振り向かないで 後を追いかけてしまうよ
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荒廃した大地に足をつけ、穴を作る
歩いても歩いてもその星の文明と呼べるものは何一つなかった
積まれたガレキなどがなければ一つの、無の星であっただろう
だが、この星には確かに生物が生息し文明があり繁栄していた星であった
ここに何もないのも、当たり前である
この星は――今、歩を進める張本人が滅ぼしたのだから
輝いていた。ここに生きていたものは未来を見ていた
協力を大事に、しかし個は失わず、素晴らしい星であった
だからこそ、ボロスはこの星を奪ったのだ
長年描き続けてきた未来の絵に、上からいきなり黒いペンキをかけられた時の絶望
その画から鋭い爪の手が延びて、虐殺を始める
戦うことなど、別の星のことだと思っていた住民達の没落は早い
たった一日で、ボロスはこの星の侵略が終わるかと思われた
結局完全なる侵略はせず、ボロスは帰ったわけだが
理由は、ボロスの前にこの星の王が立ちふさがったからだ
名を、名無しさんと言った
「久しいな、名無しさん」
「……また貴様か、ボロス」
「相変わらずその玉座から動かないのか」
「何の用だ」
名無しさんはボロスと戦い、負け寄りの引き分けという結果で今この場にいる
ボロスが名無しさんを見逃したのも、彼女の強さに惹かれたから。気に入ったから
どんなに痛めつけられようと、左腕を失おうと、無様な姿を憎き相手に晒そうと
名無しさんはどんな姿になろうと屈することはなかった。恐怖という感情が欠如しているのか、表情は毅然としている
ボロスは忘れられない
「悔しさも、憎しみもない。我々が弱いから滅びた。この宇宙全体は強いか弱いかで廻っている。弱いから負けた。……弱い星を生み出してしまった私のせいだ。フッ、王として恥ずべきことだな」
今まで命を懇願したものも、強がったものもいた
だが今まで見たことのない態度に興味が湧く
確かに名無しさんは負けた
だが――自分の吹き飛んだ右半身を見る。再生はそろそろ終わりそうだ
殺しておくのは勿体ない。直感で思う
だから、生かしておき残っている左手を、跪いている名無しさんへ差し出す
「仲間にしてやろう、名無しさん。共に来い」
こうして手を差し伸べることは初めてなことであった
これが慈悲というものか、とボロスは学ぶ
だが名無しさんはこの手に自身の手を重ねることはなかった
「断る。私は王だ。貴様なんぞの下に付くわけがない」
殺してもよかったが、やめておいた
殺すのには惜しい強さ
いずれ時が経てば気が変わるかもしれぬと、ボロスは踵を返す
それからというもの、ボロスは星をいくつか強奪したあと、まるで帰るかのように名無しさんの星へと訪れこうして声をかけているのだ
何回、同じ言葉を投げただろう
何回、その言葉を振り払っただろう
「名無しさん、この星はもう滅びた。その椅子に座っている意味もない。それならば俺と一緒に来たほうが有意義だと思うが」
「勝手に決めるな。王がいるなら、星は復活する。例え何万年、何億年経とうがな」
名無しさんの意思は固かった
子供の、勝手な我儘にも近いその言い分を鼻で笑う
「フン。まぁまた来る」
マントがふんわりと翻る姿に目を細める
もし、と思ってしまう
彼の隣に歩き色々な星を見たり
自由気ままに生きたり
そんな、生き方はどうなのだろうか
未知なことを想像するのは思考の無駄だ
だが思わずにはいられない
ボロスの姿を見るたびに、名無しさんは自分のもう一つの生き方に思いを寄せてしまっていた
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