僕らを結ぶのはたった80円の指輪だ
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ドドン、ドドン
大きな光る花が空に広がる
破裂する音がワンテンポ早く聞こえるのが不思議でしょうがなかった
今、差し出されているものにも、不思議でならなかった
首を傾げ、残り一口の綿あめを口に入れる
甘い空気が口の中へ広がった
「バッド君、それ、なぁに」
「やる」
「なんで?」
2人の間に光るのは、いや、光るように見えただけなのかもしれないが、バッドの手にあるのはプラスチックでできた指輪である
バットは頬を紅潮させそれを見せたくないのか横を向く
「俺が、名無しさんを幸せにしてやる!絶対絶対してやる!これは、約束だ!」
「?」
「・・・・・・いつか、俺とお前が結婚・・・・・・す、る」
恥ずかしさが等々堪えきれなくなったようで、段々声が消えていった
花火の音もあり聞き取れない箇所があったが、それでも大体の内容は名無しさんも分かった
「アッハハ!なにそれー。うん、でも、分かった、約束、バッド君と結婚してあげる」
「ほ、本当か!?」
差し出された指輪を受け取り、左の薬指にはめた
満開のヒマワリのように笑う名無しさんは、花火よりも眩しかった
「じゃあ、バッド君にはこれあげる」
「あ?」
名無しさんが差し出したのは、自分がつけていた光る腕輪である
外して自らバッドへつけてあげた
「約束。絶対、幸せにしてね」
こんな幼い頃の約束なんて、誰が覚えてるだろう
「緊急警報。緊急警報。怪人発生――災害レベル、虎。市民の方は外へ出ず中で待機してください。繰り返します――」
眠くなる、五時間目の授業
けたたましいサイレンの音で目を覚ます生徒は多かっただろう
中には間抜けな声を上げて飛び起きてしまった人もいるくらいだ
「チッ。しゃーねぇな」
クラスで異端を放つ彼は、先生の許可を取らず机に立てかけていたバットを持ち教室から出て行った
教師は何も言わない。何も言えない
教室にいる彼は、バッドという高校生だが、怪人が出たら、s級ヒーロー金属バットである
たかが災害レベル虎
バッドは十五分後に、まるでちょっとトイレにでも戻ってきた風に教室へと帰って来た
「も、もう大丈夫なのかねバッド君」
「あたりめーだろ」
教師はずり落ちたメガネを元に戻し、黒板と対面しながら授業を再開させた
シン、となっていたのは、バッドが教室から出て行って戻ってくるまでの間だけであった
授業が再開した今、教室にヒソヒソ話が膨らむ
「もう少し時間かけてくれてもよかったのにねー」
「どうせだったら早帰りにしてほしかったよな」
でもさすがs級ヒーロー。ちょっと長いトイレの時間程で戻って来た
平和に、過ごしている証拠である
バッドもいつもの高校生に戻り既に寝る体制に入っていた
チラリ、と空いている机を一目見てから眠りに入った
――「助けてほしいときは、どうしたらいいんだろう」
――「助けて、って言えば」
――「でも、誰も助けてくれないかも」
――「俺が、助けてあげるよ」
「……!!」
起きると、既に授業どころかホームルームまで終わっていたらしい
教室には、ポツリとしか人が残っていなかった
頭をボリボリと掻き、やっちまったなーとあくびを交えて呟いた
懐かしい夢を見た
もう十年以上前の夢だ
声を、聡明に思い出すことができない
今の彼女の声は、どんな風だったか
ぼんやりと、夢の出来事を考えながら帰りの道を歩く
幼馴染の彼女は、名無しさんは変わった
家が近いのにも関わらずバッドは名無しさんに暫く会っていない
それはお互いが歳を取ったから
お互いが、違う世界へ踏み出していたから
バッドは金属バットとしてヒーローへ
名無しさんは、
「あ」
家へ入る前に見かけた、明るい茶の髪と極端に短いスカート
シャツは胸が限界まで開け、携帯を見ながら歩いてくる女子高生
ヒーローならまだしも、一般の市民の高校生としては目立ち過ぎている
――今更、なんて声をかけたらいいのだろう
「よぉ」
とは、普通すぎるか
「何してんだ?」
答えてくれるだろうか
「どうしたんだよ」
無視されるだけではないだろうか
結局、声をかけるのが気まずくて今日も黙って家へ入る
名無しさんが変わったのはいつ頃だっただろう
話さなくなったのは中学頃か
高校に入るころには、既にバッドの知る名無しさんではいなかった
どうしてそうなってしまったのか、理由は何だろう
特有の反抗期、というやつか
鬱憤が溜まっていたからか
――親が、離婚してしまったからか
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