を、脳で検索するかのように思い出してみる。
ダメだ、思い出せない。
きっと、人間だった頃の記憶だ。人間だった頃の、昔の記憶。
思い出せないのも仕方ない。
ジェノスは立ち上がり、トイレ掃除を始める。
思い出までも落とすように、ゴシゴシと強く擦った。
「ごっそさん」
「ありがとうございます先生!」
ジェノスがこの世の全てに感謝するように、手を合わせた。
サイタマはジェノスの態度に呆れながら、食器洗いを頼んだ。
元気のいい返事を聞いたら、サイタマはテレビをつける。
ジェノスは黙々と食器を洗う。
その際も思い出されるのは今日の夢。おかしい事に気づく。
自分は機械である身。ならどうして夢を見るのか?
この体になってから夢など見ていない。これは故障だろうか。
サイタマに一言残し、クセーノ博士のもとへ行く。
検査をしてもらったが、クセーノ博士は腕を組んで首を振った。
「特に変わったことはない。正常じゃ」
「そうですか」
ジェノスは何も異常がないことに驚く。手を顎に当てて考える。
「何故夢を見るのでしょうか」
クセーノ博士は彼を憐れんでしまう。ジェノスにとって夢を見ることが異常と感じることに。
即ちそれは、自分が人間ではないと言っているようなものではないか。
クセーノ博士は首を横に振った。ジェノスの親として、憐れんでいるだけではダメだ。
きちんと言わないといけない。
クセーノ博士はジェノスの正面に立ち、両手をそれぞれジェノスの肩に置いた。
真っ直ぐとジェノスを見つめる。人間ではない瞳孔をしっかりと見た。
「いいかジェノス。お主は人間じゃ。人間なのだから、夢だって見る」
「しかし、スリープモードで……」
「脳は人間のままじゃろ。だから、幼いころの人間の記憶を見るのも当たり前じゃ」
「……なるほど」
「ワシはお主の幼い頃を知らん。しかし、その夢は消してはいかんぞ」
「……」
あまりにもクセーノ博士が真剣に、真正面から言うものだから、ジェノスはその圧に押され頷いた。
頷くしか、なかった。
ジェノスは夢を見ることは無駄だと思い、夢を見てしまわぬように改造を頼もうとした。
しかしクセーノ博士にこう言われたらとてもそんな事は頼めない。
ジェノスは何の成果もないまま帰るしかなかった。
「ジェノスおかえりー。どうだった?」
「ただいま帰りました。特に問題はありませんでした」
「そうか、良かったな」
ジェノスはサイタマに聞いてみる。
「先生は……子供の頃の夢を見ますか?」
「なんだいきなり」
「実は、」
ジェノスはサイタマに夢のことを話した。
サイボーグである自分が夢を見たこと。特に異常はなかったこと。その夢が幼い頃の夢だったこと。
どうして今になってそんな夢を見るのか。夢が何を示すのか。
サイタマは少し考える。そして頭に電球が浮かんだかのように思い出したようだ。
電球は比喩である、決して頭皮のことではない。
「うーん、夢なんか覚えてねぇな」
「……そうですか」
それはそうだ。夢なんて起きた瞬間から忘れているのだから、覚えているわけない。
ジェノスは話題を変えようとしたが、サイタマがこの話に決着をつけた。
「そういえば子供の頃の夢って願望って聞くな」
「願望?」
「そう。その人と話したいんじゃねーのか?」
「……なるほど」
ジェノスは考え込んだ。夢の人物は女の子。しかしジェノスはその女の子のことが分からない。
そんな様子を見たサイタマは欠伸をして、視線をテレビに戻した。
一体誰だろうか。ジェノスはその日一日、夢の女の子について考えていた。
まだ家族がいた頃の記憶だろうか。ダメだ、思い出せない。
結局何も思い出せないまま寝る時間となる。
ジェノスは部屋の隅で、スリープモードを起動した。
全身から熱が引いていくのと同時に、深い渦に飲み込まれていく感覚。
そして、全てがシャットダウンした。
「ジェノスくん!」
女の子が目の前にいる。目の前にいるのに、どうして顔が分からないのだろう。
輪郭がぼやけ、はっきりと認識できない。
でも不思議とこの人物を信頼している。
ジェノスは喋れることに気付いた。
「誰?」
声が高い。まだ変声期が訪れていない声だ。
女の子は驚いた顔をする。いや、顔が見えないのでハッキリとは分からないが、驚いているように見えた。
そして、微笑む。
「……だよ」
名前が聞こえない。もう一度聞きたいのに、女の子が霧に包まれていく。
待って! そう言いたいのに声が出ない。手を伸ばしたけど、女の子に届かなかった。
そして、一瞬にして周りが炎に包まれた。
これは、あの時、家族を失った──
「……ッ!」
目を覚ます。カーテンから漏れる光から今は朝なのだと分かった。
ない心臓が激しく鼓動しているような感覚に襲われる。
汗をぬぐう。いや、自分はサイボーグなのだから汗なんてかかないのに。
どうしてまた夢を見たのか。
ジェノスは先ほどの夢を忘れるように、朝食づくりに励んだ。
あの女の子は一体誰だろう。考えたくないのに、考えてしまう。
その考えは日が経つたびに、会いたいという気持ちに変わるのだった。
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