夏だ! 海だ!!~その1~
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※サバイバル知識は漫画やテレビやネットです。
「それでは会議を始める」
狭い会議室に座っているのは名無しさんとイアイアンだ。
今回の会議はA級についての話。相談だ。
本当はこういった話や決断は、アマイマスクにするべきだが忙しいのと、決断するのは彼ではないと判断したから。
2位と3位だからこそ、この話は彼らに決断してもらわなければならない。
2人は背筋を丸めることなく、配られた資料に目を通す。
表紙には"A級の信頼を取り戻すには"と書いてあった。
「……何ですかこれは」
イアイアンが呆れた顔で言う。
その資料は分厚くなく、15分ほどあれば読み終えるのだ。
全てに目を通し中身のあまりにも馬鹿馬鹿しさに、器が広いイアイアンでさえ訝しい顔だ。
その中身とは、こう書いてある。
宇宙船がこの地球に来てから、我々ヒーローの信頼は右肩下がり。
強さの指標である、A級という文字は意味を成さなくなっている。
この人たちに任せて大丈夫だろうか? その不安はやがて憎悪に変わるだろう。
どうして怪人を倒せない!? どうして町が破壊されるのだ!
こんなヒーローに任せて大丈夫だろうか?
そこでA級諸君には皆と協力し、信頼を、強さを、信念を、不屈の精神を見せてもらう。
視聴方法はもちろん、テレビだ。
誰もが目に入り、声や姿すらも映すのにテレビは最適だ。
そしてテレビで、市民が興味を引き、飽きずに視聴してもらうには?
面白さも、強さも、刺激も見せるには?
──A級たちには、無人島でサバイバルをしてもらう。
イアイアンが顔を隠すように、手を顔にやる。
こんな馬鹿げた企画を、A級がやっている暇などない。
その間に怪人の討伐は? 我々はそんなことをしていていいのか?
確かに、市民たちのヒーローへの信頼は段々下がっていくだろう。
隕石も、深海族も、宇宙船の時もA級は無様な姿しか見せていない。
それでも、サバイバル? こんな企画を考えたのは誰なのか特定したいぐらいだ。
チラリ、と名無しさんの方を見る。
名無しさんは真面目な顔をして、資料を読んでいた。
言ってやってほしい。イアイアンはそう思っている。
名無しさんもこんな事をしている暇なんてない、と同じ考えだろう。そう、信じていたのに。
「これ期間はどれくらいやるんですか?」
名無しさんが資料から目を離し、協会スタッフへ問いた。
「そうだな。S級とB級の予定次第だが、大体一週間ほど」
「持ち物の規制は?」
「詳細は君たちが承諾してから検討だ」
フムフムと考えている素振り。
イアイアンは額に汗を流している。嫌な予感がするからだ。
食い気味に質問するとは、まるできちん考えているようではないか。
名無しさんはイアイアンの方を見た。
その目はキラキラと、電気の反射でより一層輝いている。
「面白そうじゃん! やろうぜ」
まさかその言葉が出てくるとは。
予想外のやる気に、イアイアンは首を振る。
名無しさんの発言を拒否するのと、頭を冷静にさせるためだ。
「おい本当か。A級はそんなことをしている暇なんてあるのか? それに名無しさん、学校はどうする」
「学校は休むし、ヒーロー活動に関しては……。うーん……S級の人たちにお願いしてみる!」
イアイアンは絶句で声が出ない。
あぁそうだ。名無しさんはS級たちと面識があり過ぎる。
名無しさんにお願いされて、断るのは豚神とメタルナイト、シルバーファングぐらいだろうか。
他の反論を考える。このままでは本当に実現してしまうではないか。
「皆でお泊りとか絶対楽しいって!」
名無しさんのお願い事の威力は、S級だけに効くわけではない。
イアイアンにもヒットし、弱点を突かれたように首を縦に動かすしかなかった。
名無しさんが言うなら、希望するのなら致し方ない。
ハァ、と全てを諦めたように息を吐く。眉を下げながら名無しさんを見た。
「仕方ない。やるか」
「やったー! ありがとうイアイ!!」
結局、A級のサバイバル企画は実現することとなってしまった。
名無しさんが嬉しそうに笑い、もう一度資料を見ている。
師匠に報告するのに、少し恥ずかしさがあるが、まぁ3人で言えば恥ずかしさが薄まるだろう。
頭の中で、空想のサバイバルを映し出してみる。
釣った魚を焚き火を囲いながら食べる姿は、確かに楽しそうだ。
「そういえば、アマイは来ないんですか」
「あぁ。彼はどうせ参加できないと思ってね」
「アイツ……忙しいからって」
「それもあるが、別の理由がある」
「?」
「彼、こういった身体張る仕事は拒否してるんだ」
「なんだそりゃ。まぁ、アマイがいたら奴隷にされるだけだから、来ないのはいいかもしれねぇな」
会議はこれで終わった。席を立つのはイアイアンだけ。
企画が決まったことにより、詳細を名無しさんとスタッフで決めるらしい。
名無しさんがいるならば、無理なルールを定めないだろう。
サバイバルにまだ不満はあるものの、脳内で映し出した光景に口が自然と上がっていた。
──数日後。
A級たちに、サバイバルのことを発表する。
中には反対の声を上げる者もいたが名無しさんの楽しそうな顔に、口ごもってしまった。
結局、満場一致でこの企画に参加することとなった。
資料は、以前名無しさんとイアイアンに配られたものより大分分厚い。
読むので午前が終わってしまいそうだ。
この間と同じ、なぜサイバイバルするのかと別で期間や持ち物などの詳細が書かれていた。
期間は1週間。持ち物は武器必須で、一個だけ好きなものを持ち込んでいいこととなっている。
何故武器が必須なのか? それは、行く無人島が怪人反応が沢山あるから。
テレビに映すためのカメラは、メタルナイト協力のもとドローンや動物に模したものを配置するとのこと。
つまり自分たちは、ただひたすら生きることに集中すれば良い。
何を持っていくかを考えたり、サバイバルの知識をつけたりして、サバイバルの日はあっという間に来たのであった。
「……ンでお前がいんだよ」
「君たちだけではむさ苦しいと思ってね。僕の美しさがないと、テレビが退屈してしまうだろう」
参加する予定が無かったアマイマスクが、船着き場にいた。
名無しさんは嫌な顔をしている。
他の者は畏怖でアマイマスクに声をかけられない。
アマイマスクは他の者たちへ視線を向ける。その視線は渡さないぞ、と言っているよう。
「身体張るのはNGなんだろ」
「まぁ、経験するのは悪くない。名無しさんがいるしね」
「どういうことだよ」
「下僕がいるサバイバルは楽だろう?」
「ぶった斬る」
刀を出そうとする名無しさんを、イアイアンと鎖ガマが止めた。
皆は船に乗り込んだ。名無しさんとアマイマスクの喧嘩を見ているのは無駄だったから。
スネックが置いてけぼりになっている者達を呼ぶ。
牙をしまわない名無しさんを一瞥して、アマイマスクも船に乗り込んだ。
怒りを抑え込もうと激しく深呼吸する。
やっと名無しさんとイアイアンと鎖ガマも船に乗ることができた。
心地良い海風が、甲板にいる者たちの頬を撫でる。
ここには名無しさんとイアイアンとオカマイタチ、ブシドリルが横に並んで空と海を眺めていた。
「サバイバルなんて初めてだわ……知らない場所で、携帯も無く過ごすなんて」
オカマイタチが不安を漏らした。
それに頷くのはイアイアンとブシドリルだ。
A級ヒーローの中でサバイバルを経験した者はいない。
確かに、命懸けの怪人討伐よりは危険が少ないだろう。
それに、民衆に放送するのだから過激なことは起こらないと推測する。
それでも、不便な生活は怖いものだ。
しかし名無しさんが3人へと笑顔を向けた。
「大丈夫だって」
その笑顔は、3人の不安をかき消すよう。
先程の不安の雲が、段々晴れてきたようだ。
そうだ、大丈夫だ。何とかなる。ここには数々の試練を乗り越え、怪人と戦ったヒーロー達だ。
何とかなるに決まっている。
そうだな、とイアイアンが返答する前に名無しさんは言葉を続けた。
「俺13歳の時お父様に修行だって言われて、半年間森に置いてかれたから、サバイバルは任せろ!」
絶句。今まで生きてきた中で一番の絶句と衝撃。
まだ子供なのに、1人きりで、道具もないまま過ごした?
壮絶な過去。いや、もっと壮絶なエピソードはあるかもしれない。
「名無しさん……お前は今回何もするな……」
「えっ。何で」
イアイアンが言う。
「貴方……ゆっくりしてちょうだい」
「え? え?」
オカマイタチが言う。
「俺たち頑張るからよぉ」
「どうした!?」
ブシドリルが言う。
これが今、3人が言える最大の慰めの言葉だった。
ブシドリルが名無しさんの肩に手を置き、もう片方の手は目元を押さえている。
零れそうな涙を流さないように。
名無しさんがどうして急に優しくなったのか分からないまま、無人島へとたどり着いたのであった。
「それでは会議を始める」
狭い会議室に座っているのは名無しさんとイアイアンだ。
今回の会議はA級についての話。相談だ。
本当はこういった話や決断は、アマイマスクにするべきだが忙しいのと、決断するのは彼ではないと判断したから。
2位と3位だからこそ、この話は彼らに決断してもらわなければならない。
2人は背筋を丸めることなく、配られた資料に目を通す。
表紙には"A級の信頼を取り戻すには"と書いてあった。
「……何ですかこれは」
イアイアンが呆れた顔で言う。
その資料は分厚くなく、15分ほどあれば読み終えるのだ。
全てに目を通し中身のあまりにも馬鹿馬鹿しさに、器が広いイアイアンでさえ訝しい顔だ。
その中身とは、こう書いてある。
宇宙船がこの地球に来てから、我々ヒーローの信頼は右肩下がり。
強さの指標である、A級という文字は意味を成さなくなっている。
この人たちに任せて大丈夫だろうか? その不安はやがて憎悪に変わるだろう。
どうして怪人を倒せない!? どうして町が破壊されるのだ!
こんなヒーローに任せて大丈夫だろうか?
そこでA級諸君には皆と協力し、信頼を、強さを、信念を、不屈の精神を見せてもらう。
視聴方法はもちろん、テレビだ。
誰もが目に入り、声や姿すらも映すのにテレビは最適だ。
そしてテレビで、市民が興味を引き、飽きずに視聴してもらうには?
面白さも、強さも、刺激も見せるには?
──A級たちには、無人島でサバイバルをしてもらう。
イアイアンが顔を隠すように、手を顔にやる。
こんな馬鹿げた企画を、A級がやっている暇などない。
その間に怪人の討伐は? 我々はそんなことをしていていいのか?
確かに、市民たちのヒーローへの信頼は段々下がっていくだろう。
隕石も、深海族も、宇宙船の時もA級は無様な姿しか見せていない。
それでも、サバイバル? こんな企画を考えたのは誰なのか特定したいぐらいだ。
チラリ、と名無しさんの方を見る。
名無しさんは真面目な顔をして、資料を読んでいた。
言ってやってほしい。イアイアンはそう思っている。
名無しさんもこんな事をしている暇なんてない、と同じ考えだろう。そう、信じていたのに。
「これ期間はどれくらいやるんですか?」
名無しさんが資料から目を離し、協会スタッフへ問いた。
「そうだな。S級とB級の予定次第だが、大体一週間ほど」
「持ち物の規制は?」
「詳細は君たちが承諾してから検討だ」
フムフムと考えている素振り。
イアイアンは額に汗を流している。嫌な予感がするからだ。
食い気味に質問するとは、まるできちん考えているようではないか。
名無しさんはイアイアンの方を見た。
その目はキラキラと、電気の反射でより一層輝いている。
「面白そうじゃん! やろうぜ」
まさかその言葉が出てくるとは。
予想外のやる気に、イアイアンは首を振る。
名無しさんの発言を拒否するのと、頭を冷静にさせるためだ。
「おい本当か。A級はそんなことをしている暇なんてあるのか? それに名無しさん、学校はどうする」
「学校は休むし、ヒーロー活動に関しては……。うーん……S級の人たちにお願いしてみる!」
イアイアンは絶句で声が出ない。
あぁそうだ。名無しさんはS級たちと面識があり過ぎる。
名無しさんにお願いされて、断るのは豚神とメタルナイト、シルバーファングぐらいだろうか。
他の反論を考える。このままでは本当に実現してしまうではないか。
「皆でお泊りとか絶対楽しいって!」
名無しさんのお願い事の威力は、S級だけに効くわけではない。
イアイアンにもヒットし、弱点を突かれたように首を縦に動かすしかなかった。
名無しさんが言うなら、希望するのなら致し方ない。
ハァ、と全てを諦めたように息を吐く。眉を下げながら名無しさんを見た。
「仕方ない。やるか」
「やったー! ありがとうイアイ!!」
結局、A級のサバイバル企画は実現することとなってしまった。
名無しさんが嬉しそうに笑い、もう一度資料を見ている。
師匠に報告するのに、少し恥ずかしさがあるが、まぁ3人で言えば恥ずかしさが薄まるだろう。
頭の中で、空想のサバイバルを映し出してみる。
釣った魚を焚き火を囲いながら食べる姿は、確かに楽しそうだ。
「そういえば、アマイは来ないんですか」
「あぁ。彼はどうせ参加できないと思ってね」
「アイツ……忙しいからって」
「それもあるが、別の理由がある」
「?」
「彼、こういった身体張る仕事は拒否してるんだ」
「なんだそりゃ。まぁ、アマイがいたら奴隷にされるだけだから、来ないのはいいかもしれねぇな」
会議はこれで終わった。席を立つのはイアイアンだけ。
企画が決まったことにより、詳細を名無しさんとスタッフで決めるらしい。
名無しさんがいるならば、無理なルールを定めないだろう。
サバイバルにまだ不満はあるものの、脳内で映し出した光景に口が自然と上がっていた。
──数日後。
A級たちに、サバイバルのことを発表する。
中には反対の声を上げる者もいたが名無しさんの楽しそうな顔に、口ごもってしまった。
結局、満場一致でこの企画に参加することとなった。
資料は、以前名無しさんとイアイアンに配られたものより大分分厚い。
読むので午前が終わってしまいそうだ。
この間と同じ、なぜサイバイバルするのかと別で期間や持ち物などの詳細が書かれていた。
期間は1週間。持ち物は武器必須で、一個だけ好きなものを持ち込んでいいこととなっている。
何故武器が必須なのか? それは、行く無人島が怪人反応が沢山あるから。
テレビに映すためのカメラは、メタルナイト協力のもとドローンや動物に模したものを配置するとのこと。
つまり自分たちは、ただひたすら生きることに集中すれば良い。
何を持っていくかを考えたり、サバイバルの知識をつけたりして、サバイバルの日はあっという間に来たのであった。
「……ンでお前がいんだよ」
「君たちだけではむさ苦しいと思ってね。僕の美しさがないと、テレビが退屈してしまうだろう」
参加する予定が無かったアマイマスクが、船着き場にいた。
名無しさんは嫌な顔をしている。
他の者は畏怖でアマイマスクに声をかけられない。
アマイマスクは他の者たちへ視線を向ける。その視線は渡さないぞ、と言っているよう。
「身体張るのはNGなんだろ」
「まぁ、経験するのは悪くない。名無しさんがいるしね」
「どういうことだよ」
「下僕がいるサバイバルは楽だろう?」
「ぶった斬る」
刀を出そうとする名無しさんを、イアイアンと鎖ガマが止めた。
皆は船に乗り込んだ。名無しさんとアマイマスクの喧嘩を見ているのは無駄だったから。
スネックが置いてけぼりになっている者達を呼ぶ。
牙をしまわない名無しさんを一瞥して、アマイマスクも船に乗り込んだ。
怒りを抑え込もうと激しく深呼吸する。
やっと名無しさんとイアイアンと鎖ガマも船に乗ることができた。
心地良い海風が、甲板にいる者たちの頬を撫でる。
ここには名無しさんとイアイアンとオカマイタチ、ブシドリルが横に並んで空と海を眺めていた。
「サバイバルなんて初めてだわ……知らない場所で、携帯も無く過ごすなんて」
オカマイタチが不安を漏らした。
それに頷くのはイアイアンとブシドリルだ。
A級ヒーローの中でサバイバルを経験した者はいない。
確かに、命懸けの怪人討伐よりは危険が少ないだろう。
それに、民衆に放送するのだから過激なことは起こらないと推測する。
それでも、不便な生活は怖いものだ。
しかし名無しさんが3人へと笑顔を向けた。
「大丈夫だって」
その笑顔は、3人の不安をかき消すよう。
先程の不安の雲が、段々晴れてきたようだ。
そうだ、大丈夫だ。何とかなる。ここには数々の試練を乗り越え、怪人と戦ったヒーロー達だ。
何とかなるに決まっている。
そうだな、とイアイアンが返答する前に名無しさんは言葉を続けた。
「俺13歳の時お父様に修行だって言われて、半年間森に置いてかれたから、サバイバルは任せろ!」
絶句。今まで生きてきた中で一番の絶句と衝撃。
まだ子供なのに、1人きりで、道具もないまま過ごした?
壮絶な過去。いや、もっと壮絶なエピソードはあるかもしれない。
「名無しさん……お前は今回何もするな……」
「えっ。何で」
イアイアンが言う。
「貴方……ゆっくりしてちょうだい」
「え? え?」
オカマイタチが言う。
「俺たち頑張るからよぉ」
「どうした!?」
ブシドリルが言う。
これが今、3人が言える最大の慰めの言葉だった。
ブシドリルが名無しさんの肩に手を置き、もう片方の手は目元を押さえている。
零れそうな涙を流さないように。
名無しさんがどうして急に優しくなったのか分からないまま、無人島へとたどり着いたのであった。
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