ゴミ拾いをしてくれたあの人
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やっと念願のお店を持つことができた。
専門でお菓子作りを学び、お菓子屋さんでアルバイトをし、ホテルで修行をして、やっと夢が叶った。
……お店といっても、キッチンカーだけれども。
それでも、私のお店だ。私だけのお城だ。
これから、この小さなお城でクレープを通じて人を笑顔にする。
そんな夢を抱いていた。
A市のとある公園で販売を始めたおかげで、黒字を維持していた。
中でも黒字に貢献してくれた、面白かったお客さんについて話していこうと思う。
それはキッチンカーを始めたての頃だ。
まだ何も分からない時、ゴミを捨てる袋を設置していたにも関わらず、その辺にポイ捨てが頻発していた。
なので仕方なく、営業終わりにゴミ拾いをしていた。
ある日のことだった。私以外にゴミ拾いをしてくれている人がいた。
私が出したゴミなのに、と思い、その人に駆け寄り声をかけた。
「あの、ありがとうございます!」
そう言うと、彼はゴミを拾う手を止めた。
こちらを振り返らず、彼は喋る。
「いえ、好きでやっていることなんで」
どうしてこちらを向かないのだろう。
せっかくならば、目を合わせてきちんとお礼を言いたかったものだが。
彼はまたゴミを拾う手を動かす。
なんていい人なのだろう。ボランティアを自ら行い、それを自慢することもなく、謙虚に生きているのだろうか。
そんな彼がかっこよく見える。
私は、キッチンカーに戻りコーヒーを淹れた。
そして彼の元に持っていく。
「良かったら、どうぞ」
「……なに?」
「少しばかりのお礼です」
コーヒーを差し出す。
それでも彼はこちらを振り向いてくれなかった。
もしかして、コーヒーが嫌いだっただろうか。
「今からそちらに顔を向けるけど、僕の顔を見てコーヒーを落とさないでね」
「え? わ、分かりました」
どういうことだろう?
顔を見られたくないのだろうか。先ほどもこちらを振り向いてくれなかったのはそれが原因だろうか。
もしかして、顔にコンプレックスを抱いているのだろうか。醜形恐怖症?
そうだとしても、私は、
「……何してるの?」
コーヒーを持っていた手が軽くなる。もしかして、受け取ってくれたのだろうか。
今の私は感覚だけしか分からない。
目をギュッと瞑り、首を捻れるだけ捻った。
できる限り、視界を真っ暗にする。
「あ、いや、顔を見られたくないのかと思って。違ったら大変申し訳ないです」
「……」
少しの間、静寂が流れる。
もういいだろうか?
そのまま私は体も捻り後ろを向いた。
キッチンカーに戻り、私もゴミ拾いをしよう。
歩き出した時、彼が引き留める。
「待って」
「はい! 何でしょうか」
私は後ろを向いたまま答えた。
「君、名前は?」
「名無しさんです」
「そう。名無しさん、ありがとう」
「いえ、お礼を言うのは私の方ですよ」
キッチンカーに戻り、袋とゴミ拾い用のトングを持ち公園へ行った。
先ほどの彼はいなくなっていた。この短い間にどこへ行ったのだろうか。
まぁいい。今度またボランティアをしていたら声をかけよう。
私はほぼ綺麗になった公園を完璧に綺麗にして、今日の仕事を終わりにした。
それから、暫く経ってのこと。
何故か私のクレープ屋はテレビに取り上げられた。
しかも食レポするのは今話題のアマイマスクだ。
何故、どうして、こんなことに。
初めてのテレビ出演に、手を震えながらクレープを作る。
何とか踏ん張り、できたクレープをアマイマスクさんに手渡す。
「ありがとう、名無しさん」
「え? なんで名前」
いきなりの名前呼びに驚く。
あぁ、そういえば名札をつけていたからか。
しかもわざわざお礼を言うなんて。人気アイドルは、こういう所もあるからファンが多いのか。納得だ。
アマイマスクさんはクレープを受け取ってもその場から動かず、食べようともしない。
な、何か粗相が!?
アマイマスクさんは私の目をジッと見つめる。
何だろうか。
「やっと、顔を合わせてお礼が言えた」
「??」
ボソッと言う。
何のことだろうか。聞こうと思ったが、アマイマスクさんはカメラの方を向いてしまう。
結局、アマイマスクさんの言葉の意味を理解せずに、テレビは終わってしまった。
こうして、突如のテレビ出演&アマイマスクの絶賛のおかげで私のクレープ屋さんは繁盛したのであった。
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