十一話
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あれから三ヶ月後のことである。
名無しさんの件は協会内でしか知られていない。
いや、あと知っているのは名無しさんの身内だけだ。
全員、この不可思議で不可解な事件に喚くのは最初だけであった。
葬式は身内だけで行われ部外者は一切立ち入ることは禁止された
花を添えることもできないとは、みんなの胸には後悔ばかり。
もう何回目の後悔だろうか。
世間で名無しさんは殉職、という形で報道されるそうだ。
しばらく社会は騒がしくなるだろう。現に今も静まってはいない。
そのため、アマイマスクの隣にはイアイアンが座っている。どうしようもない違和感に席を立ちたくなった。
「俺は、大切な友人一人救ってやれない駄目なヒーローだ」
イアイアンが言う。アマイマスクは無言でイアイアンを見た。
「こんなんじゃ……ヒーロー失格だな」
自分自身を嘲笑う。イアイアンが一番怒りをぶつけているのはあの白衣の男でも、鬼でもない。自分自身へとぶつけていた。
「アマイ、俺は……」
「まさかヒーローをやめるとか言うつもり?」
「……」
まさにその通りであった。心を読み取られたイアイアンは黙るしかない。
たった一人の人間を助けてやれなくて何がヒーローだ。
何が正義だ。そう思っていた。自分がヒーローをやっている資格などない。
「アイツが望んでたこと、君は何もわかっていないんだね」
「は?」
「君がヒーローをやめることを、アイツが承知すると思ってるの?それを望んでると思ってるの?アイツはきっと、平和を、正義を望んでるんじゃないの。それに、君がやめたところで、何も変わらないさ」
アマイマスクは思い出す
あの時の、ヒーローと名乗る男の言葉を
それを心に留めているからこそ、彼は今もヒーローを続けていられる
「だが、」
「これ」
アマイマスクが椅子に立掛けておいた白い布に包まれた細長い物を置いた
置いただけであったのでイアイアンは疑問に思う。
アマイマスクが動かないので、中身は自分で確かめろということなのだろう。
イアイアンは紐を解いて中身を確認した。
「あ……」
細長い物の正体は刀であった。
刀の尾には「雪月花」と彫られている。
この刀の持ち主は一人しかいない。
「どうして、これを」
「君が使ってればいいんじゃない」
「で、できるわけないだろ!」
名無しさんの刀だ。
共に戦い、名無しさんの名誉とも誇りともいえる刀だ。
そんな刀を自分が持っていていいわけがない。
「……墓と、一緒にしておくべきだ」
「どうだろうね。誰も入っていない箱に、自分の誇りを、名誉をただのお飾りにされるよりはこの先も戦わしてくれたほうがアイツは喜ぶんじゃない」
イアイアンは視線をアマイマスクから刀へと落とした。
鞘から刃を出してみる。曇りのない輝く銀色が自分の顔を映し出した。
なんと情けない顔をしてるのだろう
これがヒーローの顔か
「じゃ、僕仕事だから」
アマイマスクが部屋から出て行った。イアイアンはしばらく刀を見つめる
確かに、自分がヒーローをやめてどうなる?
それよりも、アイツが信じていた正義の道を進んでいったほうがよいのではないだろうか
下唇を噛みしめ、上を向く
ここで立ち止まっている場合ではない
いつまでも、情けない顔をして下を向いている場合ではない
少しでもいい。ちょっとずつでいいから過去を乗り越え進まなくては
「……わかった。暫く借りるぞ」
イアイアンは名無しさんの刀を腰へと携えた。
「……」
アマイマスクは靴音が響く廊下を歩いていた
どうしようもない混ぜ合わされた嫌な気持ちは未だ治っていない。
けれど足を止めている暇はない。
「……しょうがないから、君がなりたかったヒーローを目指してあげるよ」
アマイマスクは腰に携えた二丁の銃に触れる
名無しさんの誇りを、望みを無駄にはしない
「俺はいつかヒーローをやめてしまうけど、でも、世界が平和になってほしい気持ちはぜってぇ変わらねーから、だから、……そのために、戦ってくれよな。約束だぞ。もちろん俺も戦うけどよ」
いつの日にか、笑いながら名無しさんがそう言っていたことを思い出す
──約束は、果たされることになるだろう
1/1ページ