不測の事態にどう対応できるか、それがデート成功の秘訣
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きっかけは何だったか。
日常のことはメモリに保存してあるのだから、忘れている出来事はない。
でも、それでも、何故だか思い出せないのだ。
名無しさんに出会ったときのことは思い出せる。
そうだ、名無しさんを助けたのだ。
それで、名無しさんがお礼を言った。
そうやって、毎回、会うたびにお礼を言ってくれて。それで……。
「ゼロ?」
声をかけられて、メモリを遡るのを停止する。
横には名無しさんがいて、心配そうにこちらを見ていた。
「問題無い。少し過去を思い出していた」
「楽しい思い出?」
「……あぁ」
ただの市民とヒーローが、今では恋人同士だ。
告白したのは駆動騎士から。
名無しさんといると、冷静に物事を考えることが出来なくなる。
しかし離れると、体内に風が吹いたように落ち着かない。
それが、恋心と気づけば行動は素早く対応した。
告白して、恋人になって、一番近くの存在になって。
そうすれば、今まで通り冷静になれると思った。全てを計算できると思った。
しかし、恋人になった方が計算外のことが多発してしまう。
「あ、ねぇねぇあれ見て! 美味しそう!!」
「しかしそれは計画には……」
「大丈夫大丈夫! 多少の計画外になってもどこかで取り戻すから!」
そう言って名無しさんがソフトクリーム屋に行ってしまう。
本当はこの後、ボーリングに行く予定であったのに。
仕方ない。計画が上手くいった試しは無いのだから。
「ありがとう!」
会計をしている駆動騎士に笑顔でお礼を言った。
その笑顔に、またキュルキュルと体内の機械が鳴る。
出会った頃は故障かと思った。
しかし何度直しても、メンテナンスをしても、壊れた個所は見つからない。
ここ最近でやっと故障では無く、人間の感情が自分の中で動いていることが分かった。
悪くない。そう、思った。
「そんなに食べられるのか?」
「うん。余裕」
「……半分食べたところでギブアップと予想」
「大丈夫だもん」
名無しさんが頼んだのは大盛りソフトクリームであった。
ソフトクリームだけでなく、ウエハースやマシュマロなどのトッピングも乗っていた。
おそらく複数人で食べる想定のものであろう。
なのに名無しさんは頼んだ。
どういった理由で頼んだのか、どういった根拠で食べられると思ったのか、駆動騎士には不明だ。
近くのベンチに座り、小さな一口で大きなソフトクリームを食べる。
その姿を、飽きずにずっと見れるのはどうしてか。
名無しさんと付き合ってから様々な疑問を抱くが、回答が出なくても良い。
その疑問は、愛という答えの出ないものであると信じているから。
「ま……だ、まだ……」
「もうやめろ。胃の限界だ」
「食べ物を粗末にするわけには……」
大きなソフトクリームはいつの間にか、3分の1になっていた。
駆動騎士は半分でギブアップと予想していたが、無理して食べたようだ。
苦しそうに呻き、下を向いている。
その姿に自然と笑いが出てしまった。
名無しさんの手からソフトクリームを取る。
そして一瞬でソフトクリームを自分の体内に入れた。
「え!?」
「これで勿体無いことは無いだろう」
「……それでどうやって食べたの?」
「企業秘密だ」
「なにそれ」
今度は名無しさんが笑う番であった。
駆動騎士に口という口は無い。どうやって食べたのか、名無しさんは脳内で考えてみる。
どういう食べ方でも面白いものであった。
クスクスと笑っている名無しさんに、駆動騎士は目が離せない。
思わず、自分の手を名無しさんの頭に置いていた。
また名無しさんが嬉しそうに笑う。
もし人間の体であったなら、筋肉がある顔であれば、自分は笑っていただろう。
「さ、行こう。ボウリングは無しにして、この辺を散歩に変更だ」
計画外のことが起きた時の想定は何個もある。
今回は食べ過ぎ。だから、散歩で歩いて運動して胃を落ち着かせようとしたのだ。
駆動騎士がベンチから立ち上がり、名無しさんへ手を差し出した。
名無しさんはその手を笑顔のまま掴む。
……が、立ち上がろうとしなかった。
名無しさんは俯いたまま動かない。
「たて、な、い」
苦しそうに言う名無しさんに駆動騎士は人間であればため息を吐き出していた。
ほれ言ってみろ。と言わんばかりにお腹を抑えて悶えていた。
隣に座る。
「……言いたいことは分かります。ごめんなさい」
「……」
駆動騎士は黙って名無しさんを見ていた。
名無しさんがお腹を痛くするのは2パターンある。
この苦しみ方は冷たいものを一気に食べたことによる腹痛だ。
ちなみに、もう1つのパターンは食べ過ぎによる腹痛である。
「うえぇ、ごめんねぇ……」
「いい。気にするな」
駆動騎士は名無しさんのお腹に手を当てた。
熱くなり過ぎないように、手から熱を出して名無しさんのお腹を温めた。
「ありがとう……少し落ち着いてきた……」
名無しさんの顔の皺がじょじょに無くなっていく。
その顔を見て駆動騎士も胸を撫でおろした。
まったくこの娘は……。自分の計画外のことばかりしてくれる。
良かった。機械の体で。こうして名無しさんを助けることができるから。
あと、もし人間の身体であったのなら今は笑ってしまっているだろう。
そんな姿を名無しさんに見せたら「え。笑ってる! 私が苦しんで嬉しいんだ……」とか言い始める。
きっとそう言うだろう。
まぁ、そんなことを言われるのも悪くないが。
「よし! 元気になった!」
名無しさんが立ち上がる。
その顔は晴れやかで、先ほどの苦しさは嘘のようだ。
「ありがとう、ゼロ!」
「あぁ」
名無しさんの笑顔にまた体内に熱を持つ。
駆動騎士も立ち上がり、名無しさんの手を握った。
行先は決まっている。
足を動かし、歩き始めた。
「家に帰るぞ」
「えー」
「あと10分後にトイレに行きたくなる」
「クッ……!!」
名無しさんはその通りなのか、何も言い返すことはできない。
しかし、少し歩いてから名無しさんが笑みを浮かべる。
勝利が約束されたかのような、そんな笑みだ。
「フッフッフ。流石のゼロも、人の体内は分からないようだね」
「なんだと?」
「今もうトイレ行きたい」
「!!」
駆動騎士がまずい、と思う前に名無しさんはちっちっち、と人差し指を振る。
その人差し指は真横にあったデパートを指していた。
いつの間に。と駆動騎士が驚いていると、名無しさんはデパートの中へ走って行った。
まさかもうお腹を壊していたとは、こんな所にデパートがあったとは。
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