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※完全オリキャラ話夢要素一切無し
※自己満足小説
※なるべく昔の言葉を意識してますが、読みづらいとかありましたらコメントください。要望が多かったら読みやすいように現代の言葉に書き直します。
※痛いシーン(拷問みたいな)が度々あるのでご注意ください。
──憎い。憎い憎い憎い
何故、こんな目に合わなければならないのか
彼は毎日毎日、黒いマグマのような怒りに燃えていた
彼は、産まれた時から鬼であった
物心ついた頃には、ここが地下深くで自分たちが他の者と違うことに気づき、こんな目に合っているのかと理解ができた
理解ができた……するしかなかった
自分を産んだ母は人間に目の前で殺された
口々に周りは言う
「災いの鬼!生かしてはおけぬ!!」
自分たちが何をしたと言うのだ!
彼──後に皇鬼と呼ばれる──は常々そう思っていた
こんな所へ幽閉され、身動きも取れないように硬く縛られ、食べるものはロクなものを与えられず弱りきった自分に何ができよう!
母は殺されたが、まだ幼かった彼が生きていたのは1人の占い師によってだった
「そいつは殺してはいかぬ。殺せば田は乾き富は消えうせ我々は飢餓で苦しむであろう」
未来が見えると言っていた占い師の言葉を人々は信じた
それからというもの、彼は生かされながら死んでいる生活となった
身体には、生傷が絶えず。爪もなく、常に空腹でいた。
人間たちに痛めつけられ、爪を剥がれ、食事は与えられず。
最初は憎しみの方が大きかった。だがその憎しみの炎は、衰弱するにつれ弱くなっていく。
いっそ、殺してくれればいいのに。
段々と意識が遠のく。思うように体が動かせない。
だが、ある日の一つのきっかけで幼い鬼は希望の星を見る。
「大丈夫?」
皇鬼は乾いた目を開け、話しかけてきた人物を見た。
まだ、自分と同じぐらいの子供だ。
あぁ、また虐げられるのだろうな、とまた瞼を閉じ、弱弱しく覚悟の拳を握る。
暫く経っても痛みが来ないので、また目を開けた。
すると、皇鬼の目の前には見たことない物が置かれている。
「食べて」
首を傾げる。
これは、食べ物なのか。
それか、新たな拷問だろうか? 過去に松明を口に突っ込まれた事があった。
皇鬼は、その食事に手を付けようとしない。
それを見て、子供は食事を一口食べる。
ニコッと笑う。まるでその食事が安全な事を示すように。
皇鬼は震える手でその食べ物を口に入れる。
美味しい。
生きるのに必要な身体の水分はギリギリなのに、涙が出てしまう。
手で掴める限り、食事を持ち口へと運ぶ。
生きてきて、初めてこんなにおいしい食事をした。
チラリと子供も見る。子供は微笑んでいた。
「ごめんね、これしか持ってこられなくて」
眉を下げた子供は、悲しそうな顔だ。
向けられた事のない視線に、皇鬼は戸惑う。
どうしてそんな顔をするのだろう。
初めての人間の表情に、思わず見つめてしまう。
「そろそろ行くね」
行ってしまった。
特に虐げられる事もなく、食事を与えられただけだ。
これがどういう事なのか、人間を憎い感情でしか見ていなかった皇鬼には分からない。
眠くなり、寝っ転がる。
この日は、母と一緒に寝ているかのように心地よく眠れた。
次の日。
また子供が来た。
今度は食事を持ってきてくれるだけでなく、何かも持ってきた。
皇鬼は食事にがっつく。また、今日も食事を与えられるなんて幸運だ。
子供は皇鬼が食べ終えたのを見ると、手を差し出してくる。
「……?」
「手出して」
子供が、何を考えているのか分からない。
今度こそ殴られるのだろうか。
おそるおそる手を差し出すと、何かを置かれた。
小さい石みたいなものが二つ。
これは、なんだろう?
「大人に見つからないようにね」
頷く。
これは、大人に見つかってはいけないものなのだろう。しかし、なぜ見つかってはいけないのか?
「汝(ナ)の怪我が早く治りますようにっていう願いを込めて作ったんだ」
その言葉に皇鬼は母を思い出した。
心配され、安堵を与えてくれ、温もりを与えてくれた母を。
そして同時に、人間への憎しみの炎も燃えついた。
この子供は何を言っているのだろう。お前も、母を殺した人間ではないか。
だけど──、この石は取っておこう。
この子供に何かをされそうになったら、この石を弱みにしておけばいい。
皇鬼はそっと、二つの石をボロボロになった帯に隠した。
「じゃあまた明日」
子供は、次の日も次の日も皇鬼の元へ来た。
食事を与えてくれ、物をくれ、歌を教えてくれ、世界を教えてくれた。
「これはね、イノシシの肉だよ」
「あげたのはね、耳環って言うんだよ。耳につけるの」
「この花は、……吾(ア)も分かんないや」
いつの日か、皇鬼はこの子供が来るのが楽しみになっていた。
共に歌い、笑うのがこんなに楽しい事とは。
皇鬼は自分が分からない感情が生まている。この感情は何というのだろう。
子供に聞いてみる。お前と一緒にいると、落ち着くし、心臓がくすぐったくなることを。
「えー、何だろう? 嬉しい、楽しい、喜び?」
子供にも分からない事だったか。
話を変えて、子供は自身の事を話してくれた。
「本当は汝を助けてあげたいんだけど……ごめんね」
首を横に振る。
この子供といて、分かったことがある。
人間には二種類ある。
憎い者と、憎くない者。
この世で憎くない者は母とこの子供だった。
子供が帰って行ってしまうのが寂しい。
同時に、この子供が会いに来てくれるならどれだけ血を流しても、痛くても、怖くても、耐えられる。
早く、あの子供に会いたいな。
その日、夢を見た。
自分は解放され、あの子供が隣にいる。
手を繋いで、星空を眺める夢。
皇鬼は知らない。次の日にその夢の一部が、叶う事になる事を。
次の日
また子供が来た。
しかし子供はいつもと表情が違う。見たことのない顔だ。
それは皇鬼でも、良くない表情なのが分かった。
子供は、斧を持ち皇鬼を閉じ込めている木を切った。
皇鬼は驚く。なぜそんな事をするのか。
そして、皇鬼の手を取った。
「逃げよう! 早く!!」
久々に血の温もりを感じた皇鬼は喜んだ。
しかし、子供はそんな皇鬼に寄り添う事もなく走り始める。
虐げ続けられた皇鬼の身体はボロボロだ。当然、動かすだけで痛い。
それでも、必死な子供に付いて行く。
久々に、外に出た。星空がとても綺麗だ。
あぁ、あの夢が現実になったのだ。
「ハァ……ハァ……あそこの森に隠れよう」
手を繋ぎ、星を眺めるだけでなく一緒にいれるだなんて!
皇鬼は歌う。嬉しい時は歌うのだと子供に教わったからだ。
子供はそんな皇鬼を見て、安堵した顔で見ていた。
皇鬼の歌が、大人の怒声にかき消される。
「あの鬼はどこだ!!」
「殺せ!! 殺せ!!」
「占い師は死んだ! あの占いもまやかしだ!!」
怒号は、自分へと発せられている。
自分は殺されるのだろうか?
だから、この子供は自分を助けてくれたのか?
「まだ走れる!?」
小さく頷いた。
正直、体力も怪我も限界だったが、子供が言うなら、それを聞いてあげたい。
もう一度手を握り、走る。
暫く走ったところで、皇鬼の身体が限界を迎えた。
脚が動かず、転んでししまう。
口に土が入った。感じた事のある味だ。
「大丈夫!?」
皇鬼は返事をできない。
呼吸をするので精一杯だったからだ。
脚が震えている。立つ事ができない。
子供は、皇鬼に肩を貸し座らせた。
震えている脚を見て、これ以上は走る事ができないと判断した。
どうすればいいのだろうか。このままでは、この小さな鬼が殺されてしまう。
子供は一呼吸をし、覚悟を決めた。
「あのさ、耳環持ってる? 貸して」
皇鬼はあの日、子供から貰った石を渡す。
これをどうするのだろうか。
「痛いけど、我慢してね」
子供はその辺にあった尖った石を皇鬼の耳に近づける。
そして、耳に痛み。なぜ、どうして、お前も憎い者の方だったのか。
皇鬼が子供に憎しみを向けたのは一瞬だった。
耳に、貰った石がついている。
石は、こうする物だったのか。
「ここでお別れだね」
子供が言う。皇鬼は目を見開いた。
別れ? どうして?
いつもみたいに、またね。ではないのか。
別れは嫌だ。人間と一緒にいる楽しさを教えてくれたのに。
また、独りになるのか。嫌だ。
子供の布を握る。行くな。という意志が込められている。
子供はその皇鬼の手を優しく握る。
「大丈夫。また会えるよ」
"また"という言葉。
これは次の日に子供に会えるという言葉だ。
皇鬼は手を離す。
「生きてね」
皇鬼は待った。
あの子供が来てくれる事を。
次の日になると脚の震えが止まっていた。
歩けるようになっても皇鬼はその場から動かなかった。
子供が来てくれる事を祈って、待った。
しかし、月が三度巡っても子供が来てくれない。
ある日、木の実を食べようと木に登っていた。
そして、人間の話声が聞こえてくる。
皇鬼はそのまま木に登ったまま、葉がたくさん生い茂る枝に隠れる。
見つかるとまずいからだ。
人間は何かを抱えている。あれは何だろう?
そして、その持っていた物を投げ捨てる。
"それ"は物ではない。──子供だ。
皇鬼の鼓動が早まる。目の前に映る光景が心臓を突き刺すのだ。
「ちっ この子供、最後まで喋らなかったな」
「にしても、ちょっとやり過ぎたか?」
人間が帰っていく。
完全に姿が見えなくなると、皇鬼は木から飛び降り子供に駆け寄る。
子供の顔は、腫れあがりあの優しい顔とは似ても似つかない。
声をかけるが、返答はない。指が痙攣している。
皇鬼は言葉を失った。あるはずの五本指が、五本ではない。
よく顔を見れば、片目が真っ黒だ。まるで、目玉がないように。
子供を持ち上げ、抱えたまま走った。
目には涙が次から次へと流れてくる。
これは、自分が受けてきた傷ではないか。
何故、どうして、
そして村から大分離れた、大きな木の元で子供を下した。
手にはべっとりと血が付いている。自分の血ではない。子供の血だ。
どこを触っても、手に血がつく。
子供が口を動かした。
何かを喋ろうとしている。
「……て……よ」
よく聞こえない。
「食べて、いい、よ」
皇鬼は首を振る。
嫌だ、いなくならないで、一緒にいて。
そう思っているのに、鉄の匂いに涎を垂らしているのに気付いた。
──人間を食べろ。それが鬼だ。
母に言われた言葉。
鬼は、人間を食べる事で強くなり、大きくなり、治癒能力が高まる。
だからこそ、鬼は人間を食べ続けた。
それは本能に刻まれ、止められない衝動だった。
子供は、鬼が人間を食べる事を知っていたのだろうか。
ならば、なぜ、助けてくれていたのか。
子供は、震える手を皇鬼の口につける。
「生き……て」
それが、最後に聞いた子供の声だった。
そして、木々が揺れる。人間よりも、動物よりも強い、強い、咆哮によって。
その咆哮は、村までも聞こえた。
村の人々は槍や弓を持ち、咆哮の元を辿る。
そして、見たのは
「ヒッ……!」
恐怖の声。
鬼はゆっくりとそっちを向く。
紅い瞳と、血だらけの口元に、人間は後ずさりをしてしまう。
槍を強く握り、刃を鬼へ向けた。
その瞬間には、もう人間は息をしていない。
心臓が貫かれている。
悲鳴が森を包んだ。
月明かりが照らすのは、複数の死体と、紅い鬼。
白かった鬼の姿は、血によって赤くなっていたのだ。
人間がいなくなった皇鬼は、死体を齧る。
──憎い。憎い!憎い!憎い!!!!
人間が憎い!!
どうして、人間は大切な物を奪うのか。
強くなろう。そして、人間へ復讐しよう。
人間は、生きていてはいけない種族だ。
強くなり、生きていこう。
それが、あの子供との約束だ。
数年後。
一つの村が滅んだ。
その村は何もかも燃やされ、歴史に名を残す事はない。
※自己満足小説
※なるべく昔の言葉を意識してますが、読みづらいとかありましたらコメントください。要望が多かったら読みやすいように現代の言葉に書き直します。
※痛いシーン(拷問みたいな)が度々あるのでご注意ください。
──憎い。憎い憎い憎い
何故、こんな目に合わなければならないのか
彼は毎日毎日、黒いマグマのような怒りに燃えていた
彼は、産まれた時から鬼であった
物心ついた頃には、ここが地下深くで自分たちが他の者と違うことに気づき、こんな目に合っているのかと理解ができた
理解ができた……するしかなかった
自分を産んだ母は人間に目の前で殺された
口々に周りは言う
「災いの鬼!生かしてはおけぬ!!」
自分たちが何をしたと言うのだ!
彼──後に皇鬼と呼ばれる──は常々そう思っていた
こんな所へ幽閉され、身動きも取れないように硬く縛られ、食べるものはロクなものを与えられず弱りきった自分に何ができよう!
母は殺されたが、まだ幼かった彼が生きていたのは1人の占い師によってだった
「そいつは殺してはいかぬ。殺せば田は乾き富は消えうせ我々は飢餓で苦しむであろう」
未来が見えると言っていた占い師の言葉を人々は信じた
それからというもの、彼は生かされながら死んでいる生活となった
身体には、生傷が絶えず。爪もなく、常に空腹でいた。
人間たちに痛めつけられ、爪を剥がれ、食事は与えられず。
最初は憎しみの方が大きかった。だがその憎しみの炎は、衰弱するにつれ弱くなっていく。
いっそ、殺してくれればいいのに。
段々と意識が遠のく。思うように体が動かせない。
だが、ある日の一つのきっかけで幼い鬼は希望の星を見る。
「大丈夫?」
皇鬼は乾いた目を開け、話しかけてきた人物を見た。
まだ、自分と同じぐらいの子供だ。
あぁ、また虐げられるのだろうな、とまた瞼を閉じ、弱弱しく覚悟の拳を握る。
暫く経っても痛みが来ないので、また目を開けた。
すると、皇鬼の目の前には見たことない物が置かれている。
「食べて」
首を傾げる。
これは、食べ物なのか。
それか、新たな拷問だろうか? 過去に松明を口に突っ込まれた事があった。
皇鬼は、その食事に手を付けようとしない。
それを見て、子供は食事を一口食べる。
ニコッと笑う。まるでその食事が安全な事を示すように。
皇鬼は震える手でその食べ物を口に入れる。
美味しい。
生きるのに必要な身体の水分はギリギリなのに、涙が出てしまう。
手で掴める限り、食事を持ち口へと運ぶ。
生きてきて、初めてこんなにおいしい食事をした。
チラリと子供も見る。子供は微笑んでいた。
「ごめんね、これしか持ってこられなくて」
眉を下げた子供は、悲しそうな顔だ。
向けられた事のない視線に、皇鬼は戸惑う。
どうしてそんな顔をするのだろう。
初めての人間の表情に、思わず見つめてしまう。
「そろそろ行くね」
行ってしまった。
特に虐げられる事もなく、食事を与えられただけだ。
これがどういう事なのか、人間を憎い感情でしか見ていなかった皇鬼には分からない。
眠くなり、寝っ転がる。
この日は、母と一緒に寝ているかのように心地よく眠れた。
次の日。
また子供が来た。
今度は食事を持ってきてくれるだけでなく、何かも持ってきた。
皇鬼は食事にがっつく。また、今日も食事を与えられるなんて幸運だ。
子供は皇鬼が食べ終えたのを見ると、手を差し出してくる。
「……?」
「手出して」
子供が、何を考えているのか分からない。
今度こそ殴られるのだろうか。
おそるおそる手を差し出すと、何かを置かれた。
小さい石みたいなものが二つ。
これは、なんだろう?
「大人に見つからないようにね」
頷く。
これは、大人に見つかってはいけないものなのだろう。しかし、なぜ見つかってはいけないのか?
「汝(ナ)の怪我が早く治りますようにっていう願いを込めて作ったんだ」
その言葉に皇鬼は母を思い出した。
心配され、安堵を与えてくれ、温もりを与えてくれた母を。
そして同時に、人間への憎しみの炎も燃えついた。
この子供は何を言っているのだろう。お前も、母を殺した人間ではないか。
だけど──、この石は取っておこう。
この子供に何かをされそうになったら、この石を弱みにしておけばいい。
皇鬼はそっと、二つの石をボロボロになった帯に隠した。
「じゃあまた明日」
子供は、次の日も次の日も皇鬼の元へ来た。
食事を与えてくれ、物をくれ、歌を教えてくれ、世界を教えてくれた。
「これはね、イノシシの肉だよ」
「あげたのはね、耳環って言うんだよ。耳につけるの」
「この花は、……吾(ア)も分かんないや」
いつの日か、皇鬼はこの子供が来るのが楽しみになっていた。
共に歌い、笑うのがこんなに楽しい事とは。
皇鬼は自分が分からない感情が生まている。この感情は何というのだろう。
子供に聞いてみる。お前と一緒にいると、落ち着くし、心臓がくすぐったくなることを。
「えー、何だろう? 嬉しい、楽しい、喜び?」
子供にも分からない事だったか。
話を変えて、子供は自身の事を話してくれた。
「本当は汝を助けてあげたいんだけど……ごめんね」
首を横に振る。
この子供といて、分かったことがある。
人間には二種類ある。
憎い者と、憎くない者。
この世で憎くない者は母とこの子供だった。
子供が帰って行ってしまうのが寂しい。
同時に、この子供が会いに来てくれるならどれだけ血を流しても、痛くても、怖くても、耐えられる。
早く、あの子供に会いたいな。
その日、夢を見た。
自分は解放され、あの子供が隣にいる。
手を繋いで、星空を眺める夢。
皇鬼は知らない。次の日にその夢の一部が、叶う事になる事を。
次の日
また子供が来た。
しかし子供はいつもと表情が違う。見たことのない顔だ。
それは皇鬼でも、良くない表情なのが分かった。
子供は、斧を持ち皇鬼を閉じ込めている木を切った。
皇鬼は驚く。なぜそんな事をするのか。
そして、皇鬼の手を取った。
「逃げよう! 早く!!」
久々に血の温もりを感じた皇鬼は喜んだ。
しかし、子供はそんな皇鬼に寄り添う事もなく走り始める。
虐げ続けられた皇鬼の身体はボロボロだ。当然、動かすだけで痛い。
それでも、必死な子供に付いて行く。
久々に、外に出た。星空がとても綺麗だ。
あぁ、あの夢が現実になったのだ。
「ハァ……ハァ……あそこの森に隠れよう」
手を繋ぎ、星を眺めるだけでなく一緒にいれるだなんて!
皇鬼は歌う。嬉しい時は歌うのだと子供に教わったからだ。
子供はそんな皇鬼を見て、安堵した顔で見ていた。
皇鬼の歌が、大人の怒声にかき消される。
「あの鬼はどこだ!!」
「殺せ!! 殺せ!!」
「占い師は死んだ! あの占いもまやかしだ!!」
怒号は、自分へと発せられている。
自分は殺されるのだろうか?
だから、この子供は自分を助けてくれたのか?
「まだ走れる!?」
小さく頷いた。
正直、体力も怪我も限界だったが、子供が言うなら、それを聞いてあげたい。
もう一度手を握り、走る。
暫く走ったところで、皇鬼の身体が限界を迎えた。
脚が動かず、転んでししまう。
口に土が入った。感じた事のある味だ。
「大丈夫!?」
皇鬼は返事をできない。
呼吸をするので精一杯だったからだ。
脚が震えている。立つ事ができない。
子供は、皇鬼に肩を貸し座らせた。
震えている脚を見て、これ以上は走る事ができないと判断した。
どうすればいいのだろうか。このままでは、この小さな鬼が殺されてしまう。
子供は一呼吸をし、覚悟を決めた。
「あのさ、耳環持ってる? 貸して」
皇鬼はあの日、子供から貰った石を渡す。
これをどうするのだろうか。
「痛いけど、我慢してね」
子供はその辺にあった尖った石を皇鬼の耳に近づける。
そして、耳に痛み。なぜ、どうして、お前も憎い者の方だったのか。
皇鬼が子供に憎しみを向けたのは一瞬だった。
耳に、貰った石がついている。
石は、こうする物だったのか。
「ここでお別れだね」
子供が言う。皇鬼は目を見開いた。
別れ? どうして?
いつもみたいに、またね。ではないのか。
別れは嫌だ。人間と一緒にいる楽しさを教えてくれたのに。
また、独りになるのか。嫌だ。
子供の布を握る。行くな。という意志が込められている。
子供はその皇鬼の手を優しく握る。
「大丈夫。また会えるよ」
"また"という言葉。
これは次の日に子供に会えるという言葉だ。
皇鬼は手を離す。
「生きてね」
皇鬼は待った。
あの子供が来てくれる事を。
次の日になると脚の震えが止まっていた。
歩けるようになっても皇鬼はその場から動かなかった。
子供が来てくれる事を祈って、待った。
しかし、月が三度巡っても子供が来てくれない。
ある日、木の実を食べようと木に登っていた。
そして、人間の話声が聞こえてくる。
皇鬼はそのまま木に登ったまま、葉がたくさん生い茂る枝に隠れる。
見つかるとまずいからだ。
人間は何かを抱えている。あれは何だろう?
そして、その持っていた物を投げ捨てる。
"それ"は物ではない。──子供だ。
皇鬼の鼓動が早まる。目の前に映る光景が心臓を突き刺すのだ。
「ちっ この子供、最後まで喋らなかったな」
「にしても、ちょっとやり過ぎたか?」
人間が帰っていく。
完全に姿が見えなくなると、皇鬼は木から飛び降り子供に駆け寄る。
子供の顔は、腫れあがりあの優しい顔とは似ても似つかない。
声をかけるが、返答はない。指が痙攣している。
皇鬼は言葉を失った。あるはずの五本指が、五本ではない。
よく顔を見れば、片目が真っ黒だ。まるで、目玉がないように。
子供を持ち上げ、抱えたまま走った。
目には涙が次から次へと流れてくる。
これは、自分が受けてきた傷ではないか。
何故、どうして、
そして村から大分離れた、大きな木の元で子供を下した。
手にはべっとりと血が付いている。自分の血ではない。子供の血だ。
どこを触っても、手に血がつく。
子供が口を動かした。
何かを喋ろうとしている。
「……て……よ」
よく聞こえない。
「食べて、いい、よ」
皇鬼は首を振る。
嫌だ、いなくならないで、一緒にいて。
そう思っているのに、鉄の匂いに涎を垂らしているのに気付いた。
──人間を食べろ。それが鬼だ。
母に言われた言葉。
鬼は、人間を食べる事で強くなり、大きくなり、治癒能力が高まる。
だからこそ、鬼は人間を食べ続けた。
それは本能に刻まれ、止められない衝動だった。
子供は、鬼が人間を食べる事を知っていたのだろうか。
ならば、なぜ、助けてくれていたのか。
子供は、震える手を皇鬼の口につける。
「生き……て」
それが、最後に聞いた子供の声だった。
そして、木々が揺れる。人間よりも、動物よりも強い、強い、咆哮によって。
その咆哮は、村までも聞こえた。
村の人々は槍や弓を持ち、咆哮の元を辿る。
そして、見たのは
「ヒッ……!」
恐怖の声。
鬼はゆっくりとそっちを向く。
紅い瞳と、血だらけの口元に、人間は後ずさりをしてしまう。
槍を強く握り、刃を鬼へ向けた。
その瞬間には、もう人間は息をしていない。
心臓が貫かれている。
悲鳴が森を包んだ。
月明かりが照らすのは、複数の死体と、紅い鬼。
白かった鬼の姿は、血によって赤くなっていたのだ。
人間がいなくなった皇鬼は、死体を齧る。
──憎い。憎い!憎い!憎い!!!!
人間が憎い!!
どうして、人間は大切な物を奪うのか。
強くなろう。そして、人間へ復讐しよう。
人間は、生きていてはいけない種族だ。
強くなり、生きていこう。
それが、あの子供との約束だ。
数年後。
一つの村が滅んだ。
その村は何もかも燃やされ、歴史に名を残す事はない。
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