ヒーローになりたい。全裸でも許されるような
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ヒーローになりたいと思ったのは小さい頃じゃない
ヒーロー協会が創立してから一年後だった
それまで俺はいたって普通に過ごしてきたし、特に個性があるわけでもなく平々凡々に生活していた
これからもそうやって生きていければよかったのに
「か・・・あさ・・・ん」
血まみれで横たわる母に、どうしたらいいのかわからなかった
叫べばよかった?身体を支えてあげればよかった?
この時ほどヒーローを憎んだことはない
しかし冷静に考えて見ると遅れてやってきたヒーローが悪いのではない
―・・・何もできなかった自分が悪かったのでは
そうだ、そうなんだ。元々俺が強いヒーローだったらこうやって母さんがこうならなかったはず
俺が、強い、ヒーローに
母は死には至らなかったが二度と歩けない姿になってしまった
車椅子で生活するその姿は目に痛い
もう決意は決まっていたんだ
二度と母のような被害をだしてはならない
一応母にそれを言って見たらすごい剣幕で責められた
「何言ってるの!?ヒーローなんていつ死ぬかわからないじゃない!!やめて・・・やめて・・・」
確かに怪人がみんなTVのように最後倒されるわけではない
殉職も珍しい職業ではないのだ、ヒーローとは
それでも守りたい。生まれ育ったこの街を、人を、家族を
一般人だがやってやるんだ
「・・・今日もか」
不合格、と書かれた紙を丸めてゴミ箱へ捨てる
もう何回目の不合格通知だろうか
いつの日にかイケメン仮面というヒーローが言っていた気がする
「ヒーローになる条件?平和を想う気持ちがあれば誰だってなれますよ!まぁ・・・敢えていうなら怪人に立ち向かう勇気と強靭な肉体があればベターです」
と言っていた
あながち間違いではないのだろう
だが考えて見れば俺が落ちることは当たり前なのだ
だって今まで暴力とは無関係の世界に生きてきた
学生時代もヤンチャしてたわけではないし、普通の運動部で何も習い事などしてなかった
だとしたら当然元々ケンカが強い奴や武術を習っていた奴を優先して採用する
もう少し前なら俺でも採用してたと思う
というのもヒーローという職業が話題になったのも最近だったのだ
今更、という言葉がピッタリなのである
ため息をついてベンチに腰掛ける
弱い奴は何もできない
そうだ、それがこの世界の法則ではないか
だから俺がヒーローになれないのは、
ドゴォォン
色々考えていたことが爆発音で我に返った
見てみると約百メートル先で怪人が暴れているではないか
しかし俺には関係ないことだ
あそこに市民はいないし、怪人が破壊しているのは公園の遊具だけだ
みたところ災害レベルもおおよそ狼ぐらいだし、ヒーローもすぐに駆けつけてくれる
だから俺はここで大人しくしておくのが得策だ
でも怖いことは怖いので早くヒーローが来て欲しい
なんだよあのパンチ
あんなの喰らったらひとたまりもない
数ヶ月は入院する
あぁやっぱり俺はヒーローにむいていないのかもしれない
こんな怪人で震えているようじゃ格好いいヒーローになれないな
ブランコの鎖が宙に舞ったところで目を閉じた
「ウ・・・ウワァァァァァァァァァァ!!!」
『グガッ!?』
走り出して、怪人にタックルした
すぐに起き上がる
しかし膝は大笑いをしていて立っているのがやっとだった
あぁ駄目だった。見捨てられなかった。放っておけなかった
だってこの街は、公園は
『何しやがる!!』
「うるせぇ!!テメェ何壊してやがる!!!」
『あーん・・・?ハッこんなのただの遊具だろ』
素人なりのパンチをくらわせる
かわされると思ったが、やはり災害レベルが低いようで見事に素人パンチは怪人の頬に直撃した
「テメェにはわかんねぇだろうな!!ここの公園で小さい頃遊んでもらった遊具が壊される気持ちは!!思い出が壊されてるのと同じなんだよ!!!」
一般市民の俺がいっちょ前に怒鳴りつけるのが気に入らなかったのか、怪人は拳を振り上げてきた
―あ、これは避けられないな
直感でわかった
来る衝撃に耐えるために体全身に力を入れた
が、
「ジャスティスクラッシュ!!」
ガシャンと音が鳴った
見てみるとゴーグルにヘルメットという完全防御な男の人が自転車を投げていた
ヒーロー・・・だろうか
「君!!早く逃げたまえ!!」
『なんだテメー!?』
「ヘブッ」
怪人が軽く腕を払っただけで来てくれたヒーローは吹っ飛んでいった
よわ・・・というのが正直思ったこと
しかし
「グ・・・!!」
『し、しつけーよお前!!』
何度も何度も立ち上がって立ち向かっている
血だらけで、泥だけでも必死で怪人へ怯まず向かい合っている
何で、何で逃げないのだろうあの人は
何で、諦めないのだろう
そして、何で俺はただ突っ立ってるだけなんだ
・・・俺も立ち向かわないと
「オラァ!!こっちも忘れてるんじゃねぇ!!」
『テメェら弱いくによぉぉ・・・!!』
「ゲフッ」
「グッ!!」
結局俺ら弱い二人はボコボコにされ、駆けつけてくれたヒーローに助けられた
災害レベル狼でも一般人が倒せるわけがなかった
病院内で無言で審査を待つ
先に口を開いたのはそっちだった
無免ライダー、というヒーロー名で活躍しているらしい
「さっきは・・・ありがとうね」
「は?」
今なんて言われた?
お礼を言われたのか?
市民がヒーローにお礼を言うのはわかる。というかそれが当たり前だろう
しかしヒーローが市民へお礼を言うことなどあっただろうか
俺は何故お礼を言われているのかわからない
考えても考えてもお礼を言われる筋合いはないはずだ
「いやぁ・・・あの時一緒に立ち向かってくれたじゃないか。あの時君が立ち向かってくれなかったら僕はもっと大怪我をしていたよ。ありがとう」
「・・・っ」
何を言ってるんだ
それはこちらのセリフだろう
あなたが来てくれなかったら俺のほうが大怪我をしていた
あなたは俺たった一人のために諦めず怪人に立ち向かってくれた
その姿は誰しもが憧れるTVのようなヒーローだったさ
俺は、あなたのような
「・・・俺は」
「ん?」
いつのまにか、これまでのことを話していた
母のこと、ヒーローになりたいこと、不合格のこと
雨が降るようにボタボタと本音や決意だったものが口から出る
無免さんは黙って話を聞いてくれてただけだった
すべて話し終わった後に無免さんは一呼吸おいて
「・・・そっか。ごめんね、僕みたいなのがヒーローやってて」
「違うさ。すべては俺が弱いことがいけないんだ」
「そんなことない!」
勢いよく俺のほうへ振り向いた
しかし怪人にやられた傷が痛んだらしく首を押さえていた
しばらく傷をさすってから言う
「君は充分ヒーローになれるさ!!だって・・・君のように、純粋に何かを守りたいっていう動機でヒーローになりたいっていうのは最近じゃ珍しいことだもの」
続けて優しい声で言う
「気軽に言うことではないけど、諦めないでほしい。僕でもヒーローになれたんだからさ。それに僕だって一発合格したわけじゃないよ」
なんと無免さんは俺の落ちた回数の倍だった
その頃は採用範囲は広かったはずなのに、だ
思わず笑ってしまい無免さんに少し拗ねられる
しかしまぁ・・・この人は何て人を励ますことが上手いのだろうか
「ハハッ!・・・ありがとう。俺、まだ諦めないよ。頑張る。ヒーローになってみせる」
「そうだね。待ってるよ!」
やっぱ男同士の約束は指きりげんまんじゃなくてこれだよな
お互い拳を作り、合わせた
無免さん、俺あなたのようなヒーローになってみせますから
これが、俺がヒーローになる一週間前の話だ
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