番外編
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※ただ単純に皇鬼とガロウの話が書きたかっただけ
※時間軸は不明。お好きな所にねじ込んでください
「ンにやってんだよ、名無しさん」
血だまりに立つ名無しさんへ、ガロウは話しかけた。
名無しさん、呼ばれたから振り向いたわけではない。ただ、話しかけられたから振り向いただけだ。
振り返り、ガロウを見た。
ガロウは名無しさんの正面を見て驚いた。
頬や服が血だらけだからではない。額に生える長い角と、紅い瞳だからだ。
紅い月を見た時のような、幻想的な物を見た時のようなゾクゾクを背中に伝わる。
「ほう、お主。中々やるの」
「誰だテメェ」
名無しさんではない。ガロウは分かっていた。
この雰囲気、喋り方、歩き方、立ち方、腕の動かし方。
全てが名無しさんそのものだ。しかし、名無しさんではない。
具体的にどこが違うか、額の角と紅い瞳以外に違う箇所は、言葉にするのが難しい。
しかし、名無しさんを昔から知っていて、憧れていた名無しさんはこんなのではないと分かっていた。
名無しさんでないなら、容赦はいらない。
ガロウは構える。
すると名無しさんの口が三日月となった。
「ハハ! やる気があるのは良いことじゃ」
ガロウが手刀を繰り出す。それを名無しさんは軽やかに避ける。
しかしそれは想定済みだ。手刀と反対の脚で横蹴りを繰り出す。
名無しさんの頭に綺麗に当たった。
ヨシ! 決まった! ガロウは勝利の笑みを口に出そうとした。
しかし、脚を下ろそうとしても動かせない。
それどころか、脚に圧迫した痛みがあることに気づいた。
「良い蹴りじゃ。久々に強い奴に出会ったぞ」
──折れる!
脚の痛みを気にせず、上半身を腹筋だけで上げる。
もう片方の脚を上げるだけ上げて、名無しさんの頭目掛けて踵を落とした。
ガロウの踵と空気が圧縮され、煙が出るほどの威力。
流石の名無しさんも、防げないと判断したのかガロウの脚を離した。
目標が消えた踵は地面を割り、ヒビを発生させた。
それと同時にガロウが前方へ吹っ飛んでいった。
体がボールのようにバウンドし、冷静に判断して足を地へとつける。
「(何が起きた……!?)」
ドロリ、と鼻から重い血が出る。
忘れていたように感覚が思い出される。左頬が痛い。
見れば名無しさんがこちらに走ってきているではないか。
距離をもっと取らなければ!
そう思っているのに、名無しさんはもう目の前にいた。紅い双眸が目の前にある。
そして、手刀。
ガロウは間一髪で避けることができた。
心臓がバクバク鳴っている。これは、高揚だろうか、それとも畏怖だろうか。
もう一度ガロウは構える。
──流水岩砕拳
流れるような動きと、岩をも砕く攻撃。
一般のヒーローが喰らえば、死んでも可笑しくないだろう。
退院ができないほど、体中の骨が粉砕する。
しかし、その手に当たるのは空気のみ。
「クソッ!!!!」
ガロウの叫びが、静かな街に響き渡った。
声の反響が残っているうちにガロウは口から血を吐き出す。
名無しさんの肘がガロウのお腹に入ったからだ。
その隙に、名無しさんはガロウの見たことのある、喰らったこともある攻撃を食らい続けた。
血が飛び散る。馬鹿な、この技は、何故。
──どうしてお前が流水岩砕拳を使える!?
「ッざけんなっ!!!」
流水岩砕拳はよく知っている。だからこそ、攻撃の隙も分かる。
ガロウは隙をついて、拳を名無しさんの顎へと振り上げた。
その攻撃はヒットする。
名無しさんは後ろへ飛んだが、すぐに立ち上がった。
笑っていた。名無しさんは目を細めて笑っている。
息が荒い。様々なことがガロウの脳内に駆け巡るからだ。
脳に酸素がもっと必要だ。
そして、やっと喋れる。
「なんでテメェが流水岩砕拳使えんだ?」
「フム。何でじゃろうな」
当の本人も分かっていないようだった。
その証拠に、名無しさんは自分の手を見て、指を開いたり閉じたりしている。
「この身体のおかげかのぉ」
ザワリ、とガロウの全身の毛が逆立った。
今まで武術しかやってこなかったので、勉学は足りていない。
しかしそんな賢くない頭でも、今の発言で名無しさんのことが分かる。
何者かに乗っ取られている。
ガロウは親指で鼻を擦った。血を出すため。
そしてもう一度構える。
「テメェが何者か知らねーけど、その身体は返してもらうぜ」
「ヨシヨシ、元気があるようで何よりじゃ」
ガロウの攻撃は中々当たらない。
何度拳を出しても、何度脚を振っても当たらなかった。
名無しさんが楽しそうに、愉快に笑っている。
その笑顔が、名無しさんのものではないことに頭に血がのぼる。
それがいけなかった。それがガロウの弱点だった。
3手先を読んでいたのは名無しさんだった。
次のガロウの動きを予測し、ただそこに拳を置くだけ。
それだけで、ガロウは自ら殴られにいった。
名無しさんは首を傾げる。
「お主……どうして手を抜く?」
「あ?」
何を言っているのだコイツは。
俺が手を抜いてる? そんな訳ない。
ヒーロー狩りと同じように力を込め、踏ん張りで血管が破れそうになっているのに。
「どうして躊躇う? お主はもっと強いはずじゃ」
「なに言ってんだ」
名無しさんは考えて、考えて、考えて。
どうして目の前の人間が、自分相手に手を抜くのか。
この人間の本気が見たいのに。
……あぁそうか。コイツもアイツらと一緒なのか。と名無しさんは結論を出した。
「分かったぞ。この身体を傷つけたくないんじゃな?」
「はぁ!?」
「だから本気が出せんのか」
「……さっきから何を、」
「なら、先に傷つけといてやる」
そう言うと名無しさんの爪が、伸びていく。その先は尖っており、針のよう。
伸びた爪を自分の首元に当てた。そのまま横へ滑らせた。
尖った爪は簡単に名無しさんの薄い首の皮膚を切った。
名無しさんの首の真ん中から赤い糸ができ、その糸から薔薇の花びらが出てくるように血が流れ始めていた。
「これで、……!」
ガロウの理性が完全に切れた。今のガロウに言葉は何も伝わらない。
怒りに浸食された獣だ。周りは何も見えない。
ただひたすらに暴れ、生き物を殺すために動く。
しかしその攻撃は当たらない。
名無しさんは笑っている。ガロウの攻撃を見ながら、とても嬉しそうに笑っていた。
「ハハハハ! そうじゃそうじゃ! やっと本気を出してくれたな!」
名無しさんが手を伸ばし、ガロウの顔へ爪を引っ掻く。
ガロウはすんでの所で避けたが、爪は振り下ろされたため、ガロウの胸に三本の傷をつける。
痛みがあるはずだ。でもガロウは動く。相手の命を奪うために。
その身体で悪になるんじゃない。その声で遊ぶんじゃない。
その姿は憧れていた、目指していた、かっこいいと思っていた、幼馴染のアイツじゃない。
それは、ヒーローの姿なんかじゃない!
「グッ……!!」
立っていたのは名無しさんだ。ガロウは膝を地面についている。
片目が見えない。息をするだけで全身が痛い。指が曲がらない。
名無しさんを見上げる。その顔は、つまらなそうな顔をしていた。
まるで、失望したような呆れた顔だ。
強い。ガロウの脳は今それだけしか考えられない。
ちくしょうちくしょうちくしょう!!
こっちが一生懸命なのに何て顔してやがる。
名無しさんはそんな顔しない! 俺にそんな失望なんかするわけない!!
目の前にいるのは名無しさんではない! でも、でも……。
名無しさんの皮を被っている化け物なのに、どうして、何で、
攻撃が当たらなければいい、と願ってしまうのか。
「何じゃ、期待していたのにつまらん奴じゃな」
そんな言葉も、今のガロウには聞こえていない。
頭の中は昔の名無しさんとの記憶。
手を引っ張って、繋いで、遊んで、笑って。
楽しかったあの頃の名無しさんはどこにもいない。
名無しさんがいないなら、この世界に未練などない。
まぁいいか。お前に殺されるなら。
怪人の俺は、ヒーローのお前に倒される。
そういう運命だ。そういう物語で終わるなら、それでいい。
「……せめて、ヒーローの名無しさんに殺されたかった」
ガロウは目を瞑った。
瞼の裏に、子供の頃の記憶を映す。
これでいい。悪者の最期が綺麗なもののわけない。
こうやって、最悪なものではなければ。
※時間軸は不明。お好きな所にねじ込んでください
「ンにやってんだよ、名無しさん」
血だまりに立つ名無しさんへ、ガロウは話しかけた。
名無しさん、呼ばれたから振り向いたわけではない。ただ、話しかけられたから振り向いただけだ。
振り返り、ガロウを見た。
ガロウは名無しさんの正面を見て驚いた。
頬や服が血だらけだからではない。額に生える長い角と、紅い瞳だからだ。
紅い月を見た時のような、幻想的な物を見た時のようなゾクゾクを背中に伝わる。
「ほう、お主。中々やるの」
「誰だテメェ」
名無しさんではない。ガロウは分かっていた。
この雰囲気、喋り方、歩き方、立ち方、腕の動かし方。
全てが名無しさんそのものだ。しかし、名無しさんではない。
具体的にどこが違うか、額の角と紅い瞳以外に違う箇所は、言葉にするのが難しい。
しかし、名無しさんを昔から知っていて、憧れていた名無しさんはこんなのではないと分かっていた。
名無しさんでないなら、容赦はいらない。
ガロウは構える。
すると名無しさんの口が三日月となった。
「ハハ! やる気があるのは良いことじゃ」
ガロウが手刀を繰り出す。それを名無しさんは軽やかに避ける。
しかしそれは想定済みだ。手刀と反対の脚で横蹴りを繰り出す。
名無しさんの頭に綺麗に当たった。
ヨシ! 決まった! ガロウは勝利の笑みを口に出そうとした。
しかし、脚を下ろそうとしても動かせない。
それどころか、脚に圧迫した痛みがあることに気づいた。
「良い蹴りじゃ。久々に強い奴に出会ったぞ」
──折れる!
脚の痛みを気にせず、上半身を腹筋だけで上げる。
もう片方の脚を上げるだけ上げて、名無しさんの頭目掛けて踵を落とした。
ガロウの踵と空気が圧縮され、煙が出るほどの威力。
流石の名無しさんも、防げないと判断したのかガロウの脚を離した。
目標が消えた踵は地面を割り、ヒビを発生させた。
それと同時にガロウが前方へ吹っ飛んでいった。
体がボールのようにバウンドし、冷静に判断して足を地へとつける。
「(何が起きた……!?)」
ドロリ、と鼻から重い血が出る。
忘れていたように感覚が思い出される。左頬が痛い。
見れば名無しさんがこちらに走ってきているではないか。
距離をもっと取らなければ!
そう思っているのに、名無しさんはもう目の前にいた。紅い双眸が目の前にある。
そして、手刀。
ガロウは間一髪で避けることができた。
心臓がバクバク鳴っている。これは、高揚だろうか、それとも畏怖だろうか。
もう一度ガロウは構える。
──流水岩砕拳
流れるような動きと、岩をも砕く攻撃。
一般のヒーローが喰らえば、死んでも可笑しくないだろう。
退院ができないほど、体中の骨が粉砕する。
しかし、その手に当たるのは空気のみ。
「クソッ!!!!」
ガロウの叫びが、静かな街に響き渡った。
声の反響が残っているうちにガロウは口から血を吐き出す。
名無しさんの肘がガロウのお腹に入ったからだ。
その隙に、名無しさんはガロウの見たことのある、喰らったこともある攻撃を食らい続けた。
血が飛び散る。馬鹿な、この技は、何故。
──どうしてお前が流水岩砕拳を使える!?
「ッざけんなっ!!!」
流水岩砕拳はよく知っている。だからこそ、攻撃の隙も分かる。
ガロウは隙をついて、拳を名無しさんの顎へと振り上げた。
その攻撃はヒットする。
名無しさんは後ろへ飛んだが、すぐに立ち上がった。
笑っていた。名無しさんは目を細めて笑っている。
息が荒い。様々なことがガロウの脳内に駆け巡るからだ。
脳に酸素がもっと必要だ。
そして、やっと喋れる。
「なんでテメェが流水岩砕拳使えんだ?」
「フム。何でじゃろうな」
当の本人も分かっていないようだった。
その証拠に、名無しさんは自分の手を見て、指を開いたり閉じたりしている。
「この身体のおかげかのぉ」
ザワリ、とガロウの全身の毛が逆立った。
今まで武術しかやってこなかったので、勉学は足りていない。
しかしそんな賢くない頭でも、今の発言で名無しさんのことが分かる。
何者かに乗っ取られている。
ガロウは親指で鼻を擦った。血を出すため。
そしてもう一度構える。
「テメェが何者か知らねーけど、その身体は返してもらうぜ」
「ヨシヨシ、元気があるようで何よりじゃ」
ガロウの攻撃は中々当たらない。
何度拳を出しても、何度脚を振っても当たらなかった。
名無しさんが楽しそうに、愉快に笑っている。
その笑顔が、名無しさんのものではないことに頭に血がのぼる。
それがいけなかった。それがガロウの弱点だった。
3手先を読んでいたのは名無しさんだった。
次のガロウの動きを予測し、ただそこに拳を置くだけ。
それだけで、ガロウは自ら殴られにいった。
名無しさんは首を傾げる。
「お主……どうして手を抜く?」
「あ?」
何を言っているのだコイツは。
俺が手を抜いてる? そんな訳ない。
ヒーロー狩りと同じように力を込め、踏ん張りで血管が破れそうになっているのに。
「どうして躊躇う? お主はもっと強いはずじゃ」
「なに言ってんだ」
名無しさんは考えて、考えて、考えて。
どうして目の前の人間が、自分相手に手を抜くのか。
この人間の本気が見たいのに。
……あぁそうか。コイツもアイツらと一緒なのか。と名無しさんは結論を出した。
「分かったぞ。この身体を傷つけたくないんじゃな?」
「はぁ!?」
「だから本気が出せんのか」
「……さっきから何を、」
「なら、先に傷つけといてやる」
そう言うと名無しさんの爪が、伸びていく。その先は尖っており、針のよう。
伸びた爪を自分の首元に当てた。そのまま横へ滑らせた。
尖った爪は簡単に名無しさんの薄い首の皮膚を切った。
名無しさんの首の真ん中から赤い糸ができ、その糸から薔薇の花びらが出てくるように血が流れ始めていた。
「これで、……!」
ガロウの理性が完全に切れた。今のガロウに言葉は何も伝わらない。
怒りに浸食された獣だ。周りは何も見えない。
ただひたすらに暴れ、生き物を殺すために動く。
しかしその攻撃は当たらない。
名無しさんは笑っている。ガロウの攻撃を見ながら、とても嬉しそうに笑っていた。
「ハハハハ! そうじゃそうじゃ! やっと本気を出してくれたな!」
名無しさんが手を伸ばし、ガロウの顔へ爪を引っ掻く。
ガロウはすんでの所で避けたが、爪は振り下ろされたため、ガロウの胸に三本の傷をつける。
痛みがあるはずだ。でもガロウは動く。相手の命を奪うために。
その身体で悪になるんじゃない。その声で遊ぶんじゃない。
その姿は憧れていた、目指していた、かっこいいと思っていた、幼馴染のアイツじゃない。
それは、ヒーローの姿なんかじゃない!
「グッ……!!」
立っていたのは名無しさんだ。ガロウは膝を地面についている。
片目が見えない。息をするだけで全身が痛い。指が曲がらない。
名無しさんを見上げる。その顔は、つまらなそうな顔をしていた。
まるで、失望したような呆れた顔だ。
強い。ガロウの脳は今それだけしか考えられない。
ちくしょうちくしょうちくしょう!!
こっちが一生懸命なのに何て顔してやがる。
名無しさんはそんな顔しない! 俺にそんな失望なんかするわけない!!
目の前にいるのは名無しさんではない! でも、でも……。
名無しさんの皮を被っている化け物なのに、どうして、何で、
攻撃が当たらなければいい、と願ってしまうのか。
「何じゃ、期待していたのにつまらん奴じゃな」
そんな言葉も、今のガロウには聞こえていない。
頭の中は昔の名無しさんとの記憶。
手を引っ張って、繋いで、遊んで、笑って。
楽しかったあの頃の名無しさんはどこにもいない。
名無しさんがいないなら、この世界に未練などない。
まぁいいか。お前に殺されるなら。
怪人の俺は、ヒーローのお前に倒される。
そういう運命だ。そういう物語で終わるなら、それでいい。
「……せめて、ヒーローの名無しさんに殺されたかった」
ガロウは目を瞑った。
瞼の裏に、子供の頃の記憶を映す。
これでいい。悪者の最期が綺麗なもののわけない。
こうやって、最悪なものではなければ。
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