恋の芽生えが恨めしい ”ロミオとジュリエット”ウィリアム・シェイクスピアより
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誰にでもスランプというものはあるようで
「うーん……」
それはもちろん誰にでもあることだろう
例え万人に好かれていようと、溢れる才能を持っていようとも
スランプのことを停滞しているだけだ、と
自分に過剰な自信を持っているだけだ、と言う人もいるだろう
だが、アマイマスクは確かにスランプを感じていた
「まぁ、でも、オッケーにしようか」
「……いいや駄目だ監督。もう一度やろう」
「けどねアマイ君もう何度目」
「もう一度だ」
アマイマスクの気迫に監督は押され、カメラを向けざるを得ない
――アマイマスクは最近、演技の仕事にスランプを感じ始めていた
気づいたのは今収録しているドラマ二話目あたりから
唐突に、だっただろうか
主人公になりきれなくなったのは。言葉がうまく脳に入ってこなくなったのは
周りからは「疲れているのよ」と言うだけ
いいや違う。とアマイマスクはハッキリ否定できる
仕事ができないのと、疲れはアマイマスクはイイコールにしていない
忙しくなるようにしているのは自分自身であるから
来るオファーは余程ひどいものでない限り断ることもしていない
自身で選んだ道に、彼は文句を言わなかったのである
毎日毎日、帰りのタクシーで思い悩む
「(クソ……何が悪い……何が……)」
収録しているドラマもそろそろ最終回
大切なシーンを中途半端な演技で終わらせたくなかった
タクシーから降り自宅近くのコンビニへ寄る
満点の星空に感情を抱けなかった
ギリギリまで収録をしたため晩御飯を食べる時間がなかったので、今日はコンビニ食で済ませなくてはならない
さすがアイドル。さすが俳優。しっかりと体にいいものを選択しレジへ向かおうとした
「あっ……」
息のような声
まさか自分にかけられたものだと思わないアマイマスクはまっすぐにレジへ進む
気づいたのは肩を叩かれてからだ
「アマイ君……だよね?」
ファンだろうか
疲れているにも、仕事が上手くいかないストレスにも関わらず彼は優しい笑顔で振り返った
自分を応援してくれているファンは大切に
彼の一つの信条だ
しかし「アマイ君」だなんて、随分慣れ親しんだ呼び方だ
「僕のファンかい?ありがとう」
「えっと……あ」
話しかけてきた彼女は言葉にどもる
アマイマスクはジッと彼女を待ってあげた
「ごめん、覚えてないよね……名無しさんなんだけど」
「名無しさん……?」
名前を反復して呟く
果たして自分と関わりのあった女性の中でいただろうか
女優でもない。スタッフでもない
名無しさん、という名前自体はいても顔が違う
一体誰であったか。一向に思い出せない
「あの、高校の時、演劇部の」
「あ……思い出した。名無しさん。名無しさんか」
「本当?」
やっと思い出された記憶に、爽快を感じ一気に高校生活の思い出が花を咲くようであった
様々な青春の記憶の一部に彼女が確かに存在していた
だが、高校の頃と今の彼女があまり彼の中で一致していなかった
それが中々思い出せない理由の一つでもある
「変わったね。全然気づかなかった」
「そうかな?あー、でも高校の時とは変わったかも」
「コンタクト?」
「うん!」
高校の頃の彼女はメガネであり、髪も腰ほどまで重く伸びていた
だが今の彼女はメガネをかけておらず髪型も肩あたりにしており全体的にさっぱりしたイメージだ
しかしよく見れば高校の頃と変わらない
あの頃言った言葉を思い出す
「本当は君、綺麗だと思うよ」
と
いつも自信なさげに歩く彼女に言ったことであった
あの時言ったことは間違っていなかったのだ。自分の見る目に鼻を高くしてしまう
少しだけ過去話に花を咲かせていたが、もういい時間だ
「今度ゆっくり話そうよ」
「うんそうだね!アマイ君の話いっぱい聞きたい」
「僕も。名無しさんについて聞きたいし、青春時代を思い出したいし」
もうその場で立ち止まり10分は話していたのに二人は1分の時間に感じていた
久々の友人に会うと話が尽きない
「そうかぁ……まだ6年前かぁ……まだ、6年しか経ってないんだ」
「そう?僕はもう6年経つんだって感じ」
「うーん私は毎日がすごくゆっくりに感じる」
「……時というものは、それぞれの人間によって」
「「それぞれの速さで走るものなのだよ」」
息を合わせたかのようなハモリに思わず笑う
懐かしい記憶がまた引っ張りだされた
「シェイクスピア。覚えてたんだ」
名無しさんがクスクス笑う
「もちろん」
高校時代よく読んでいた
彼の名言は自分の家族の名前のように身に染みている
それは名無しさんも同じであった
「じゃあ、また。連絡するよ」
「ありがとう。待ってるねアマイ君」
連絡先を交換して二人は別れた
アマイマスクは家についてからも、頭の中で物語を読むかのように、1ページをゆっくりめくりながら思い出していた
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