強い人
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「……」
「……」
互いに無言。
クレープを作っている時は無言になるのは当たり前のことで、特に何も思っていなかったのだが、この無言は嫌な感じだからだ。
威圧がヒシヒシと浴びせられる。
威圧を放っているのは勿論、目の前にいるお客様だ。
失敗したら殺されるのではと思うほど、オーラが凄かった。
帽子を深く被り、パーカーも被って顔を隠しているつもりなのだろう。
今日朝一番に来たお客様が、我らがS級ヒーロー、キング様だ。
すごい、ヒーローってこんなに威厳があるのだなと思う。
アマイマスクさんや、童帝くん、ゾンビマンさんはすごいヒーローだったけれど、物腰柔らかだった。
改めて、ヒーローと一般人は違うのだな。
「おまたせしました」
「ありがとうございます」
うわぁ!喋った!!
いや、ヒーローといえど人間なのだから喋るのは当たり前だろう。
キングがクレープを受け取り、帰っていく。
緊張が解けたせいで、今までため込んでいた汗がドッと出る。
フー。これでこの後誰が来ても緊張せずにクレープを作れるだろう。
そう思っていたのに、
「カラカラカラ!! 俺は辛辛辛辛辛サカナ! スイーツ店は俺が全てぶっ壊す!!」
本日第二のお客様は怪人でした。
今日は占い最下位だっただろうか。それとも、全世界のおみくじの凶を私が背負ってしまったのだろうか。
最悪だ、今まで平和にクレープを作って売って作って売って。
それだけだったのに何故、こんな目に合うのだろうか。
ヒーローは来てくれるだろうか。
「このクレープ屋も潰して、激から唐揚げ屋にしてやるカラ!」
あぁ師匠。せっかくお菓子つくりを教えてもらったのにごめんなさい、ここで終わるみたいです。
ドッドッドッドッドッド
何かが聞こえる。これは、心拍音?
「な、お、お前は!? キング!?」
「……」
ドッドッドッドッドッド
心拍数はでかくなり、ついに目の前で聞こえるようになった。
キングが、目の前にいる。
もしかして、助けに来てくれた?
「……(どどどどどどうしよう。スプーンが無かったから戻っただけなのに、怪人がいるなんて。話題のクレープが食べたかっただけなのに。どうしてこんなのばっか)」
ドッドッドッドッドッド
キングエンジンは段々勢いを増していく。
私は先ほどの恐怖も消え失せ、安堵の息が漏れる。
良かった、最強と言われるキングならばこの状況はどうにかできるだろう。
でも、クレープ食べる場所で血塗れになるのは嫌だな。
そうだ、私なりにあの怪人を去ってもらうようにしよう。
「クッ……お、俺はただ、甘い物が妬ましくて、この世から消えて欲しかっただけで……」
「だからどうした?(やばいやばいやばい。キングエンジンが効かないタイプの怪人なのかな。誰か誰か誰か助けてぇぇぇ)」
「あの!」
2人がにらみ合いをしている中、割って入る。
怪人がこちらを攻撃してきても、キングが守ってくれるという安心感だからこそできた事だ。
先ほど作ったクレープを、怪人に渡す。
「貴方がどうしてスイーツを憎むのかは分かりませんが…。でも私のクレープを食べてみてください」
「は…はぁ!? 俺が甘い物なんて食べるわけ」
「お嫌いですか?」
ベチャっという音が聞こえた。
キングの方を見ると、彼はクレープを落としてしまっていた。
どうして落としてしまったのだろう、手が滑ってしまったのか?
「キングゥ! お前、勿体ない事してんじゃねぇよ!!」
「……(き、緊張して落っことしちゃっただけなのに)」
「あぁクソ!! そのクレープも粗末にするわけにはいかねぇ!!」
そう言うと、怪人は私の手からクレープを奪い取り貪った。
怪人の目には涙が溢れている。
「うめぇ…うめぇ……クレープってこんなに美味いんだな」
怪人はクレープを食べ終えると、私とキングに向かって頭を下げた。
「お嬢さん、キングさん! 申し訳ございません!! 俺、俺……今度からきちんと生きます。本当は俺、スイーツが好きだったんだ……」
「いや、いいんですよ。……また、今度はお客様として来てくださいね」
怪人はお礼を言いながら公園から去っていった。
そして私はキングの方に向き、頭を下げた。
「キングさん! 助けてくれてありがとうございました」
「……当たり前の事をしただけだ(俺立ってただけだし…)」
流石ヒーローだ。
キングは最強なだけでなく、精神までもヒーローだ。
「クレープ作り直しますね」
「あぁ。落としてすまない(あぁ、食べ物を無駄にしてしまった。バチが当たりそう……お姉さんもクレープせっかく作ってくれたのにごめんなさい)」
「命の恩人ですし、クレープはサービスさせてください。あと、お好きなだけトッピングや飲み物もどうぞ!」
「……(そ、そんな大層な事してないのに。ただ漫画を買ってついでにクレープを食べようとしただけなのに)」
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